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「ぬるぺた」レビュー

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評価 ★★★★☆(70点) 全12話

あらすじ 天才少女「ぬる」は、お姉ちゃんを事故で亡くしてしまう。引用- Wikipedia

1話で5分でも名作は生まれるっっ!

本作はアニメとゲームが連動したオリジナルメディアミックス作品。
ゲームは2020年1月31日に発売予定。
監督は小倉宏文、制作はシンエイ動画

姉錬成


引用元:©TOKYOTOON/シンエイ動画

1話始まって早々に少女が何やら怪しげな実験を行っている。

「お姉ちゃんはいい匂い」と装置に花をぶち込み、
「お姉ちゃんは柔らかい肌」と装置にぬいぐるみをぶち込み、
最後に思い出の品も装置に打ち込む。

そして彼女は言う。
「できた!私のお姉ちゃん!」

意味がわからない(笑)
花やらぬいぐるみやら装置をぶちこんで姉を錬成する少女、
しかも出来上がったのは思っていた「姉」ではなく、
ベイマックスのような姿をしたロボット。

主人公は起動したロボットを「ぺた姉」とよび、彼女との再会を喜ぶ。
出来上がった姉はどこか暴走気味であり、
不登校な彼女を学校に届けようと飛び回る。

1話を終わった段階で「このアニメは何なんだ?」と1回考えたくなるほど
ぶっ飛んだ要素が詰め込まれている。
1話ではきちんと描かれていないものの、彼女は交通事故で死んだ「姉」を
生前の記憶を持ったロボットとして生き返らせようとしている(苦笑)

魂の所在やそれは本当に「姉」といえるのか?など
やや哲学的なツッコミをしたくなるような1話だ。

キャラクターデザインと作画


引用元:©TOKYOTOON/シンエイ動画

この作品のキャラクターデザインはおよそ5分アニメとは思えないほど可愛らしい。
ゲームなどのメディアミックスを前提としているからこその
クォリティなのかもしれないが、「きらら」系の日常アニメのような可愛さだ。

作画のクォリティも非常に高く、ギャグアニメだからこその
「コミカルな表情の変化」をきちんと描くことで、
ロボットなお姉ちゃんである「ぺた姉」がやや過剰に妹である
「ぬる」に世話を焼く姿がギャグになっている。

執拗に朝ごはんを食べさせようとするペタ姉と、
彼女が作った暗黒チャーハンを食べたくないと逃げ回る。
たったこれだけの話でしかない話ですら、動き回り、暴れまわる。
1話5分という尺の中でもしっかりとキャラクターを動かすことで、
それがきちんと「笑い」につながっている。

日常


引用元:©TOKYOTOON/シンエイ動画

1話1話のシンプルかつストレートな話ではあるものの、
5分という中で「起承転結」を意識した構成がひかり、
1話1話の話の中できっちりとメリハリが付いている。
朝ごはんを食べさせるだけ、お風呂に入れるだけ、登校するだけ。
そんなシンプルな話がきっちりと面白い。

そんな中できちんとキャラクターのバックボーンが描かれていく。
「ぬる」は不登校の少女だ。彼女はいわゆる天才であり、
天才であるがゆえにクラスメイトと馴染めず、不登校になっている。
そんな彼女にとって「姉」は唯一の理解者だ。

だからこそ彼女は「姉」の死を受け入れきれずロボットとして生き返らせた。
ドタバタしたコメディが描かれてはいるものの、
キャラクターの設定はやや重い。

違和感


引用元:©TOKYOTOON/シンエイ動画

物語の中盤にこの作品の世界観に対する「違和感」が生まれる。
例えばモブキャラが省略されて描かれている点、
そのモブキャラに「ノイズ」が走るような演出がある。
もしかしたら、今「ぬる」が見ている現実は現実ではないのでは?という
違和感を見ている側に感じさせる。

7話ではなぜか「ぺた姉」が夜な夜なぼろぼろになって帰ってくる話が描かれる。
彼女の肉体は過剰なまでに破壊されており、
その理由を一切話さない「ぺた姉」を「ぬる」は彼女をひたすらに治している、
そして、真実が分かる。

「ぬる」がひたすらに拒否していた学校に「ぺた姉」は夜な夜なでかけていた。
そこには「バグ」と呼ばれる存在が救っており、
「ぺた姉」はその「バグ」と日々戦っていた。
バグは「ぬる」が嫌いな場所に現れ、嫌いなものを好み、
徐々に増殖し、徐々に世界を侵食していっている。

バグとはなんなのか、この世界は一体何なのか。
「ぺた姉」と共にバグと戦う日々の中で彼女は「過去」を思い出す。
事故がおきたあのとき、あの瞬間の記憶。彼女がもっとも「避けていた」記憶だ。
序盤から中盤のコメディ要素はどこへ?と思うほどに終盤はシリアスになっていく。

自己確立


引用元:©TOKYOTOON/シンエイ動画

彼女は向き合う。自分の過去だけでなく「自分自身」に向き合うことで
学校を、街を、世界を守ろうとする。そんな中でバグが急に街から消え冴える。
だが、同時に「街の人」も居なくなる。この世界に彼女だけしか存在しない。
彼女自身にも「何が起きてるのか」を理解しきれていない。
もしかしたら、夢だったのか?と思うほどに世界の違和感が強まっていく。

そして彼女は「事故現場」を訪れる。姉がトラックに跳ねられたあの場所に。
何かがおかしいと彼女自身も感じはじめ、もはやここは異世界なのでは?とすら
思い始める。そしてぺた姉も消える。

彼女にとって存在意義であり、
自分を確立する存在でもあった姉が彼女の前から消える。
世界にはたった一人、彼女だけだ。孤独の中で彼女は
「自分自身」とより向かい合う。

自分探しの旅


引用元:©TOKYOTOON/シンエイ動画

彼女は一歩踏み出してみる。苦手だった学校に行ってみたりしつつ、
ぺた姉が帰ってくることを信じて行動する。だが帰ってこない。
彼女の残した「暗黒チャーハン」を泣きながら食べ、
より姉に対する思いが強まる、もう1度会いたいと。
最も大切な存在に対する愛情がきっかけになったのかもしれない。

目が覚めるとそこは現実の世界のベッドの上だ。
彼女は長い眠りについていた、その中で姉が彼女の意識を仮想空間につなぎ、
彼女を取り戻そうとした。仮想世界で妹が姉を求めたように、
現実世界では姉が妹を強く求めた。その愛が奇跡を生んだ。
この作品は深い深い姉妹愛の物語だ。

なんとも綺麗なハッピーエンドだ。
不登校で姉に甘えていた少女が交通事故にあい
意識不明の中で「自分自身」と向き合うことで、
自分自身を取り戻し、意識も取り戻す。幸せな世界だ。

自分自身と向き合ったことで少女はもう不登校ではなくなる。
一歩踏み出すことの大切さ、
大切な姉がそばにいるということを噛み締めながら生きていく。

バッドエンドや、もっと重い結末すら有り得そうな世界観と設定から
なんとも「幸せ」なハッピーエンドへと至っている。
ぬるとぺたの二人合わせて「ぬるぺた」な日常はこれからも続いていく、
そんな幸せにホロリと涙腺を刺激されて物語が終わる。

総評:1話5分1クールで至る名作


引用元:©TOKYOTOON/シンエイ動画

全体的に見て素晴らしい作品だ。
序盤は「死んだ姉の記憶を持つロボット」を作る天才少女と
そんな少女の作ったロボットによるドタバタコメディをやや狂気的に見せることで
強いギャグアニメとして描いている。

だが、序盤からキャラクターの過去やバックボーンを少しずつ描いていき、
そこからさらに中盤には作品の世界観に対する「違和感」を見てる側に植え付け、
その違和感にキャラクター自身が気づくことで話がシリアスになっていく。

この作品は「自己確立」の物語だ。
事故に会い意識を失った少女が自分自身のアイデンティティを見つめ直し、
自分のだめな部分に気づき、自分が愛する存在を自覚し、自分自身を見つめ直す。
仮想空間の中で自己を確立していた姉すらも居なくなり孤独になり、
孤独になったことで自分自身の存在をより見つめ直したことで「意識」が目覚める。

コミカルに描かれてた序盤が嘘のような中盤以降の物語の重さの
ギャップは素晴らしく、1話5分全12話の作品とは思えないほどに
物語に秘められた要素が多く、それをきちんと視聴者に見せ、考えさせ、
もっと重い結末すら予想してしまう中で幸せすぎるハッピーエンドに至る。

本当に素晴らしい作品だ。
1クール全12話の中での1話1話のストーリー構成と全体の
ストーリー構成をきちんと意識した脚本作りになっており、
二人しか居ないメインキャラできちんと物語が作り上げられている。

「ぺた姉」が仮想空間をどうやって妹の意識につなげたのかや、
バグはなんだったのか、途中で出てきたかき氷屋の少女はなんだったのか
などSF的な設定部分の描写不足感はあるものの、
その描写不足感が逆に「考察」しがいのある作品に仕上げている。

ゆる~いタイトルで1話5分でコメディにしか見えない作品だが、
最終話まで見終わったあとの「充実感」は
2時間位のいい映画を見終わったような気分になれる作品だ。

個人的な感想:凄い


引用元:©TOKYOTOON/シンエイ動画

短編アニメだからこそ光る部分のある作品だった。
ドタバタコメディを少ないメインキャラで盛り上げて、
少しずつ作品の芯の迫る部分を明かしつつ、ハッピーエンドに至る。
短編アニメだからこその余計な描写のないどストレートな攻めた作品であり、
1時間足らずでものすごく深い内容まで描けている。

細かい部分の描写不足はあるものの、それが逆に面白い。
おそらく描かれていない部分がたくさんあるのだろう。
現実世界での「ぺた姉」がどう行動し、
それが「ぬる」にどう影響を与えていたのか。

「ぬる」が仮想空間で過ごした時間よりも現実世界では長い時間が立っており、
「仮想空間」を作り上げた姉と、妹を目覚めさせるための行動があったに違いない。
あくまで「妹側」の視点だけがこの作品では描かれている。
だからこそ描写不足でいい。1話5分で姉側の視点まで描いてたら尺が足りない。

現実世界で姉は妹を求め、仮想空間では妹が姉を求めていた。
強い「姉妹愛」がこの作品には有り、その愛がハッピーエンドへと至らせている。
何とも幸せで、何とも深い作品だ。

こうなるときになるのがゲームだ。
ゲームでは妹が現実世界で姉が仮想空間にいるらしく、真逆だ。
Steamで発売されるようなので多分私は買ってしまうだろう(笑)

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  1. 仏陀 より:

    こういうの好きだ