評価 ★★★☆☆(50点) 全117分
あらすじ 女子大学生の「花」は、教室で、ある男と出会い恋をする。彼は自分がニホンオオカミの末裔「おおかみおとこ」であることを告白するが、花はそれを受け入れ2人の子供を産んだ引用- Wikipedia
子育ての呪縛
本作品は細田守監督によるオリジナルアニメ映画作品。
制作はスタジオ地図
細田ブランドの始まり
細田守監督は前作である「サマーウォーズ」で注目された監督だ。
興行収入12億円というサマーウォーズの記録は
当時のアニメ映画としては異例な数字であり、ジブリでもドラえもんでも
クレヨンしんちゃんでもない映画が大ヒットしたことで
「細田守」という監督に注目が集まった。
宮崎駿監督が何度目かの引退宣言をしたり、
一時制作部門を解体したりする中で、日テレは「ポストジブリ」を求めた。
そこで白羽の矢がたったのが細田守監督だ。
ジブリでハウルの動く城の監督をする予定だった男、
そんな男がサマーウォーズで大ヒットした。
白羽の矢が立つのは当然だ。
前作の脚本家である「奥寺佐渡子」とともに脚本を仕上げ、
キャラクターデザインも前作と同様に貞本義行氏が手がけ、
さらに制作会社も立ち上げている。
新たなジブリを作ろう、第二の宮崎駿を作り上げようとする
大人たちの動きが目に見えてわかる。
細田守ブランドの始まり、それが本作品だ。
ただ、前作と違って「脚本」に彼自身もかかわっている。
結婚
物語は主人公の娘である「雪」が母親の過去を語る形で描かれる。
国立大学に奨学金で通い、生活費はアルバイトで稼ぐ。苦学生だ。
家族のいない彼女はグレることなく、真面目に大学生をやっている。
そんな彼女が気になるのが「影」のある男だ。
細田守監督作品によく出てくる「影」のある男の描写はさすがであり、
クールな感じなのに子供には優しく、長身でイケメンな彼に主人公は惚れてしまう。
この時惚れていなければ彼女の人生は違っただろう。
互いに孤独だからこそひかれあったものがあるのはわかる、
「家族」にあこがれ、「家」を持つことにあこがれる。
そんな二人の恋愛模様は微笑ましい、ほほえましいが、
彼女が恋した男は「オオカミ男」だ。
人間と狼が交わった存在、ほかに同じような存在がいるかはわからない。
だが、DNAは普通の人間ではない。
出産
彼が狼であることを明かし、秘密を共有したからこそ二人は深く、深く結ばれてしまう。
この時にせめて「避妊」していれば違ったかもしれない。
だが、大学生の恋は燃え上がりやすい。
同棲し、あっさりと妊娠し、出産する。
そうかと思えば二人目も妊娠する。年子だ。
これで狼男が生きていれば幸せな生活が描かれただろう。
だが、唐突にオオカミ男はよくわからない理由で亡くなり、
死体はごみ収集車にポイされる(苦笑)
もう少し亡くなった理由が明確なら飲み込めるのだが、
明確にしない、細田監督の頭の中で完結し、次のシーンにかわる。
細田ワープは奥寺さんと脚本を手掛けているころから発揮している。
キャラクターが脚本家の都合で動かされ、
その都合の過程もきちんと描かないからこそ「?」となってしまう。
細田監督も理解しきれていない、
細田監督自身が父を早くに無くし、父というものをわかっておらず、
だからこそ常に「父」という存在が曖昧なものとして描かれてしまう。
今作の場合は名前すらでてこない。
おそらく今作までは奥寺さんがそこをうまく補助しているのだろう、
きちんと最低限、主人公とオオカミ男がくっつく流れを丁寧に描き、
死ぬという流れ自体は突飛ではあるものの、
そこに至るまでの流れはまだしっかりとある。
引っ掛かりこそすれど、ギリギリスルー出来るのが本作品の特徴でもある。
特に娘である雪のナレーションが
主人公の足りてない部分を補足したり、主人公の心理描写を補強していおり、
キャラクターの心理描写のわかりづらさはなく、
人によってはキャラクターに共感も生まれるはずだ。
育児
シングルマザーになった主人公は二人の子供を育てることになる。
誰か頼ることもできず、バイトも辞めなければならず、
貯金を食いつぶし、近所には虐待を疑われる。
普通の子供でさえ大変なのに、二人の子供は「オオカミ」に変身するせいで
普通に育てることも難しい。
彼女自身も迷っている。
二人をどう育てればいいのか、人間として育てるべきなのか、
それともオオカミとして育てるべきなのか。
迷った中で彼女は周囲からの鑑賞を恐れ逃げるように田舎へと赴く。
盛り上がりどころというものは薄いものの、
シングルマザーな彼女が「田舎」で人の世話になりながら
子育てに奮闘する様子は微笑ましく、
演出家たる「細田守」の「日常描写」の見せ方へのこだわりを強く感じる。
日常描写というのは飽きを感じやすい部分だ。
だが「子供」たちの子供らしい動きを丁寧に描き、
基本的にあまりカメラを動かさずにカットでシーンを見せている。
あまりカメラに動きがないからこそ、あえてカメラを動かすシーンで視線を誘われる。
特殊な子育て、特殊な環境だ。
だが、それでも主人公は弱音を吐くことがない、
だからこそ多くの人が彼女を助けてくれる。
「辛いときは笑うようにしているの。父の葬式の時も笑っていて、
不謹慎だと言われた」
そう彼女は言っている、彼女が笑っていることは辛いことの証だ。
それを涙や苦悶した表情で見せることは簡単だが、
あえて「笑顔」として見せているのが細田守の演出であり、怖さでも有る。
ご都合主義なところもある、狂気じみたところもある、
だが、どこか現実的なところもある。
その不思議なバランスでこの作品は成り立っている。
成長
生活が少し安定しても成長すれば新たな問題がでてくる。
普通の子育てでも問題がでてくるものだが、
二人の子供は半分は「オオカミ」だからこそ、
普通の問題が普通の問題ではなくなる。
子ども同士の喧嘩にしても一歩間違えば大惨事だ。
だが、その大惨事にはならない。そのあたりでもご都合主義感を感じるものの、
二人の子どもたちが「別の方向」に成長していくことで物語の行く末が
予想できなくなってくる。
「雪」は人間になろうとし、「雨」はオオカミになろうとしている。
あっという間に時間は流れ、子供は成長していく。
描いていることは普遍的な子育てにおける「あるある」だ。
子ども同士のいざこざだったり、兄弟喧嘩だったり、思春期だったり。
そのあるあるを「オオカミ」という要素でエンタメに仕上げている。
呪縛
ただラストの「ふわっ」と感は後の細田守監督作品でも
ありがちな部分だが、今作からそれを感じる部分だ。
大雨の日に「雨」は山へと登り、
彼はオオカミとして生きることを選ぶ。
この作品はある種の子育てという「呪い」の話だ。
子供を持った親は子供に縛られる、多かれ少なかれそうだ。
今作の主人公である「花」はその呪いに強く縛られている。
シングルマザーとして、オオカミの血が混じった子供を育てる、
生半可な覚悟や努力でできることではない。
そんな呪いから親はいつ解放されるのだろうか。
子供が独り立ちし、子離れしたときに解放されるのかもしれない。
子育てというものを妊娠、出産から描き、最後は子離れで終わる。
「雨」の方は分かるものの、「雪」のほうは中学から寮生活という
唐突な子離れであり、人間として生きる彼女はまだ
親でありつづけなければならないはずなのだが、子育て終了!
みたいになっているのはやや唐突感はある。
あくまで雪視点での話であり、雪にとってそう感じたからこその
セリフではあるものの、ラストの主人公の「笑顔」の変化が
細田守節を感じさせる部分だった。
総評:何回見てもしっくりとは来ない
全体的に見て随所随所、魅力を感じられる作品だ。
作品全体として描かれる「子育て」と「親の呪縛」を、
オオカミとの混血児というファンタジー要素でより、
1つ1つの要素を際立たせており、ただの子育てものでは
終わらない作品になっている。
細田守さんの演出家としての見せ方、絵コンテやカメラワークもさすがであり、
あえてあまりカメラを動かさずに見せ、時折大胆に動かし、
アニメーションで感情を揺さぶる。
主人公である花の「笑顔」の描写は歪ではあるものの、
その歪さこそが細田守節でもあると感じさせてくれる。
料理や背景の描写、美術周りへのこだわりも強く感じ、
強い没入感を感じさせてくれる画作りと、
どこか憂いを秘めたキャラクターたちの描写は
細田守監督らしい描写だろう。
この作品で泣けるという人がいるのもわかる。だが、私は泣けない。
この作品もおそらく今回のレビューでの視聴にくわえて
3回以上は見てるはずなのだが、しっくりとこない。
ところどころに感じる違和感、細田守監督が言いたいことと
伝えたいことに納得できないというズレが私を長年、
細田守との相性の悪さに繋がっているのかもしれない。
個人的な感想:母性
先日、金曜ロードショーでやったせいもあって
この作品が少し話題になったが、
この作品に対する女性の描き方に違和感を覚える人は多いようだ。
奨学金でいい大学に通ってたのに男にうつつを抜かし中退し、
田舎で二人の子供を育てる、その状況自体に拒否感を示す人も多く、
主人公に対する負担は子育てを女性に押し付けるものだ、
理想すぎる母親像だと言う人も多く、納得もできる部分だ。
この作品だけでなく、この作品以降もそうだが、
細田守監督自身が脚本に関わった作品の中にある細田守監督自身の価値観と、
私自身の価値観が恐ろしいほどにミスマッチなのだろう。
だからこそズレが生まれ、いまいち飲み込みにくく、しっくりと来ない。
この価値観に共感できる人は感動できる、
そして多くの人が感動できるんだろうなという
どこかさめた目線で見てしまい、深く掘ろうにも掘れない。
この作品が浅いというわけではないとは思うが、
掘った先にあるかもしれないもに価値を見いだせない。
打ち上げ花火をお金を出して下から見ることに価値観を抱いているのが
細田守さんだとすれば、
私はそこに価値を見いだせず離れた場所で横から見ているような感覚だ。
だからこそ何度見てもしっくりと来ない感じが生まれてしまうのかもしれない。




