サスペンス

「虚構推理」レビュー

サスペンス
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評価 ★★★☆☆(57点) 全12話

あらすじ ある日、琴子のもとに、怪異から相談が持ち込まれる。それは、真倉坂市という地方都市で「鋼人七瀬」と呼ばれる怪異が暴れているので対処してほしい、というものだった。引用- Wikipedia

これはひどい嘘だ!?

原作は小説な本作品。
監督は後藤圭二、製作はブレインズ・ベース。

ヤギを侮ってはならない


画像引用元:虚構推理 1話より
©城平京・片瀬茶柴・講談社/虚構推理製作委員会

この作品の語りは非常に独特だ。主人公は病院で男に出会う。
そんな彼女は彼に「一目惚れ」をする。
その際の彼女の台詞がこうだ。

「山羊のような人だ」

彼女がそうつぶやくと、心のなかで「山羊」について解説する(笑)
その解説が終わると彼女は自分が一目惚れしていることを実感する。
遠回しすぎる表現からどストレートな表現につなげることで、
主人公である「岩永 琴子」という少女が「どんな」キャラクターなのか
というのをきっちりと印象づける。

彼女は2年近く彼を思い続け、1話の5分足らずで
「結婚を前提に付き合ってほしい」と告げる。
あまりにも一途でまっすぐな彼女の可愛らしさが凄まじい。
2話の時点で別に付き合っても居ないのに「彼氏」にしてるのも
彼女らしく、それが微笑ましくもあり、彼女のキャラクターを感じさせる。

怪異


画像引用元:虚構推理 1話より
©城平京・片瀬茶柴・講談社/虚構推理製作委員会

この作品の世界には「怪異」がそこかしこに存在する。
主人公は怪異に子供の頃「2週間」さらわれ、
片足と片目を大小に知恵の神になった少女だ。
主人公が恋した男性は怪異の肉を食べた男だ。
彼は「人魚の肉」を食べされられたことで「不死身の身体」になった。

怪異と契約した少女と、怪異を食べた男。
そんな二人のキャラクターを1話で強烈に印象づける。
物語の主軸になる二人の印象を1話できっちりとつけることで
「この先」どんなストーリーになるのかという期待感をいだかせる。

虚構


画像引用元:虚構推理 2話より
©城平京・片瀬茶柴・講談社/虚構推理製作委員会

この作品はミステリーというジャンルだ。事件が起こり、探偵がそれを解決する。
しかし、この作品はそんなミステリーの中でもかなり独特だ。
依頼主は「怪異」だ。知恵の神になった主人公に怪異たちは様々な相談をする。
怪異が起こす事件を解決することもあるものの、
人間が起こす事件を解決することもある。

例えば2話。男性を殺した女性が山奥の大蛇の怪異が住む沼に捨てた。
もうすでに犯人は女性であることは警察の調べで分かっている。
しかし、怪異としては不思議でたまらない。
女は死体に重しすらつけず、女は死体を投げ捨てるときに

「うまく見つけてくれるといいのだけれど」

とつぶやく。
なぜ、山奥の沼にわざわざ死体を捨てたのか。
死体を発見してほしいなら山奥の沼に捨てるのは不思議でしか無く、
人間の「不合理」ともいえる行動を不思議に思い、
大蛇は知恵の神に頼る。

言葉と言葉のぶつかり合いだ。あやかしの疑問、そんな疑問を主人公が推理する。
淡々と主人公は新聞や捜査で知り得た情報を解説しつつ、
大蛇に対し「こうなんじゃないか?」と推理を披露する。

主人公の推理はあくまでも「仮定」だ。
主人公自身が警察なわけでもなく、殺人を目撃したわけでもない。
あくまでも知り得た情報からありとあらゆる「仮定」を推察する。

それが正しいとは限らない。
あくまで彼女がやることは怪異たちが抱えていた疑問に
対する答えを提示することだ。怪異たちがその答えに納得すればいい。
たとえ真実が違っても、怪異が納得できる推理であれば
それは怪異にとっての真実だ。

「虚構推理」
まさにタイトルの通りの虚構だ。状況や知り合えた情報から作り上げた虚構の推理。
その「フィクション」、作り話を怪異が納得すれば
それは怪異にとっての真実になる。

ミステリーでありながら推理する探偵が真実ではなく、虚構を作り上げる。
長々と彼女はありとあらゆる虚構を組み立て、怪異との会話の中で
怪異が納得の行く答えに導く。とんでもない会話劇だ(笑)

見ている側も何が真実で何が虚構なのか、
主人公が語った推理が本当なのかがわからなくなる。
なにせ「大蛇」が納得したはずの推理があっさりとその後の主人公の
言葉で覆る。

人間は合理的ではない、だが怪異にとっては合理的ではないことが納得できない。
だからこそ主人公は合理性のある辻褄が合った虚構推理を披露することで
怪異の疑問に答える。
犯人が沼に死体を捨てた理由は何なのか。
まだ本編を見ていない人は無性に気になるはずだ。

この作品の本質である「虚構」とこの作品の方向性が
2話と3話できっちりとわかる。

セリフ量


画像引用元:虚構推理 7話より
©城平京・片瀬茶柴・講談社/虚構推理製作委員会

ただ、この作品は原作が小説という媒体でなおかつミステリーという
ジャンルであるがゆえにセリフ量が非常に多い。
事件の詳細や、その事件にまつわる過去の出来事などを淡々と
回想シーンをみせながら語るシーンも多く、
1話1話のセリフ量が非常に多い。

怪異との戦闘シーンなどもあるものの、基本的には会話劇だ。
だからこそ淡々と会話を繰り広げているシーンが非常に多く、
しかも、やや冗長なシーンが多い。
特に3話以降からのテンポの悪さは顕著だ。

主人公が一目惚れをした不老不死の男ともいつの間にか仲良くなっており、
本来はそこもきちんと見たかったのに描かれずじまいなのは
違和感が強い。

鋼人七瀬


画像引用元:虚構推理 6話より
©城平京・片瀬茶柴・講談社/虚構推理製作委員会

3話のBパートからは「鋼人七瀬」という怪異の事件を扱う。
1話完結でこそ無いにしろ、3話までは1話ないし2話で事件が解決しており、
3話のAパートの時点では「こういう感じの短い話を解決していく」ストーリーを
予想してしまう。しかし、この作品は違う。

3話Bパートから最終話までずっと「鋼人七瀬」だ。
人の噂が形作る怪異である「鋼人七瀬」、虚構を題材にした作品だからこそ
人々の噂というなの虚構が生み出した怪異というのは
この作品にふさわしい怪異ともいえるのだが、解決に時間がかかりすぎだ。

人が作り出した虚構の怪異に虚構推理でどう挑むのか。これ自体は悪くない。
彼女が真実を織り交ぜつつネット上に自らの虚構を流すことで、
不死身である「鋼人七瀬」を退治しようとする。
この作品でやりたいことは明確かつわかりやすく、面白い。

現実で起きてしまった虚構だったはずの怪異による殺人事件。
それを打ち消すためには主人公が
「怪異で起きた殺人事件ではない」という虚構推理を提案しないといけない。

つまりは嘘だ。
ミステリーにおける主人公は探偵であり、彼らは真実を解き明かす。
しかし、彼女は別だ。彼女は真実を濁し、虚構の推理を真実として披露する。
単純なミステリーよりも数倍に難易度の高いことをこの作品はやっている。


画像引用元:虚構推理 10話より
©城平京・片瀬茶柴・講談社/虚構推理製作委員会

真実をいかに真実として見せず、フィクションを真実のように見せるのか。
しかも「犯人」が存在する。意図的に虚構の怪異を生み出すものが存在し、
ネット上で虚構を流し、怪異を生み出そうとするもの。

虚構と虚構。虚構のぶつかり合いはまるで推理ではなくディベートだ。
どちらの論が見てる側を納得させるものになるのか。
相手を打ち負かすのではなく、大衆を納得させればいい。
そこに真実や正解は必ずしも必要がない。

真実を突きつけるのではなく、虚構で丸め込む。
彼女が推理を披露するのは犯人ではなく「大衆」だ。
ネットという電子の海にたゆたう「名無し」に彼女は虚構の推理を投げかける。

当然「名無し」は彼女の虚構に反応する。
彼女の推理に反論するもの、穴をつくものも当然いる。
だが、それにもきっちりと彼女はさらなる虚構を重ねることでより、
虚構を虚構ではなく真実に見せる。

そして、その虚構を信じるものも現れる。あくまでもネット上の論争だ。
大衆は刑事でもなければ探偵でもない。
あくまで「鋼人七瀬」というネット上の噂の怪異に興味をいだいた大衆でしか無い。
何が真実かなど誰も知らず、その情報に興味をいだいただけだ。

だからこそ「面白い」虚構に興味を惹かれ、「ありえそうな」虚構を信じる。
大衆にとって求めていた虚構を提示し、大衆が信じたいものが真実になる。

冗長


画像引用元:虚構推理 11話より
©城平京・片瀬茶柴・講談社/虚構推理製作委員会

ただ、この「大衆」と主人公の論争が長い。
主人公はありとあらゆる虚構を大衆に提示する。
1つ1つ丁寧に丁寧に虚構の回想シーンで見せつつ1つ1つの
虚構を視聴者に見せる。

その虚構自体は面白いものの1つ1つが長い。
事件の解決まで見ると、その1つ1つの虚構が必要だったとわかるものの、
それを終盤ずっと見せらせるのは代わり映えのしない絵面を
ずっと見せられている感じが強い。

内容自体は面白いものの、溺れるほどのセリフ量が
アニメーションという媒体では映えない。
ずーっと「彼女はこうであーででこうだったからこうだったのだ」というのを
見せられっぱなしの終盤だ。

序盤で1話ないし2話完結で色々な怪異の問題を虚構推理で解決する。
という作品の方向性が見えていたのに、3話以降は実は
そうでなく作品全体で1つの事件を解決する物語になっている。

「鋼人七瀬」の事件が本筋でおいながら解決しつつ、
別の怪異の事件もサブエピソード的に解決しながら
魅力的な主人公を味わえるような作りならば別だったかもしれないが、
それだと1クールで「鋼人七瀬」の事件を解決できない。

1クールという尺が故に「鋼人七瀬」の事件にかかりっきりになってしまっており、
本来は2クール構成でゆっくりと「鋼人七瀬」の事件を解決すれば、
作品全体の印象は違ったかもしれない。
決してつまらなくはない、むしろ面白く興味をそそられる内容なのに
「アニメーション」という媒体でそれを100%面白くしきれていない。

この怒涛のセリフ量を制作側もどう描くのか考慮した部分はあるのだろう。
だが、遊びの演出を入れてしまえば尺が削られる。
原作から台詞を削っている部分もあるのかもしれない。

大衆心理


画像引用元:虚構推理 10話より
©城平京・片瀬茶柴・講談社/虚構推理製作委員会

ややダレと絵代わりのしなさは感じるものの、虚構推理は面白い。
主人公はありえそうな虚構とありえなさそうな虚構を繰り出し、
それにネットの名無しは反応する。
ネットの噂は面白ければ面白いほど盛り上がる。
噂を流した本人が思った以上に加速度的に盛り上がり、噂が噂を呼ぶ。

大衆の心理を誘導し、論争で勝つ。この作品がやってることは
推理ではなくディベートだ。主人公と犯人の虚構、どちらが大衆の心をつかむのか。
都市伝説の真実味がおび、「都市伝説」は「都市伝説」でしかなかったという
大衆心理を誘導した犯人に対し、主人公はそんな「都市伝説」に
実は裏があったと大衆に投げかける。

「鋼人七瀬は実在する。」というネットの話題から、
「鋼人七瀬は実在するが化け物ではなく人間が起こした事件だ」と
大衆を誘導する。この会話と大衆心理の誘導の巧みさは、
ゾクゾクするミステリーの面白さを感じさせてくれる。

まるで意外な犯人を探偵が「お前が犯人だ!」と突き刺す瞬間のような
まるで不可思議すぎたトリックを解き明かす瞬間、
そんな「ミステリーの興」をこの作品は「虚構」という形で見せてくれる。
「お前が犯人だ!」と探偵が提示してるのに、それは虚構。
この作品だからこそできる「虚構推理」がミステリーの面白さを味わせてくれた。

総評:嘘は時に真実にまさる


画像引用元:虚構推理 11話より
©城平京・片瀬茶柴・講談社/虚構推理製作委員会

全体的に見てしっかりとしたミステリーを見せてくれた作品だった。
ミステリーでありながら「虚構」を提示する主人公、
そんな虚構が生み出した怪異を虚構で推理し解決する。
真実が求められるミステリーにおいて裏を書いたような「嘘」で塗り固められた
作品であり、そんな嘘の面白さを1クールたっぷり味あわせてくれた作品だ。

ただ、本当にセリフ量が多い。特に終盤はやや冗長に感じるシーンも多く、
解決に必要なシーンと台詞なのはわかるものの、
1クールの8割ほど同じ事件の解決に奔走してしまっている。

本来は2クールくらいで他の事件をも描きつつ、「鋼人七瀬」の事件を
解決するようなストーリー構成ならばこうは感じなかっただろうが、
1クールであるがゆえにそれができず、「鋼人七瀬」ばかりが描かれてしまい、
なおかつ終盤はほとんど絵代わりがしないという欠点を抱えている。
サブエピソードや人物をガッツリと掘り下げるエピソードもない。

作品的にアニメ映えしづらく、戦闘シーンはあるもののそこはメインではない。
一言で言えば地味だ。だが、そんな絵面的な地味さを可愛らしい主人公と、
「虚構推理」という要素の面白さで貫き通したような作品だ。
作品の内容自体は面白いものの、アニメーションという媒体では映えなかった。
そんな印象の残る作品だった。

個人的な感想:琴子ちゃんかわいい


画像引用元:虚構推理 12話より
©城平京・片瀬茶柴・講談社/虚構推理製作委員会

個人的にはもっと主人公である「岩永琴子」というキャラを見ていたかった。
もっといろいろな事件を通して彼女というキャラクターを描写し、
彼女の魅力をもっと味わいたかった。
そう感じさせるほど魅力のあるキャラクターだ。

2期があれば是非見たい。
だが、その前に原作に手を出しそうな私がいる(笑)

「」は面白い?つまらない?

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  1. ころ より:

    原作、滅茶苦茶面白いので見た方がいいですよ
    個人的に、ミステリーという観点ではスリーピングマーダーがおすすめです
    かわいい女の子が見たいなら雪女のジレンマがおすすめです
    是非!