評価 ★★★☆☆(45点) 全12話
あらすじ ボードレールに心酔する少年、春日高男。抗いきれぬ衝動のままに、密かに想いを寄せる佐伯奈々子の体操着に手を掛けたその時から、彼の運命は大きく揺れ動くことになる 引用- Wikipedia
マタ….ハナガサイタヨ….
原作は漫画な本作品。
監督は長濱博史 、制作はZEXCS
ロトスコープ
この作品で1番の特徴とも言えるのが「ロトスコープ」という技術だ。
最近で言えば「ひゃくえむ」などでもロトスコープが使われており、
これは簡単に言えば実写で映像を撮影し、それをトレースする形で
アニメーションにする手法だ。
通常のアニメと違って省かれてしまうような細かい動きまで
アニメーションとして取り込んでいるため、
独特なニュアンスを感じられるのがロトスコープであり、
動きの部分ではリアルになる利点があるものの
表情はどこか生々しいものになってしまう。
リアルというよりも「変にリアル」という表現が正しい。
このロトスコープの作画や動きを受け入れるかどうかが
「このアニメを最後まで見れるかどうか」の最大のポイントの1つとなっている。
この作品に限らずロトスコープは好みが分かれやすい。
私個人としてもあまり好きな手法ではなく、
モーションキャプチャーもそうだが、立っているだけの登場人物が微妙に揺れたりし、
今作では作画の枚数を削るためなのかとことん静止しているシーンが有ったりもする。
その生っぽさとアニメという嘘が入り混じった結果、
この作品は独特の気持ち悪さを産んでいる。
この生々しい動きは面白く、作品のテイストにはあっており、
他の作品では味わえない「独特の現実感」が作品の雰囲気を後押ししている。
変態性?
ロトスコープという手法だけでも好みが分かれるのに
ストーリー的にも好みが分かれる部分がある。
主人公はどこか斜に構え、少し変わった本が好きな中学生だ。
そんな彼が思わず「クラスメイトの体操服」を盗んでしまい、
盗んでいる所をクラスのとある女子に見られてしまう所からストーリーが始まる。
そのとある女子こと「仲村」さんが問題だ。
彼女は主人公を悪への道へといざなう。
主人公自体は中学生や小学生という年代ならクラスには1人は居たかもしれない
「普段はあまり喋らないやつで好きな女子の笛を盗む」ような奴が主人公だ。
しかし、彼は出来心、思わずやってしまった自分の罪を後悔し嫌悪する。
一時は自分の罪をさらけ出そうとしたくらいだ。
だが、そんな彼に対し「仲村さん」は彼の衝動をまるで
擁護するかのように行動をする。
わざと彼が盗んだ体操服の持ち主である「佐伯」を呼び出し
彼の背中を押し胸に顔をぶつけたり、
彼の変態行為を「作文で提出」させようとしたり、
あげくには盗んだ体操服を着せる始末だ(苦笑)
彼女が何故そういった行為を彼にするのか、
それは彼女自身も「社会からずれた」感性の持ち主だからこそだ。
ストーリー的にはその二人を中心に物語がゆっくりと進んでいく。
テンポ
ゆっくりと書けば聞こえはいいが「テンポ」は悪く、
心理描写が大切なこの作品においては確かに
丁寧に描くことは重要だが話があまり進まない。
普通のアニメなら1話でやりきってしまうような展開を
3話まで伸ばしているような感覚があり、変に空く「間」や背景を写すシーン、
意味があるのかわからないシーンなど
登場人物の心理を情景にを現したいのは分かるのだが、5分以上無言で歩くシーンなどもありそのせいで物語のテンポがかなり悪くストーリーが全く進まない。
衝撃的かつ印象に残るシーンに至るまでだらだらっと展開し、
急にインパクトの強いシーンを描写する。
この抑揚の強さは作品の「陰湿さ」や「心理描写」の演出にはなっているのだが、
肝心の話が進まないならばテンポの悪さと暗さで見るのが疲れるだけだ。
特に後半はその傾向が強く尺稼ぎに感じるシーンも多々見られるのも厄介だ。
全13話ではなく、全11話なら作品の印象ももう少し違っただろうが、
変に間延びしてしまっている。
不思議な三角関係
ストーリー自体はよくある学校トラブルが基本だ。
主人公が体操服を盗む、給食費が盗まれる、クラスが荒されるなど
その中で「不思議な三角関係」が築かれることで物語に深みが増している。
「主人公」は「佐伯」のことが好きだが,彼女の体操服を盗んだ罪がある。
「仲村」はその罪を目撃し「主人公」と契約を結び変態を謳歌する、
「佐伯」はなぜだか「主人公」に途中から好意を持ちだす。
と、この三角関係が非情にいじらしい。
主人公が佐伯といい感じのシーンを繰り広げたかと思えば、
その直後には物凄い目線で「仲村」が現れたり、
夜中に突然つれだしたりと、シンプルに怖い。
彼女は別に怒ったりはしない。主人公に対し変態的行動を強要するだけだ。
「仲村」が主人公に対して怒るのは彼が普通の人間になろうとするときだけだ。
自分と同類であってほしいと主人公に望むものの、それを拒否する。
だが彼女の命令に逆らえば好きなこの目の前で水をブッカケられる始末。
この三角関係がどうなるのか。この作品は歪すぎる「ラブコメ」だ。
変態行為
体操服を盗んだ主人公と狂ったヒロインと正統派ヒロインの三角関係の中で
生々しいまでの変態行為と犯罪行為を繰り広げる。
初デートで服の下に盗んだ体操服を着せられている主人公など
他の作品ではありえないだろう(笑)
話が進めば進むほど主人公は仲村と佐伯の板挟みになる。
佐伯の前では綺麗な自分で居たい、だが体操服を盗んでしまった
汚れた自分への自己嫌悪に悩まされる。
そんな自己嫌悪を更に深め、自己嫌悪を仲村がくすぐり、
主人公は徐々に徐々に壊れていく。
だが、それは正しくは「解放」されていくといったほうが正しいかもしれない。
終盤では正統派ヒロインにしか見えない「佐伯」の言動や行動まで面白くなる。
彼女は体操服を盗まれた張本人のはずなのに、
その犯人である主人公を犯人と知っても頑なに彼と付き合い続ける。
なぜそこまで彼女が変態糞虫の主人公に固執するのか、
狂ったヒロインである「仲村」よりも理解不能だ。
だが、それゆえに面白い。
2期はない
最初は理解できなかった仲村のほうがキャラクターとして
見れば見るほど理解が深まるのだが、その一方で正統派ヒロインだったはずの
「佐伯さん」の主人公に対する極度の愛情ともいうべき行動や言動は
こちらの予想をはるかに超える。
主人公も終盤は「仲村」に固執しだす。
見ている側の想像や予想できない展開や言動の数々を繰り広げており先が読めなく、
見れば見るほど深みにハマる面白さがあるのだが
残念なことに物語がく面白くなってきたところで最終話を迎え
更に2期でやるような内容を総集編のごとく描いてしまう。
これで2期があれば話は違ったかもしれないが、
アニメから12年経ってもそういう情報はなく、
1期で終わってしまったのが少しもったいない作品だった
総評:1度見たら絶対に忘れられないアニメ
全体的に見てものすごく好みの分かれる作品だ。
ロトスコープという独特の作画と生々しいキャラクターデザインは
原作の絵柄とはかけ離れており、このあたりは放送当時は賛否両論を産んだ。
だが、そんなキャラデザやロトスコープの部分だけでの話題で終わらず、
この作品自体もしっかりと話題になったのは内容の特異性にある。
物語自体は青春ラブコメとも言えるのだが、
「仲村」という狂ったキャラと主人公の陰鬱とした態度や
言動など好みの分かれる内容になっており
更にそこに独特の間や尺稼ぎと感じてしまう冗長なシーンやストーリー構成など
強烈に好みの分かれる作品になってしまっている。
その強烈に好みが分かれる先に面白さが眠っている。
見れば見るほど気になってくる不思議な三角関係、壊れていくキャラたち、
この愛憎劇の行く末は目が離せないものになっているが、
それを感じ取るまでのハードルの高さがあまりにも高い。
1度見たら確実に忘れられないアニメではある。
キャラクターデザインにしろ、EDの「ハナガサイタヨ」と
何度もいう曲は耳に残るなんてものじゃない、トラウマレベルだ。
そういった意味での特殊さ、今もなお語られるアニメとして
歴史に刻んだと言えるかもしれない。
まだ見たことがない人は試しに1話だけでも観てほしい。
きっと二度と忘れることのない記憶を刻みつけられるはずだ。
個人的な感想:2期さえ…
これでストーリーがアニメはアニメとして完結していれば
1つの完結した作品としてロトスコープでやりきった独特の作品と評価できたかもしれないが、
2期を期待させるような内容を描写してしまったことでその評価がしづらい。
再レビューの前の時点で2期さえあれば…と私は何回も
書き連ねていたが、そうならなかったのは残念だ。
ロトスコープという試みは面白く、ロトスコープによる雰囲気も出ていたが
素直に原作絵でアニメにしていたらどうなったのか。
逆にそれが気になる作品でもある。
「もし」の話でしか無いが、ロトスコープ版、実写版、そして普通のアニメ版と
3つのバージョンがあればその3つを比較しながら見るというような
試みができれば面白いかもしれない。
このアニメのあとに映画化もされ、そして2026年にはドラマ化もされる。
もしかしたら、本当にリメイクされる日は来るかもしれない。
そのときに「ロトスコープ版のほうが面白かった」というような声も
出てくることを、私はひっそりと期待している。



