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「大雪海のカイナ」レビュー

2.0
SF
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評価 ★★☆☆☆(29点) 全11話

TVアニメ『大雪海のカイナ』ティザーPV/2023年1月放送開始

あらすじ 地表を覆った大雪原から逃げるように人々は巨樹「軌道樹」の上に「天膜(てんまく)」を作って生活していた引用- Wikipedia

目に見える爆死

本作品はTVアニメオリジナル作品。
監督は安藤裕章、制作はポリゴン・ピクチュアズ

世界観

1話冒頭から、この「美しい」がどこか虚無感のある世界観に引き込まれる。
主人公は謎の防護服に身を包み、そんな中で虫をとっている。
人類の文化と呼べるようなものが滅びた世界、
いわゆるポストアポカリプスな世界観の「空気感」を
この作品は作品全体で見ている側に感じさせてくれる。

ポリゴン・ピクチュアズはいわゆるフルCGのアニメ制作会社だ。
シドニアの騎士などを手掛けている制作会社ということが、
画面からも見て伝わる製作会社特有の「空気感」があり、
そんな空気感とポストアポカリプスなこの作品の世界観がマッチしている。

いわゆるセルルックスタイルのアニメ的なCGであり、
ぬるーっと動くキャラクターのアニメーションは
CG特有の癖はあるものの、それはあまり見ていて気にならない。
CGの欠点でもある「無機質さ」というのが
この作品の世界観に合っており、虫のリアルな気持ち悪さをより感じられる。

主人公が住んでいる場所は「天膜」と呼ばれるものの上だ。
まるで雪や雲が固まったような大地の上で人類は暮らしており、
彼らはそんな大地を貫く木の中で慎ましく生活している。
限られた資源で彼らは生きることに必死だ。
「若者」と呼べるものもは主人公以外に居ない。

それほど彼らの状況が逼迫していることを
「アニメーション」で伝えている。
この作品はいわゆる「説明セリフ」というものが少ない。
世界観をあえて説明しなくとも、この世界がどういう状況なのかというのを
見ている側が画面の中で描かれた情報の中で察することができる。

若者の居ない天幕の上の世界、食料も限られ
文明が滅び「文字」を読める人も殆ど居ない。
そんな中で主人公が若者だからこそ唯一「未来」を見ている。
緩やかな滅亡ではなく、僅かな希望、 天膜の下にみえる
「動く光」に彼は希望を抱いている。

もしかしたら、天膜の下に世界が広がっているのかもしれない。
自分たち以外にも人間が居るかもしれない。
そんな僅かな希望があるからこそ、彼は前を向いて生きている。

天膜の下

そんな希望は現実だ。天膜の下にはまだ人類がおり、
そんな天膜の下から女の子が気球にやって来る。
いわゆるボーイミーツガールだ。どこか「ジブリ」っぽい世界観であり、
空気感がこの作品にはある。ポストアポカリプスな世界の中で「ナウシカ」を
よりSFチックにしたような世界だ。

初めて見る自分と同い年くらいの女の子。
初めて見る外の世界から来た女の子。
様々な「初めて」の要素が彼の好奇心をくすぐる。

彼女にとっても「天膜」の世界は初めて見る光景だ。
だが、姫である彼女は天膜の下に戻らなければならない。
そんな彼女ともに主人公であるカイナは天蓋の上から下に下っていく。
一歩間違えば落下死してしまう、未知の生物も多い。
「30日」かけて巨大な木を下っていくさまは独特の緊張感がある。

天蓋の下では国と国が争っている。
姫が言う「賢者」とはなんなのか、彼らはなぜ戦っているのか。
序盤でこの作品の世界と設定とストーリー、
そしてメインキャラクターをきっちりと見せてくれる。

天膜から下に降りる、その過程の中でキャラの掘り下げもしっかりしている。
命綱を付けながら30日下に降り続ける中で、
「トイレ」の問題だったり、食事を介したりシながら、
二人が仲を深めていくと同時に主人公とメインヒロインを掘り下げている。

人が人を殺すの!?

天膜の上で暮らしているカイナにとって「戦争」というものが
そもそも理解できない。
メインヒロインが持っている「武器」も大きなナイフという認識であり、
それが「人に向けるものだ」という認識が彼らにはない。

いざ天膜の下にたどり着いて戦争をしている様子を見ても
カイナはその意味が理解できない。

「人が人を殺すの!?なんで戦うの死んじゃうよ」
この台詞はカイナがいかに
争いのない世界で暮らしていたかを感じさせるものだ。
天膜の上の環境では人が人を殺すことなどありえない、
「戦争」という概念すら希薄だ。

彼が希望を抱いた天膜の下の世界。
そんな下の世界は大きく広がっており、人も天膜の上よりは多くいる。
だが、人が多くいるからこそ、そこには「争い」がある。
天膜の上では話し合いで解決してきた物事も、
天膜の下では殺し合いで解決している。

それを「カイナ」という主人公は理解できない。
そんな中でメインヒロインがさらわれてしまう。
籠の中の鳥のような主人公が籠という名の天膜を出て、
世界を見て何を思うのか。

戦争

天膜の下では2つの国が戦争をしている。
理由はシンプルだ、「資源」だ。
一方は移動し続ける国だが戦力はあり大国であるがゆえに資源はない。
一方は小国だが資源はある。
文化が崩壊したポストアポカリプスな世界でも戦争は起こる。

そんな世界で自分を籠から抜け出させてくれたヒロインを助けるために
彼は二人だけで敵国へと赴こうとする。
どんどんと海が上昇し、大地を、街を、人を飲み込んでいる世界で、
人は争い続けている。

序盤は天膜の上を、中盤は天膜の下を。
カイナはひたすらに進み続けながら「世界」を見ていく。
そんな世界をカイナを通じて視聴者にも伝えている。
この作品の世界を、空気感を感じてほしいといわんばかりの
世界観の描写にどっぷりと浸れる。

テンポ

ただ、その反面でストーリー進行はかなりゆっくりだ。
特に中盤はかったるさが生まれるほど進行が遅く、
ヒロインがさらわれて助けに行くまでの過程が非常に長い。
世界を見せたいのはわかるものの、間延びしているシーンが多く、
いわゆる「ダレ」が生まれてしまっている。

この作品はTV放送開始前から映画化されることがきまっており、
1クールでは完結しない前提でストーリー構成されてることはわかるものの、
もう少し話が進んでほしいと感じるほど1話1話が
だらーっとしてしまっている。
キャラクターのセリフの間に妙な間が開くことも多い。
明らかに尺調整しているのを感じてしまう。

1話1話の「引き」も甘い。
世界の謎は序盤で多く出てきている。
なぜこんな世界になってしまったのか、賢者の存在や伝説はなんなのか。

そういう謎がなかなか明らかにならない中で、
2国間の戦争をグダグダとやっている感じが強く、
主人公自体は確かに冒険しているものの、
その冒険のワクワク感が2国間の戦争問題のせいでいまいち伝わらず、
盛り上がりきれてない印象だ。

中盤でキャラクターが一気に増えたせいで、
この作品の面白さも散漫になってしまうような感覚だ。
序盤をすぎるとずっと鬼ごっことかくれんぼを繰り返してるような状態で、
そんな中で敵の事情もわかったりするのだが、
捕まって逃げて捕まって逃げてを繰り返してしまっている。

せっかく序盤で壮大な世界観を見せてくれていたのに、
話が進めば進むほどこぢんまりとした世界の中で
話が進んでしまうような印象だ。
8話など、回想シーンが多く総集編っぽさっすらある。
1クールのアニメで振り返るシーンなど不必要だ。

これが2クールのアニメ、もしくは1クールで完結するならば
そこまで気にならないが「続きは映画で!」をやるための
ストーリー構成に無理にしている感が作品に如実に現れている。

グダグダ

結局、1クールでやったことは物凄くシンプルだ。
雲の上に住んでいた主人公がヒロインととともに雲の下に行き、
雲の下で2カ国が水を巡る戦争状態で、ヒロインがさらわれ
救出しにいき、各国の事情がわかり、巨大な水資源がある場所がわかりました。

これだけだ。グダグダしてる部分やゴタゴタしてる部分をのぞけば
全11話ではなく、6話くらいで描けそうな内容であり、
それならば映画でやる部分と合わせて1クールで描けたのでは?と感じてしまう。

終盤もグダグダしている。
巨神兵ならぬ巨大なロボットが出てきて盛り上がってる中で、
主人公はダラダラと人命救助をしている。
残り1話しか無い中でこんなグダグダとしたシーンを見せられると
流石に萎えてしまう。

詰め込み

最終話でも人命救助をしている。
もう最終話だ。それなのに主人公やヒロインは人命救助だ。
巨大な水資源がある場所の証拠でもある地図を王に見せに行くだけで
2話もかけてしまっている。
しかもヒロインは大切な地図を火消しに使う(苦笑)

そんな最終話のBパートから怒涛の展開だ。
敵の巨大ロボットは主人公が持ってた道具であっさりやっつけ、
戦争はなんやかんやで終わり、燃えた地図は主人公が記憶してたので大丈夫、
みんなで水資源を取りに行こう!と怒涛の展開で終わる。

地図が燃える展開は必要だったのか?
2回も人命救助を見せる必要はあったのか?
巨大ロボットがせっかくでてきたのにあっさり倒されすぎじゃない?
と、終盤のツッコミどころが凄まじい。

劇場は巨大な水資源を求める旅に出て、
この世界の謎なども描かれるのかもしれないが、
続きが見たいというより、正直どうでもいいという気持ちのほうが
強まってしまう作品だった。

総評:雲海は深いが話は浅い

全体的にみて映画化することを前提にしたストーリー構成のせいで
グダグダになってしまった作品だ。
序盤こそナウシカやラピュタ的なジブリ的世界観のSF要素を
強めた感じになっており、その世界観の魅力と面白さは素晴らしかった。

雲の下にはなにがあるのだろう、この世界はなんなのだろう。
そんな期待感とは裏腹に話が進めば進むほど世界観が縮まり、
薄いストーリーをグダグダなストーリー展開で見せてしまっている。

特に中盤以降の尺稼ぎは凄まじい。
2度の人命救助だったり,意味のない燃える地図など、
尺を稼ぎ溜めのシーンがあまりにも多すぎて、
この作品の面白さを素直に味わうことができない。

映画が2時間位の尺だと考えると、
この1クールの内容を6話くらいにまとめて、
残りの6話くらいで映画の内容を描いていたら、
ずいぶんと話の印象は変わっただろう。

1クールのアニメを放送した上で続きは「映画」にするという
「企画段階」から色々と間違っていた作品なのかもしれない。
放送中もそこまで盛り上がってる様子もなく、人気もそこまで高くない。
それだけに10月の映画に一体どれだけの人が足を運ぶのだろうと
思ってしまう作品だった。

個人的な感想:うぅーん…

序盤の3話くらいまではワクワクしながらみていたのだが、
6話、7話あたりから展開の遅さが気になっていき、
終盤はその展開の遅さにツッコミたくなってしまい、
ラストのご都合主義まみれの展開には頭を抱えてしまった。

10月の映画で世界の謎が明らかになるとは思うのだが、
個人的には配信されてから見ればいいかな…という
気持ちのほうが強く残ってしまう作品だった。

「大雪海のカイナ」は面白い?つまらない?

この作品をどう思いましたか?あなたのご感想をお聞かせください

  1. うに より:

    はじめまして、
    前半のワクワク感が素晴らしかっただけに、後半のグダグダした展開にあれっ?自分の感覚がついて行けていなのか?と自分自身に疑心暗鬼になってしまいました。同じように感じてまとめて下さっている主さんがいて安心しました。
    そして映画化されるのですね。
    ヨルシカのオープニングが楽しみな作品でした。

  2. ねこきち より:

    こんにちは、私も主さんと同じような感想を持ちました
    ナウシカとラピュタをパクった印象が強かったですね
    ストーリー進行がグダグダでご都合主義が強いのも評価マイナス点です

    「姫を助けに行こう」と向かう場面で、なんの作戦や武器もなくただただ向かうだけ、ってところが陳腐すぎる……
    最後に続きは劇場で!って……まぁ続きは気にならないのでもちろん観に行きませんが