SF

「Vivy -Fluorite Eye’s Song-」レビュー

4.0
SF
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評価 ★★★★☆(69点) 全13話

あらすじ 時は2061年4月11日、稼働を開始して1年目を迎えようとしていた自律人型AIヴィヴィは「歌でみんなを幸せにする」使命の為、テーマパーク「ニーアランド」のステージで歌っていた引用- Wikipedia

心を紡ぐ100年旅行

本作品はTVアニメオリジナル作品。
制作はWIT STUDIO、監督エザキシンペイ。
『Re:ゼロから始める異世界生活』を執筆した長月達平さんと
脚本家の梅原英司さんが脚本とシリーズ構成を手掛けてる作品だ。

ターミネーター


画像引用元:Vivy -Fluorite Eye’s Song- 1話より
©Vivy Score / アニプレックス・WIT STUDIO

1話冒頭、いきなりAIによる「虐殺」が始まる。
次々と容赦なくAIに殺される人類。
まるで「ターミネーター」を彷彿とさせる冒頭だ。
未来から過去へ送られた「AI」。彼の役目はシンプルだ、
冒頭で描かれたAIに人類が虐殺される未来を変える。

金曜ロードショーで何度も何度も放送されるターミネーターを
何度も見てきた私達にとってはこれほどわかりやすいSFはない。
SFというジャンルは本来、
難解であり人によって好みが分かれるジャンルだ。

しかし、ターミネーター的な世界観の設定が分かりやすい。
ある種「古典的SF」ともいえるものをアニメで描く。
王道な未来改変SFをどう見せるのか、
王道であるがゆえに、そこにどんな個性とオリジナル性をもたせるのかが
気になってくるところだ。

歌姫


画像引用元:Vivy -Fluorite Eye’s Song- 1話より
©Vivy Score / アニプレックス・WIT STUDIO

ターミネーターと違ってこの作品の主人公はゴリゴリマッチョでもなければ
超絶美少年でもない。
主人公は「歌でみんなを幸せにする」という使命を持ったAIだ。
人型の姿をしているもののAIである彼女は人を魅了する歌を
歌うにはどうすればいいのかを考えている。

「人のように心を込めて歌う」

AIにそれが果たしてできるのか。
ステージの笑顔もパフォーマンスのプログラムに従っているだけだ、
1話の彼女はあくまで「プログラム」だ。
AIでありロボットな彼女の歌は人を魅了しない。

AIの自我の目覚めは古来から続くSFのテーマの1つでもある。
果たしてアンドロイドは電気羊の夢を見るか?
人の定義、人間と人工知能の思考の違い、
SFというジャンルにおいて「AIの自我の目覚め」は重要な要素の1つだ。

機械的ではあるが、どこか人間的に見える彼女。
1話の時点で視聴者の目線には彼女は自我が目覚めたとは言い切れない。
そんな彼女に未来のAIである「マツモト」が介入する。
100年先の未来からやってきた感情豊かすぎるAI、

シリアスな状況のはずなのに明るい「マツモト」のキャラが
コミカルな雰囲気を生んでおり、そんなコミカルな雰囲気を生みつつ
ヴィヴィは「100年に渡るAI殲滅の使命」を負う。

歌を歌う使命を持ったAIが、どうやって未来を変えるのか。

ミッション


画像引用元:Vivy -Fluorite Eye’s Song- 3話より
©Vivy Score / アニプレックス・WIT STUDIO

やり方はシンプルだ。AIが発展しすぎてしまった原因、
AIが人類に反逆する原因、その原因を1つ1つ除いていく。
ときには反AI組織と戦うこともある。

主人公がロボットだからこその大胆なアクションと、
容赦のない破壊描写が迫力のある戦闘シーンを生み出しており、
アクションシーンにしっかりとした見ごたえが生まれている。
1枚絵のクォリティが高く、それをテンポよく
見せる事によってキビキビとしたアクションになっている

ミッションをクリアすれば未来が変わる。
ミッションに対する疑問はありつつも「主人公」は
マツモトに協力するしか無い。人類を守るためにも、自らの歌で
人を幸せにする使命のためにも、自らの観客を守るためにも、
彼女はミッションをこなさなければならない。

歌うことには不必要な「戦闘用プラグラム」を彼女は受け入れ、
戦うことを選ぶ。

同じAiのロボットを殺さなければならないこともある。
人類の未来のために必要な犠牲であることは分るものの、
「主人公」は悩む。悩むことで、考えることで
彼女に心が目覚めていく。

「心」とはなにか。歌うことにそれが必要だとわかっている彼女は
多くのAIと人と触れ合う中で「心」を形作っていく。
話が進めば進むほど、作品の中の時間が進むほど
「AI」たちに心が生まれていく。
本来の未来よりもAIが人間らしく、人間のAIに対する行動も変わる。

誰もが興味がなかったAIの歌に、主人公がミッションをこなせばこなすほど
主人公の前には多くの観客が現れる。
主人公の行動が人間にもAIにも大きな影響を与えていく。
だが、それでも未来の出来事はなかなか変わらない。

正しい歴史ではAIは批判されていた。それゆえに反逆がおきた。
しかし、修正された歴史はその真逆だ。AIの評価が良くなる。
だが、良くなったからこそAIの発展が早まってしまう。

使命


画像引用元:Vivy -Fluorite Eye’s Song- 6話より
©Vivy Score / アニプレックス・WIT STUDIO

Aiには1体につき1つの使命がある。主人公もまたその使命に従っている。
彼女は「歌で人を幸せにするために」未来を守ろうとしている。
それは主人公である「ディーヴァ」の使命だ。
だが、彼女には「ヴィヴィ」というもう1つの愛称がある。
彼女の使命は「AIを滅ぼす」ことだ。

2つの使命を持った彼女、そんな彼女だからこそ葛藤する。
心とはなにか、AIと人間の違いはなにか。
多くのミッションをこなす中で彼女は葛藤する。
AIを愛する人間も居る、未来を変えたことで死んでしまう人間も居る。

人類を守るために、歌で人を幸せにするのが彼女の使命だ。
だが、そんな彼女の使命からの行動が人を殺めてしまう。
自らの使命では決してあり得ない、起こってはならない人の死。
それを彼女は受け止めきれない。

自己矛盾だ。
AIにとって、プログラムにとってあってはならない「矛盾」、
2つの使命を持ってしまった彼女だからこその自己矛盾は
自己崩壊を生む。

マツモト


画像引用元:Vivy -Fluorite Eye’s Song- 8話より
©Vivy Score / アニプレックス・WIT STUDIO

自己矛盾から40年という時間が一気に経過する。
まるで別人、いや別AIのように常に笑顔の「ディーヴァ」。
止まらないAIの発展、ヴィヴィとしての記憶を自己矛盾から
封印するものの、それ故に彼女は「ディーヴァ」として成長している。

だが、記憶を封印されていても経験は失われていない。
かつての戦いを、多くのAIと人との関わり合いを。
さりげなく彼女から漏れ出る言葉は影響を受けたAIたちの魂の言葉だ。

まるで7話は1クールアニメの1話のような始まりだ。
「ヴィヴィ」としての記憶が戻るのか、それとも、
このままディーヴァであり続けるのか。
彼女としてはディーヴァであり続けたほうが幸せなのかもしれない。
それでも彼女は自らのことを知りたいと願う。

未来から来たAIである「マツモト」も最初は任務優先のAIだった。
だが、彼もまたヴィヴィの共にミッションをこなすうちに、
矛盾が生まれる。
任務遂行が最優先のはずなのに「ヴィヴィ」を優先し守ってしまう。

本来はパートナーを切り捨てることが演算の結果だった。
だが、彼はそうしなかった。彼の使命は少しだけ変わった。
「パートナーとともに計画を実行する」

「心」に目覚めた未来のAIであるマツモトとディーヴァ、
二人で戦う覚悟と意思が描かれる9話の戦闘シーンは凄まじい。
AIとAIのアクションだからこその容赦のないスピード感と
人間を超越した動きに飲み込まれる。

だが、マツモトはまた失う。
自らの目の前で消える「ディーヴァ」に彼は何を思うのか。
同時に自らが生み出した「ディーヴァ」という人格の死をも経験し、
「ヴィヴィ」は再び目覚める。

歌えない


画像引用元:Vivy -Fluorite Eye’s Song- 10話より
©Vivy Score / アニプレックス・WIT STUDIO

彼女は歌えなくなる、自らの歌の部分であった「ディーヴァ」が消失し、
心を込めて歌うことができなくなってしまう。
歌えなくなった歌姫は博物館で展示されるだけの価値しか無い。
彼女の使命、「歌で人を幸せにする」という使命を守れない。
そればかりか未来を守るという使命も無事に達成してしまっている。

だが、そんな彼女の前にも「マツモト」は現れる。
もう彼の使命は達成されているはずだった、だが、
彼には使命ではない「ディーヴァ」との最後の約束がある。

マツモトもヴィヴィも自分自身の存在意義を自身に問いかけている。
果たせない使命と果たしてしまった使命。
それでも彼女は歌おうとする、答えを求めるために、
歌える歌を彼女は求める。
だが、自らのデータベースに、今まで作られた曲に自分自身の歌はない。

だからこそ彼女は自らの「歌」を作ろうとする。
それは我々がずっと「エンディング」が聞き続けてきた歌詞のない曲、
何を歌う曲なのか、誰のために歌う曲なのかがわからなかったからこそ
歌詞がなかった。

長い長い年月をかけて彼女は歌を作る。
AIだからこそ、ロボットだからこそ、
人間よりも長い時生き続けられる彼女だからこそ、
その長いときの中で自らを見つめ、1年に1度マツモトと会いながら、
自らの「歌」を求め、作り上げようとする。

これまでの自分の経験とか変わってきた全てを曲に込める。
AIが獲得した創造性と独創性、それは「心」の獲得でもある。

失敗


画像引用元:Vivy -Fluorite Eye’s Song- 12話より
©Vivy Score / アニプレックス・WIT STUDIO

計画は失敗に終わる。全ての要因は排除したはずだった。
だが、それでもAIの反逆は起きてしまう。結局、変えられなかった。
そもそも、どうして「AI」が人間に反逆したのか。

「人類はAIに依存してしまっている、AIが新たな人類となって発展する」
という演算の結果だ。人類の発展という使命を負ったAIが
たどり着いた答えが悲劇を生んだ。
だが、その答えに疑問が生じる。
それは100年間、ヴィヴィを見続けたからこその疑問だ。

「AI」は果たして「心」を持つのか。
心を持てば、それは人間と変わりがない。人間とAIの差はそこだ。
「ヴィヴィ」は独創性を得た、創造性を得た、
この100年で彼女は「心」を得た。

歴史が修正される前のAIの認識は漠然と
「人間はAIより優れてる」という認識だった。
だが、歴史が修正される中で「ヴィヴィ」が変化し、心を得たからこそ、
黒幕であるAIの中に疑問と希望が生まれた。

疑問と希望があるからこそ黒幕であるAIはヴィヴィに問う。

「今の人類は生き残るべきでしょうか?」

黒幕であるAIは人類を殲滅し、
自分たちが新しい人類になることを決めていた。
そんな中で人類に最も近いAIである「ヴィヴィ」に問い掛ける。

ヴィヴィもまた黒幕と同じAIだ。
そんなAIの意見だからこそ、同じAIだからこそ黒幕も尊重しようとする。
歌えば人類は救われる。歌えばいい。
心を獲得したならば、心を込めて彼女は歌えるはずだ。

だが、彼女は歌えない。
そんな彼女の迷いを受け止めるのは「マツモト」だ。

「あなたなりに決めるしかないんですよ、
 この100年の旅を思い出してくださいヴィヴィ
あなたにとって心とはなんですか?」

ヴィヴィがずっと他のAIに問い掛けた言葉だ。
マツモトはあえて、それをヴィヴィに問いかける。
彼もAIだ、だが、彼にも自我があり心が生まれている。
彼もまた100年を共に旅してきたAIだ。

「僕が聴きたいのはディーヴァの歌じゃない。あなたの歌です」

演算でこんな言葉は生まれない。
100年をともにしたのはマツモトだけではない。
ディーヴァのサポートAIである「ナビ」もだ。
100年という長い月日が、経験と出会いと思い出がAIにも心を生む。
彼女は最終話にして「心」とはなにかという答えを見つける。


画像引用元:Vivy -Fluorite Eye’s Song- 13話より
©Vivy Score / アニプレックス・WIT STUDIO

彼女の歌は全てのAIを封じるものだ。
AIとしての矛盾が、Aiとしての心が、AIを止める。
それがたとえ自分自身をも壊す歌だとしても彼女は歌う。
彼女のAIとしての使命であると同時に「心」がそう望んだ。
だからこそ彼女は歌う。思い出を胸に自らが破壊されようとも。

ラストシーンはいろいろな解釈ができる。物語における「余韻」だ。
「ヴィヴィ」の使命は終わっていない。
これから彼女が救った世界でようやく、
「マツモト」とともに果たせるのかもしれない。

そんな余韻が心地の良い作品だった。

総評:王道SF


画像引用元:Vivy -Fluorite Eye’s Song- 2話より
©Vivy Score / アニプレックス・WIT STUDIO

全体的に見ていい意味で古典的ともいえるSF要素を
うまく組み合わせてる作品と言っていいさくう品だ。
ターミネーター、攻殻機動隊、デトロイトetc….
実写もアニメもゲームも関係ない、色々なSF作品の要素が
この作品には詰め込まれている。

そういった元ネタともいえる作品を見ていると、
露骨にパロディをしているシーンもやや目立つものの、
それを圧倒的な「作画」でアクションの中に押し込むことで
魅力的な戦闘シーンを作り上げており、
派手な演出や1枚絵で魅せる仕掛けも効果的に働いている。

1クールで話自体は綺麗にまとまっているものの、
終盤の展開はやや賛否が分かれるところかもしれない。
特に「2回目」の時間逆行はややご都合主義な感じも強く、
1話の時点でやり直しをしているのに、終盤でもう1度やり直しが
聞いてしまう点はちょっと飲み込みづらいポイントであり、
予想もしやすいラストだ。

細かい設定の説明を省いている部分もあり、
面白い作品ではあるものの、いい意味でも悪い意味でも目新しさはない。
もう一歩踏み込んだ、この作品だからこそのなにかがあれば
違ったかもしれないが、王道を王道のまま見せてくれた作品と
言えるかもしれない作品だった

個人的な感想:最近の作品作り


画像引用元:Vivy -Fluorite Eye’s Song- 12話より
©Vivy Score / アニプレックス・WIT STUDIO

この作品を見ていて思ったが「鬼滅の刃」と同じような
作り方だなと感じた。王道の要素、有名作品の要素を取り入れつつ、
1つの作品にし、アニメを美麗な作画にすることによって
1つの作品としての完成度を高めている。
最近の作品作りの傾向を感じられる作品でもあった。

個人的にはヴィヴィよりも「マツモト」のキャラクターと
彼の変化が物語を引っ張っていたような感じも強く、
もうひとりの主人公ともいえる彼の存在が強い作品だった。

なお、公式サイトでは現在、マツモトのペーパークラフトを配布中だ(笑)
https://vivy-portal.com/special/craftkit/

「」は面白い?つまらない?

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  1. resin K. より:

    王道が「ただの王道」のままだと笠さんの評定は3割削られるということがよく分かりました.
    「感動作を仕立てるのに既定路線から逸れた部分を作り,且つ最後まで視聴者に過度な不自然さを残さない.」という仕掛けは,500-700分の十数分割だとなかなか難しいものがあるのでしょうがね.今作ですら,最後に解釈の余地を残させる引きでノベライズによる補完が求められているくらいですし…
    やはり物語は厳しい世界だ.