踊れアミーゴをやりたければ、僧侶を連れて来い。「クレヨンしんちゃん オラの引越し物語 サボテン大襲撃」レビュー

評価★☆☆☆☆(11点)全104分
映画 クレヨンしんちゃん オラの引越し物語 サボテン大襲撃 [DVD]

あらすじ
ひろしは、メキシコの町に生息するサボテンの実を集めるために双葉商事の部長から転勤を命じられる。はじめは単身赴任を考えていたものの、みさえから「家族はいつも一緒!」との一言により一家総出でメキシコへ引っ越しすることに。

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踊れアミーゴをやりたければ、僧侶を連れて来い。

本作品はクレヨンしんちゃんの映画作品。
クレヨンしんちゃんとしては23作目の作品となる。
監督はB級グルメの橋本昌和、制作はシンエイ動画

見だして感じるのは淡々さだろう。
いつもの野原家の日常が普通に描かれる中で
「ひろし」の出世と「メキシコ支社への転勤」が決まる。
物語の主人公がどうにも「しんのすけ」ではなく、
「ひろし」な印象が冒頭から強く出ている。

更に「感動路線」の押し売りが強い。
オトナ帝国、戦国と感動的なクレヨンしんちゃんが続いた時期から
クレヨンしんちゃん映画は「暗黒期」に入り、毎年迷走する中、
ようやく一昨年の「B級グルメ」で原点回帰を果たし、
去年のロボとーちゃんで名作を再び生み出したにも関わらず、
また、迷走路線に入ってしまっている。

「野原家の引っ越し」という焦点は悪くはない。
子供の時代に誰もが経験してるであろう友達との別れは、
「風間くん」の子供だからこその心理描写でよく表現されているが、
その反面でしんみりした曲を流しながら引越し準備風景を淡々と描写したりと、
どうにも地味かつ、淡々としてしまっている。

「ひろし」目線での我が家の回想シーンや風間くんとの別れのシーンなど、
確かに「感動的」にも見えるシーンなのだが、
あくまでもそういった雰囲気が出ているだけで、
取ってつけたような感じが強い。

随所随所のシーンは悪くはないのに、
そのシーンとシーンを繋ぐシーンが適当になってしまっており、
せっかくの感動できるようなシーンが盛り上がりきれない。

本来、クレヨンしんちゃんは子供向けの作品だ。
しかし、この作品は過去の迷走時代の作品のように
子供の目線を失ってしまっている。
「大人が見る」事を意識した作品作りになりすぎてしまっており、
そのせいでギャグがあまりにも少ない。

淡々とした展開、ギャグの少なさ、ストーリーのテンポの遅さなど
今までのクレヨンしんちゃん映画ではあまり感じにくい欠点が生まれており、
一言で言えば子供向けギャグアニメ映画として致命的なまでに
「勢い」が足りない。

これは突っ込んではいけないのかもしれないが言語の問題もあっさり解決しすぎだ。
「メキシコ」に引っ越してきた当初はしんのすけの一人称である
「オラ」がメキシコの挨拶になることをネタにしていており、
みさえが「言葉が一番不安」ということも口にしている。

にも関わらずメキシコ着いたシーンの10分後にはペラペラだ。
作中でどれくらいの時間経過があったのかわからないが、
野原家は翻訳こんにゃくを食べたかのごとくあっさりメキシコ語を喋っている。
これだけあっさり言語問題が解決するなら「オラ」ネタや、
みさえのセリフなどは省いたほうが違和感は薄まっただろう。

子供が楽しみづらい内容にもかかわらず大人が見ると突っ込みどころが多すぎる。
例えばヒロシはわざわざメキシコに転勤してまで
「特別なサボテンの実」をメキシコで仕入れるために転勤する。

だが、現地のサボテンの実の収穫をしている人達とは
交渉がまったくもって進んでいない。
ある程度話が付いている段階で日本への仕入れをスムーズにし、
現地でのトラブルを解決するために現地に転勤するならばわかるが、
まだ話もまともに聞いてもらえない営業段階で
転勤というのは荒唐無稽すぎるだろう。

話の本筋も中々見えてこない。
物語の序盤から中盤までが淡々としすぎており、
話の方向性が中々見えてこない。
ようやく物語が始まって40分でストーリーが動き出す、正直遅い。

ネタバレになるがヒロシが求めていたサボテンが
実は「人を食べる」サボテンだったことが判明し、
メキシコがパニックになるところからようやく物語が盛り上がる。

簡単に言ってしまえばこの作品は
「踊れアミーゴ」をもう1度正しい形でやりたかったのだろう。
あの作品は冒頭から終盤間際まで
子どもたちに強いトラウマを残し、大人でも怖いと感じるほど
「ホラー映画」としてある意味、素晴らしい作品だった。
(オチは台無しな感じが強いがw)

もう1度、あの踊れアミーゴのホラーパニック映画をやりたくて
この作品をやったんだなというのはものすごく伝わるのだが、
根本的に踊れアミーゴに比べて圧倒的に「恐怖感」が足りない。

色々な大きさのサボテンが人間を次々に飲み込んでいくのだが、
子供向けを意識したせいかグロさのようなものは一切なく
「サボテンが人を食べる」というシーンをあまりにもあっさり描きすぎており、
踊れアミーゴのトラウマ級の強さを味わった人にとっては
物足りなさ過ぎるだろう。

メキシコが舞台ということでオリジナルキャラも大量に出るのだが、
掘り下げが甘く、そんなオリジナルキャラが
食べられてもなんの感情移入もできない。
これならば引っ越しさせず春日部のいつものキャラクターが
食べられるという展開のほうが恐怖心を出せただろう。

せっかくひとくいサボテンが暴れまわっていても、展開は淡々としている。
サボテンに襲われるような展開になっても「サボテン」という外見のせいで
恐怖感は薄く、基本的に似たような感じで逃げまわるシーンが多すぎる。
キャラクターの行動もストレスを貯めるような行動が多く、
その1つ1つに行動が冗長でテンポが悪すぎる。

ストーリー的にもサボテンは結局「自然発生」的に生まれたものであり、
いわゆる悪役が居ない。
そのせいでストーリーの深みのようなものがなく、
似たような展開の繰り返しで終わってしまっていた。

全体的に見て勢いが足りなかった作品だ。
過去の作品に比べて長尺であり、そのせいか1つ1つのシーンが間延びしており、
せっかくのパニックホラー的要素は恐怖感や緊迫感が薄まってしまっており、
前半の引っ越し要素から後半のパニックホラーになるまでのストーリーも長く、
これでギャグが多ければ気にならなかったのかもしれないが、
極端にギャグシーンが少ないせいで余計に間延びしてしまっていた。

引っ越しという要素とサボテンによるパニックホラー要素、
この作品を構成する2つの要素が見事に絡み合っていない。
メキシコを舞台にするならば「かすかべ防衛隊」のキャラにそっくりな
メキシコ人幼稚園生を出すだけでも違ったはずだ。

物語の主人公も完璧に「ひろし」になってしまっており、
「クレヨンしんちゃん」という作品の主人公をサブキャラにし、
ひまわりに関してはモブキャラのような扱いだ。
内容そのままにドラえもんにキャラを置き換えたほうが
ひみつ道具が活躍して面白そうだ。

一言で言えばクレヨンしんちゃんの映画でありながら
クレヨンしんちゃんの要素が薄い。
クレヨンしんちゃんらしい要素は冒頭の20分位であり、
その20分間は悪くないのだが、冒頭の20分の感じを
生かせないままに中途半端に終ってしまった作品だ。

踊れアミーゴのあのホラー感じを出したければ再度、
踊れアミーゴの脚本家である「もとひら了」を呼び戻すしか無いだろう、
僧侶になった後にあの脚本を書き、
現在は住職という意味不明な経歴を持つ彼だからこそ
あの踊れアミーゴという迷作が生み出せたのだ(笑)

個人的な話になってしまうが、本作品で月日の流れを感じてしまった。
園長先生を演じた納谷六朗さんは本作公開前に亡くなっており、
ななこお姉さんを演じていた紗ゆりも亡くなり伊藤静さんに変更された。
吉永先生も2年ほど前から七緒はるひさんに変わっており、
私が子供時代に聞き慣れ親しんでいたクレヨンしんちゃんが
徐々にだが、確実に変わっていっているのを感じ、
少しセンチメンタルな気分になる作品だった

去年のロボとーちゃんが名作だっただけに
肩に力が入ってしまったのだろう。
この作品を堺にまたクレヨンしんちゃんが
暗黒期に入らないことを願いたい。