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「無職転生 ~異世界行ったら本気だす~」レビュー

5.0
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評価 ★★★★★(85点) 全23話

TVアニメ『無職転生 ~異世界行ったら本気だす』ティザーPV/2021年1月10日(日)放送スタート

あらすじ 現代日本に暮らす20年近く引きこもる34歳無職の主人公は、親が死去したのに伴い兄弟に見限られて家を追い出されてしまう。引用- Wikipedia

34歳無職ニート、そんな男の物語

原作は小説家になろうで投稿されていた作品。
監督は岡本学、制作はスタジオバインド

格の違い

この作品はいわゆる「なろう」作品だ。
なろうといえば俺つえーの限りを尽くし美少女を侍らせ出世していく。
そんな金、女、権力な男の夢を叶えてくれるような内容であることが多い。
何らかの理由で死亡し、異世界に転生し、神にチートな力をもらい
傍若無人の限りを尽くす。おそらくの多くの人はそんなイメージが有るはずだ。

この作品もそんな要素がないと言えば嘘になる。
1話冒頭は主人公がトラックに轢かれるシーンから始まるという、
これまたなろう作品のテンプレート的な始まりだ。
しかし、格の違いを見せつけてくれる。作画だ。

主人公がトラックに轢かれる、交通事故に合って意識朦朧となっている。
そんなシーンは生々しさすら感じる事故シーンであり、
降り止まない雨、怪我をしたからだ、朦朧とする意識の中で
聞こえてくる医者や周囲の声。自らの「死」を実感する。
そんな中で同時に意味不明な言葉も聞こえてくる。「異世界」の言葉だ。

自分が異世界転生してしまったことを実感するまでのシーンを丁寧に描き、
そこに「杉田智和」さん演じる前世の主人公の声による
モノローグが入ることで、一気に作品の世界に飲み込まれる。
自分へのツッコミ、心の中のモノローグがギャグにもなっている。

異世界の美女である母や女性への「性的欲求」、
赤ん坊な自分を赤ん坊と理解しながらも、前世の記憶があるからこそ、
「美女の下着」を頭から被り、胸の大きな女性に顔を赤らめる。
20年近く引きこもる34歳無職の主人公だったからこそ、
女性への欲求を抑えきれない。

「異世界」という未知の世界。
ファンタジーで魔法のある世界というのを本当に丁寧描写している。
魔法への驚き、異世界の文化への驚き、転生したことに対する驚き。
「剣と魔法」の世界に転生したことを自覚する流れを
1話の冒頭から10分ほど丁寧描写したからこそ、主人公への感情移入が生まれる。

杉田智和さんのモノローグもいい味を出しており、
怒涛のセリフ量を感情を交えながらどこか斜に構えた態度で読み上げるからこそ、
それがギャグにもなっている。涼宮ハルヒのキョン、銀魂の銀さん。

我々オタクには馴染み深く聞き覚えのある声による「モノローグ」がストーリーに
リズム感を生んでおり心地よさすら生まれている。
異世界転生からの異世界ということへの認識と世界観の説明が
モノローグのおかげでテンポを生んでおり、物語へのひっかかりがまるでない。

生半可な声優では成り立たない、下ネタともいえるものや、
34歳無職の前世の記憶を持つからこその「気持ち悪さ」があるのだが、
そんな気持ち悪さが杉田智和さんのモノローグのおかげで薄れており、
同時にラノベアニメ全盛期のアニメの雰囲気すら有る。

34歳無職の引きこもり。そんな彼が人生の最後で善行を積み、
異世界でもう1度チャンスが与えられる。
自分に向けられた家族や人の愛、1度は自分の人生が失敗したからこそ
彼は決意する

「この世界なら俺にだってできるんじゃないだろうか
人並みに生きて人並みに努力して躓いても立ち上がって
なお前を向いてできるかもしれない。こんな俺でも。
無職な引きこもりでクズな俺でも人生をやり直すことが」

異世界は90年代のラノベアニメブーム、
2000年代のラノベアニメブーム、そして今のなろうアニメブームで
擦りに擦り倒されたものだ。新鮮さというのはない。
だが、そんな擦り倒された世界観をしっかりと見せることで
王道の面白さをどっしりと感じさせてくれる。

この作品はすでに2期の制作も決定しており、
長期でアニメ化されることは前提だ。
だからこそWHITE FOXとEGG FIRMが共同で出資し、
この作品を制作するためだけのアニメ制作会社まで設立している(笑)

本気だ。格が違う。
制作側がこの作品を最大限の能力を持って面白いものにしようと
しているのが、1話でこれでもかと感じさせてくれる。
ベタな設定、ベタな世界観、ベタな導入だ。
手垢まみれの要素しか無いのにそれを面白く仕上げるのは生半可なものではない。

ルーデウス

ルーデウスという主人公は序盤はまだまだ子どもだ。
魔法の才を認められ、若い魔術師に魔法を教わることになる。
だが、そんな子ども中身は「34歳無職引きこもり」の男性だ。
それゆえに性的欲求が強い。

夜な夜な聞こえてくる両親の夜の営み、可愛らしい使用人たち、
若くて可愛い魔法の先生。そういった「性」を生々しいまでに描いている。
その反応は子供らしいとは言えない、どこか気持ち悪さの感じる
笑みを浮かべており、この描写に関しては好みが分かれるところだ。

だが、ここが他のなろう作品と違うところでも有る。
なろう作品どころかラノベ主人公の中には多くのヒロインに
想いを寄せられながらも、そういった欲求がないように見えるほどの
無反応をすることが多い。
しかし、この作品の主人公は違う。
子どもという立場だからこそ利用した行動や台詞は好みが分かれるところだ。

それは人はそんなに簡単にはかわれない証でも有る。
ひどいいじめにあい、親戚からも追い出されそうになった主人公の前世は過酷だ。
彼にとって「外の世界」は恐怖だ。
異世界で家族や師匠に愛されながらも、家から出ることへの恐怖には勝てない。
簡単に「ひきこもっていた」自分を変えることはできない。

人の目線、家の外、他人。生まれ変わったとしても恐怖心がある。
だが、前世と違うのは彼は1人ではないということだ。
彼を支えてくれる家族、そして師匠が居る。
師匠を超える魔法、師匠からの卒業、彼にとっての独り立ち。

彼にとっての新たな一歩だ。外の世界へ。
他者から認められなかった彼が「師」に認められたことで、
彼は一歩を踏み出す勇気を手に入れる。
外に出たという普通の人ならば当たり前のことが
彼にとっての大きな一歩となる。

魔法の才は彼のほうが上だ。だが、もっと大事なことを人生の師から教わる。

兄弟

この世界は度し難くも生々しい。
主人公の欲求もそうだが、その周りのキャラにも妙な生々しさが有る。
異世界でもいじめはある、父も不倫する、腹違いの弟妹もできる。

俺つえー!や成り上がりといった「なろう」にありがちな
ストーリーは一切描かれない。生々しいキャラクター同士のドラマだ。
いや、人生と言い換えてもいいい。
人が生きるうえでの渇望、欲求、人生を生きるうえでの人間の
欲望が一人ひとりにきちんとあり、それが生々しく描かれている。

決して主人公は裕福な家庭に転生したわけではない。
だが、貧困家庭でもない。主人公には才能は有るものの、チートというわけでもない。
その才能を腐らせるのも活かすのも彼次第だ。

前世の自分だったら、前世の彼だったら違う選択をしたかもしれない。
だが、1度失敗したからこそ、もう間違えたくない。もう後悔したくない。
そんな思いがあるからこそ、異世界でもう1度人生をやり直したいと
思っているからこそ、彼は正しくあろうとする。

それでもミスをすることが有る、人だからこそ完璧ではない。
間違えない人間など居ない。だが、同じ間違いをしなければいい。
多くの人と関わる中で彼は「生」を、今の人生を謳歌しようとしている。
前世ではできなかったことを、前世では果たせなかったことを。

家族と、幼馴染と、師と、生徒と、他人と関わり、
「働く」ことの大変さや有意義さを学び、後悔した人生を振り返る。
当たり前の人生だ。異世界では有る、だが、人として当たり前の
人生の楽しさや、苦労を1話1話丁寧に描いている。

転生したからこそ、転生前の記憶があるからこその物語が描かれている。
「異世界転生」という作品の根幹の設定を芯に捉え、
そこにきちんと意味を持たしたストーリーがしみる。

話しが進めば進むほど世界は広がっていく。
最初は家の外に出るのも怖がっていた少年が、家の外に、
別の国に、そして1クール目の終盤には「魔族」の国に飛ばされてしまう。
冒険者ギルドに登録して冒険者になりクエストをこなす。

他のなろう系なら下手したら1話で描かれるような展開だが、
この作品はそこにたどり着くのが10話だ。しかも、人の国ですら無い。
人の神との対峙、自分を異世界に転生させたものの存在、
徐々にこの世界の秘密が解き明かされようとしていく。

言葉も文化も理解できる環境から、
魔大陸という未知の文化と言葉すらも拙くしか通じない環境。
前世のままの主人公なら怖気づいていたかもしれない。
彼の異世界での成長と変化が終盤で生きてくる。

旅路の中での背景描写も素晴らしく、
「ファンタジー」の世界の描写を徹底した背景描写は
細かい部分まで思わず目が言ってしまう。
それぞれの街の文化を反映したような美術が散りばめられている。

この世界には当たり前のように「死」が満ちている。
だが、引きこもりとは言え平和に暮らしていた主人公にとっては
「死」は身近なものではない、殺しなんて以ての外だ。
彼の中には「日本人」としての倫理観が有る。

助けられるはずの命を助けられないことも有る。
目の前で、彼の判断ミスで「死」という現実を目の当たりにする。
異世界ではうまくやる、もう間違えない。そんなはずなのに間違えてしまう。
彼には魔法の才能は有る、だが、死者を蘇生するような魔法は使えない。
異世界だからこその「命」の価値観を彼なりに考えながら旅路は続く

災害

この世界は理不尽だ。主人公が日々の修行の中でいくら強くなっても、
彼の思うがままにはならない。
理不尽に訪れる災害、理不尽に訪れる状況、理不尽なキャラの行動。
別に主人公のせいではない、彼は彼なりに必死にやってきた結果だ。
だが、うまくはいかない。

それは前世の記憶があるゆえに、それは不器用な人との関わり方があるために。
人間は完璧ではない、人1人で出来ることには限界がある。
強くなる力とは裏腹に理不尽な現実が主人公を襲い、
主人公以外の人間も必死に理不尽な状況に立ち向かおうとしている。

一人ひとりのキャラに生々しいほどの人間味が有る。
主人公に怒る父親、つっかかってくる人々、彼らにも事情があるからこその台詞や態度だ。
そんな人とふれあい、主人公も考えを改めていく。
甘かった考えを、自分の態度や撮ってしまった行動を改め、
自分を見つめ直していく。

この作品のキャラは生々しい、人間味にあふれている。
だからこそ、見ている間に「イラ」っとしてしまうキャラも多い。
だが、それが面白さにも変わる。
それぞれのキャラクターがしっかりと描かれているからこそ、
彼らのキャラが描かれば描かれるほど愛着を持ってしまう。

不器用でクズな父親、暴力的なお嬢様、魔族としては異端のロキシーetc…
主人公を含め誰も彼も不器用だ。人は決して器用ではない、
器用に生きることのほうが難しい。
そんな不器用な彼らが理不尽な異世界で生きるさまが愛おしい。

災害で生きてるかどうかもわからない仲間や家族、
旅をしながら、過酷な現実を前にしながらも、
主人公は前に進む。

シリアスな展開は多い、だが、そんなシリアスな展開を引き伸ばしすぎず
ギャグやコメディタッチなキャラ描写をも交えることで、
重くなりすぎず引っ張りすぎない。
可愛らしく魅力的なヒロインの愛らしい姿も愛まり、
見れば見るほどこの作品にハマっていってしまう。

戦闘シーン

戦闘シーン自体はそれほど多いわけではない、
基本的に人間ドラマが描かれているからこそ、
戦闘シーンの重要性はそこまで高くない作品だ。
しかし、それでも随所に戦闘シーンは有る。
そんな随所に有る戦闘シーンの気合の入れっぷりが凄まじい。

スローなどでは決してごまかさない。
ハイピードでキビキビとキャラクターを動かし、それを演出で盛り上げる。
カメラワークはそれほど激しくはない、Ufotableのように
舐め回すようなカメラワークではなく、
あくまでカメラは固定し、絵を見せ、動きを見せている。
グダグダと引き伸ばさず短い戦闘シーンでケリがつく勝負。

決して俺つえーではない。むしろ主人公は負けることのほうが多い。
幼い頃は父に、少し成長しても理不尽な強さを持つ敵に
殺されかけることのほうが多い。
才能は有る、だが、決してチートでもなければ最強でもない。
だからこそ、彼は必死に生きようとする。

せっかく手に入れた異世界での幸せと絆。
「本気で生きよう」と思って手に入れたすべてを失いたくはない。
失う恐怖が常に彼を襲う、理不尽な敵も多い、
一瞬一瞬を、今を大切にし、生きようとしている。

だが、終盤で彼のそばからだれも居なくなる。
一緒に旅をしてきた仲間も、家族も、師匠も、幼馴染も、
ヒロインもそこには居ない。
1人だ。

前世

一人になったからこそ前世の記憶が蘇る。
いじめられていた日々、引きこもっていた日々、
あの日々を思い出し、同じ様になってしまう。
トラウマは簡単に乗り越えられるものではない。

長い異世界の旅路の果てに乗り越えたはずだった。
だが、それは仲間が家族が居たからこそだ。
全てをもう1度失ってはじめて自分自身の弱さを思い返し実感してしまう。
それでももう、彼は逃げない。

「この世界なら俺にだってできるんじゃないだろうか
人並みに生きて人並みに努力して躓いても立ち上がって
なお前を向いてできるかもしれない。こんな俺でも。
無職な引きこもりでクズな俺でも人生をやり直すことが」

彼は決意した、この異世界で本気を出すと。
前世とは違う、この異世界で前を向いて人生をやり直すことを決めている。だからこそ1歩を踏み出す。

誰かに言われてではない、仲間がそばに居たからこそではない。
自分自身だけでたった1人で自分に向き合い歩き出した1歩。
彼自身はまだ自分自身の価値を認めきれては居ない、
それでも多くの人が彼に影響されてきた。
この世界で本気を出すと決めたからこその1歩がラストで描かれる

総評:

全体的にみて素晴らしい作品だ。
圧倒的な世界観の描写、細かい背景美術やキャラ描写は語りだしたらキリがない。
ストーリー的にはいわゆる「なろう」な異世界転生ものだ。
しかしながら、そんな今やベタとも言える要素を徹底的に掘り下げる。
主人公の前世、異世界での生き方、異世界での強さ。

そんな1つ1つの要素を丁寧に丁寧に、これでもかと掘り下げる。
容赦のない展開も多い、せっかく愛する家族や仲間や友人ができたのに
中盤では災害のせいでバラバラだ。あっさりとその状況は覆らない。
主人公はたしかに才能は有る、だがチートではない。
負けることも多く、だからこそ強くあろうと、もっと強くなろうとする。

前世での後悔が彼の原動力にもなっている。
そしてこの世界での出会いや絆が1歩を踏み出す勇気に繋がっている。
まだ1歩踏み出しただけだ。ここからだ、ここからが大事だ。
またすべてを失ってしまったからこそ、仲間も居ない状況で
彼はどうこの異世界であがくのか。

セクハラ描写や性的な表現も非常に多い。
主人公の前世での状況やオタク的なモノローグなど、
いわゆる「万人受け」する作りをあえてしていない。
だが、言い換えれば妥協のない作り方だ。万人受けしないような要素をあえて省かずに、逆に誇張してすらいる。

艶めかしいシーンの数々はヒロインの魅力にも繋がり、
前世の記憶があるからこその主人公のいやらしい顔や行動の数々が
際立っており、この作品だからの主人公の魅力にも繋がっている。
彼の変態的な行動にうげっとなってしまえばこの作品を受け入れがたいかもしれない。

だが、この作品は34歳無職引きこもりニートだった男の再生の物語でも有る。
前世で本気を出す、そんな決意と1歩が2クールかけてどっしりと
描かれている作品だった。

個人的な感想:続きは?

続きが気になって仕方ない。
まだ発表されたばかりでありいつ放送になるかは未定では有るものの、
シンプルに先が気になる。
2クールでは解決していない要素も多く、謎もかなり残っている。
だが、それが欠点ではない。

2クールでは主人公の独り立ちと一歩を描いており、
そのテーマがしっかりと作品の中心にあり、
色々と2期に残している部部分はあるものの、そこは特に気にならず、
純粋に先が見たいと思えるようになっている。

要素だけ抜き出せばいわゆる「なろう」でよく見かけるものだ。
異世界転生、ギルド、クエスト、奴隷etc…
しかし、そんなよく見かけるものをしっかりと掘り下げたからこその作品だ。

2期を見るのが今から楽しみで仕方ない。

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  1. T より:

    いつもの異世界転生ハーレムものと変わらないかな。
    違う点は作画の良さと主人公の性格だな。
    主人公の性格はヤバいね。ほとんど性犯罪者だよ。子供であることをいいことにやりたい放題。人生やり直すと言う割には省みない承認欲求の塊。普通は好きになれないよ。

  2. 正義はたのしーね^^ より:

    とても良かったと思う。
    主人公について色々と言われているけど、私は気持ち悪さについてかなりマイルドに表現されている方だと思った。
    主人公が気持ち悪いと思うのは妥当だと思うけど、20年近く引きこもっていることがいかに常軌を逸しているのか軽視しているのではないだろうか。主人公に少しでも理想を抱くのはやめた方がいいかもね。どーでもいいけど、原作勢からすると3期が楽しみで仕方がない。