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生々しさと冗長さのグリムガル「灰と幻想のグリムガル」レビュー

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評価★★★☆☆(48点)全12話
灰と幻想のグリムガル Vol.5(初回生産限定版) [Blu-ray]

あらすじ
「目覚めよ」という声を受けて目を覚ましたハルヒロは、自分がどこともしれない闇の中にいること、そして名前以外の何も思い出せないことに気付く。同じ境遇の12人が揃って外に出ると、そこは赤い月が照らす地「グリムガル」であった。

生々しさと冗長さのグリムガル

原作はライトノベルな本作品。
監督は中村亮介、制作はA-1 Pictures。

見だして感じるのは独特な背景の描き方だろう。
普通に描いた背景に「水彩画」でもう1度塗ったような独特の背景をしており、
キャラクターは普通に描かれている。
背景とキャラクターの区切りがしっかりしており、
この作品特有の独特な雰囲気が出ている。

1シーン1シーンの「絵」の質は非常に高く、
安定した作画の質で描かれる「異世界で生きる普通の少年少女たち」の日常と、
「グリムガル」という異世界の世界の雰囲気はよく出ている。
だが、その反面でものすごく「まったり」している。

「丁寧」といえばそれまでなのだが、
自分の名前以外は記憶喪失で突如として異世界に来てしまった少年少女たちが、
何もわからないままに生活するためになんとか暮らしていく。
モンスターを殺し身ぐるみをはぎ、それを売れと言われ、
少年少女たちのファンタジー世界での生活が始まるという感じだ。

ただ、これだけのわかりやすい世界観とストーリーの序章の説明ですら
「ぐだーっと」「まーったりと」「ゆーっくり」と
キャラクター同士の会話で、見ている側は知る事になる。
他のアニメならナレーションベースで5分で済みそうな物語の説明を
10分掛けて描いているような感覚だ。

一言で言えばストーリーを早く進めてくれと思うほどスローテンポだ。
最近のアニメは1クールが基本であり3話が勝負と言われるパターンが多く、
いわゆる視聴を「切られない」ために序盤は盛り上がるシーンで
視聴者を惹きつけるパターンが多い。
しかし、この作品の場合が逆だ。惹きつけられる要素は薄い。

じっくりと丁寧にスローテンポで描くことによって
ファンタジー世界での普通の人間たちの「心理描写」を生々しく描いているが、
はっきり言って「今、その話を挟む必要があるのか?」というようなシーンも多い。
その余計なシーンが登場人物たちの「生々しさ」や
「ファンタジー世界での生活感」を出すために必要とも言えるのだが、
余計なシーンを除けば1話でゴブリンを倒す話もできたはずだ。

だが「丁寧」&「生々しい心理描写」を演出するために
あえてゴブリンを初めて倒すまでの話を2話構成にしているような感覚だ。
その演出を「丁寧」と取るか「冗長」と取るか。
見る人の好みや受け取り方によってかなり違うだろう。

たかがゴブリン、されどゴブリン。
剣を握って戦い、相手の生命を奪うことなどしたことがない少年少女が
命がけでゴブリンと戦い何とか勝利するが、時には敗北する。
描きたい内容はしっかりと伝わり、その描きたい内容が
描かれているシーンは「生々しく」「リアル」で確かに面白い

しかし、作品で描きたい内容が描かれるシーンにたどり着くためのストーリーと
テンポが他のアニメならば1話、へたしたらAパートだけで描くことを
このアニメの場合は2話分の尺で描いている。

盛り上がる戦闘シーンとストーリー展開の間を
まったりとした「ファンタジー世界での暮らし」で繋いでおり、
それが普通に描かれるならば好みが分かれないかもしれないが、
曲をがっつり流しながらセリフ無しで淡々と見せるシーンなどもあり、
せっかくのキャラクター同士の関係性の描写や重要なイベントなど
きちんとした台詞がある中できちんと見たいと感じる部分も少なくない。

じっくり描いているのに、ゆっくりとしたストーリー展開なのに
見たいと感じる部分がきちんと描かれないのはもどかしさが強い。
曲を長々と流して「雰囲気」づくりのつもりなのかもしれないが、
流石に重要なシーンでそれをやられると完璧に萎えてしまう。

「え?ここで止め絵?」
「え?ここで歌流しちゃうの?」
と、せっかく盛り上がってるのに、せっかく素直に面白いと感じていたのに
高ぶった感情をわざとへし折られるような演出は好みの以前の問題だ。
特に挿入歌に関しては雰囲気をぶち壊している。

前述した水彩画で描かれた背景はたしかに綺麗であり、
1枚絵で見ればクォリティは高い。
だが、止め絵でそれを見せられてもアニメーションとしての面白みは薄く、
そこは止め絵で見たくないというシーンを止め絵にしてしまう。

ストーリー的にも序盤から中盤までがきつい。
このレビューで書いてきた殆どの欠点では前半から中盤に濃縮されており、
テンポの遅さから見るのをやめてしまった人も多かっただろう。
逆に言うと6話あたりからこの作品の欠点要素が薄れていき、
見やすさが強まっていく。

しかし、序盤から中盤の欠点が薄れていくと同時に
作画は不安定なことになっていく。
序盤から中盤までは戦闘シーンでの作画はよく動いており作画も安定していたが、
中盤からはせっかくの戦闘シーンでも作画が微妙に崩れていたりと、
それを「誤魔化す」演出が目立っていたりと残念だ

全体的に見て面白い所と欠点が両極端に目立っている作品だ。
異世界召喚という最近の流行り傾向の作品でありながら、
主人公は弱くパーティーも弱い。
そんな彼らが必死に生き抜くためにモンスターを何とか倒していく様子と
厳しい現実の間で悩みながらも少しずつ成長していくストーリーは面白い。

その反面でリアリティや丁寧さを出すために
ストーリーのテンポを遅くしてしまっており、
彼らが特別でないからこそ成長もゆっくりなのはわかるが、
あまりにも遅いストーリー展開は人によっては退屈に感じてしまう。
この部分のせいで人によって合う合わないが大きく出てしまっている。

更に頻繁に挟まれる挿入歌のせいでせっかく盛り上がっている感情の
腰を折られてしまう演出が非常に多く、
止め絵の多さや作画の不安定さなど、
せっかくのこの作品の面白い部分の脚を引っ張ってしまっているところが
多いのは残念な所だ。

灰と幻想のグリムガルという作品の面白さを確かに感じることは出来るのだが、
その面白さを100%アニメで表現しきれていないもどかしさが強く、
そのもどかしさのせいで、原作の面白さも薄めてしまっている感じは否めない。
演出やストーリー構成を除けば80点の作品になるのに、
その2つの要素が50点の作品にしてしまったような感じだ。

ストーリー展開がゆっくりなのは構わないが、
せめて物語の一区切りとも言える8話を6話までにして欲しかった所だ。
8話でようやく原作で言うところの1巻が終わる。
この作品でやりたいことは分かるのだが、物語の終着点は全く見えてこないのも
やや気になるところではある。

個人的には中村亮介監督作品は尽く合わないんだなーと
実感してしまった作品だ。
この監督の演出事態は確かに綺麗なのだが、
それがアニメとしての面白さに繋がっていない演出はどうにも合わない。
この作品は別監督で見たかったと、ひしひしと感じてしまった。

売り上げ的には1巻はイベントチケット効果もあり5000枚前後、
しかしながら2巻では3000枚前後と右肩傾向が強く、
2期が狙えるかどうか非常に微妙なラインだ。
原作ストックは十二分にあるようなので
2期をやるなら監督を変えて2クールくらいでガッツリ見たい所だ。

「」は面白い?つまらない?

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