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本当は怖いポケモンの世界「ぼくのデーモン」レビュー

4.0
ぼくのデーモン SF
ぼくのデーモン Netflix
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評価 ★★★★☆(64点) 全12話

「ぼくのデーモン」予告編 – Netflix

あらすじ 小学生の剣斗は、森で拾った赤い砂粒をデーモンに育て、「アナ」と名付けて仲良く暮らしている。引用- Wikipedia

本当は怖いポケモンの世界

本作品はNetflixアニメオリジナル作品。
脚本、原作を小説家の「乙一」が手掛けており、
監督はナット・ヨッサワッタナノン、制作はStudio Iglooと
タイのアニメスタジオが手掛けている。

デーモン

この作品の世界観は非常に面白い。
「核震災後」の日本を舞台にしており、
そんな核震災のせいで「デモニウム粒子」というものが拡散し、
デーモンという新たな生物が生まれている。

だが、そんな生物を人間は本能的に嫌悪する。
なにか理由があるわけではない、核震災のあとに生まれた生物だからこそ
忌むべき存在としてみなされているのか、
もっと本能的な部分なのか。

そんな世界で主人公は「デーモン」を拾って育ている。
母以外の周りの人物からは彼の行動は嫌悪されており、
本来、人間なら嫌悪すべき存在を彼は愛してしまっている。
だが、この作品の世界においてデーモンは忌むべき存在だ。
増え続けるデーモンをデーモン使いと呼ばれた人たちは殺している。

主人公はこっそりとデーモンを育ている。
そんな彼が育てたデーモンである「アナ」は不思議な能力をもっている。
物質を取り込み、取り込んだ物質を好きなときに取り出す。
アナの中に取り込んだ物質は時間が止まり、
三日前の焼きそばですらできたてホヤホヤだ。

主人公もまた忌むべき存在だ。
「デモニウム粒子」に汚染され、長くは生きられない。
いつデモニウム粒子が覚醒し、死ぬかわからない体だ。
そんな彼だからこそ「アナ」という
デーモンに仲間意識のようなものを感じているのかもしれない。

同じ人間の子供にはいじめられ、仲間はずれにされている彼は孤独だ。
そんな孤独の中で出会ったアナは唯一の友達だ。
だが、そんなアナを狙う謎の組織が彼の前に現れる。

バトルしようぜ ポケモンバトル!

彼の前に現れるデーモン使いも、その名の通りデーモンを操っている。
デーモンはそれぞれ見た目の能力も違う、
人間ではそんなデーモンと戦うことは出来ない。
デーモンを倒すためにはデーモンを操るしか無い。

まるでポケモンバトルだ(笑)
デーモンのデザインはポケモンと違い、かなり生々しく
グロテスクな見た目をしているものの、
本質的な部分は「ポケモン」だ。

互いのデーモンを戦わせる光景はポケモンバトルそのものであり、
そんなバトルシーンがフルCGだからこそのダイナミックな
カメラアングルで目まぐるしく描かれている。
タイのアニメ制作会社だからこそキャラデザはやや癖がある者の、
そのクセやデーモンのデザインが独特な世界観を築き上げている。

そんな戦闘シーンの結末はグロテスクだ。
この世界のバトルはポケモンと違ってポケモン同士が戦って、
戦えなくなったら負けではない。相手のデーモンを殺すか、
デーモンを操ってる本人を殺すことで勝負がつく。

デーモン同士を戦わせる中でトレーナーであるデーモン使いへの
「ダイレクトアタック」も可能だ。ルールなど無い。
多くのデーモンは首輪によって操られているだけだ。

それゆえにトレーナーを殺せば勝利となる(笑)
首輪を外せば信頼関係を築いていないデーモンは
デーモン使いを襲い、一瞬で敵になる。

だが主人公だけは違う。
ポケモンのサトシがピカチュウをモンスタボールに入れていないように、
彼もまた首輪で操ることなどしていない。

そんな勝負の中で主人公の母親は死んでしまう。
「時間を戻す」デーモンの噂を聞いた彼は、アナの中に母の死体を
時間を止めて収納し、たった一人で九州に向かうことになる。
1話で作品の世界観、物語の方向性をしっかりと指し示し、
2話以降の期待感を自然と上げてくれる作品だ。

やせいのデーモン

そんな旅路は困難を極めている。
核震災が起こった日本はやせいのデーモンが蔓延っており、
子供一人で旅をするにはあまりにも困難だ。
そんな道中で主人公は様々な人物と出会いながら旅を続ける。

「やせいのデーモン」は凶暴だ。
平気で人を襲い、時には集団行動で人間をあっさりと殺す。
様々なデーモンが話が進むたびに現れる面白さは、
あの頃のポケモンをやっているような感覚だ。

デーモンたちの見た目はグロテスクだ。だが、可愛い。
2話で現れる「気球のデーモン」であるバロンは
見た目は脳が透明な膜のようで包まれ触手が飛び出たような見た目なのだが、
きれいなお花が大好きでパートナーに好かれようとする行動が
あまりにもキュートだ。

デーモンは言葉を喋ることはない。
それゆえに、それぞれの鳴き声がそのまんま
彼らの名前になっているところもポケモンとも
共通しており、見た目のグロテスクさはあるものの、
本質的な可愛さがそんなグロテスクささえ愛おしく感じさせる。

ポケットモンスター的な世界をリアルに突き詰めたような世界だ。
ポケモンの世界ではポケモンは古代から存在している動物のような存在だが、
この作品は「核による震災」の影響で生まれた存在だ。
そんな世界で生まれた存在だからこそ忌むべき存在になってしまい、
やせいのデーモンたちも人間を襲う。

もし、ポケモンが人間にとって忌むべき存在だったらどうなるのか。
そんな設定を軸に作られた世界には救いがない。

世紀末

この作品の世界はいわゆる世紀末だ。
人類の生存圏の外ではやせいのデーモンがはびこり、
物を運ぶのでさえ命がけだ。
核による震災がおこり「デモニウム粒子」がはびこり、
人間の命すらおびやかされている。

そんな世界だからこそ、そこに生きている人類は生きることに必死だ。
主人公とアナは「賞金」をかけられてしまっている。
それゆえに信じたはずの大人がお金のためにあっさりと裏切り、
彼らを襲ってくる。
まともなトレーナーが少ない、ロケット団だらけのような世界だ。

人間は私利私欲のためにデーモンを使い、己が生きることに必死だ。
だが、デーモンにも心がある。
首輪で操られているとは言えパートナーに愛情を持つ存在もいる。
しかし、「人間」は本能的にデーモンを嫌悪してしまう。
悲しいパートナー関係とデーモンたちの見えない感情が
見る側の心を刺激していく。

そんな世界でデーモンを愛し、母を助けるために旅をする少年は、
無事に九州へとたどり着けるのか。
謎の組織はなぜ「アナ」を狙うのか。
物語が進めば進むほど先の展開が気になってくる。

主人公のアナガチ勢っぷりもギャグになっている。
アナが大好きというよりデーモン全般が大好きな彼は
「僕が権力者だったらアナを次のお札のデザインは君にするのに!」
と時折、ガチ勢っぷりが顔を出す(笑)

アナも本当に可愛らしく、ちくわが大好きだったり、
主人公のことが大好きだったり、見た目とは裏腹に
本当にかわいいキャラクターだ。

子どもたち

こんな世紀末のような世界だからこそ、小さな子どもたちも生きるのに必死だ。
ホームレスで万引きや盗みをすることでしか生活できない子供もいる。
そんな子どもたちを助けるために主人公は強敵と戦ったりするのだが、
お金のために子どもたちにも裏切られる。

いわゆるロードムービーの中で主人公が色々なことを考えていく。
人間の生活圏がデーモンに奪われる中で、
デーモンにも生きる道理があり、彼らにも感情がある。
そんなデーモンを操りながらなんとか生きている人間たち、
人間でありながらデーモンに嫌悪感を抱かない主人公は
人とデーモンの関係性に悩んでいく。

デーモンである「アナ」も同じだ。
アナはときに人間から差別されたり、同じデーモンに襲われたりもする。
だが、そんなアナは主人公を信頼し、彼に付き従っている。
彼を守るために「進化」し、戦う姿は
ポケモン映画でも見てるかのようなスペクタルな映像表現だ。

ただ、物を収納する能力しか無いアナがなぜ狙われるのか。
その謎が中盤から紐解かれていく。
主人公を守るために一時的に進化し「ブラックホール」のような
力を発揮するアナ、そんなアナが数年前に自分自身すら
収納し多くの人類を収納したデーモンではないか?という疑惑が生まれる。

主人公もまた特別な能力をもっている。
自身の体を侵す「デモニウム粒子」のせいか、
彼はデーモンと心を通わせるようになっていく。
心を通わせられるようになったからこそ、
この世界の人間とデーモンの関係性があるからこそ、
アナは主人公をコレ以上傷つけないために彼の元を去ってしまう。

だが二人は家族だ。
主人公にとって母を失った今、唯一の家族であるアナを見放すわけがない。
二人の度は続いていく。
ロードムービーとして非常に優秀だ。
1話1話しっかりと意味があり、徐々に九州へと近づいていく。

本当に時間を巻き戻すデーモンはいるのか、
母を生き返らせることはできるのか。

キリコ

博多で主人公が出会ったのはキリコという青年だ。
彼こそが「復元」の力を持つ存在だ。
見た目は完全に人間だが「デーモン」だ。
デーモン在りながら人間のふりをし、人間社会を学んでいる。

時間を巻き戻すデーモンの噂、そんな噂の元とも言える存在だ。
人間たちに意味もなく根絶やしにされたデーモン、
そんなデーモンである彼は人間を根絶やしにする方法を探している。
デーモンの心がわかる主人公は人間とデーモンの間の存在だ。
自身の目的のために主人公を利用しようとしている。

人間もデーモンも、主人公の味方ではない。
唯一の味方といえるのはアナだけだ。
だが、彼にはこの旅路で多くの人間との関わり合いが生まれている。
敵であったはずの平和機構の人間、旅で出会ったお姉さん、
彼のピンチに、子供である彼を助けるために彼らもまた動き出す。

逆襲

終盤はミュウツーの逆襲を見ているかのような展開だ。
人間の欲望のために、人間が生きるために狩られ利用されたデーモン、
この状況を変えなければデーモンは虐げられたままだ。
そんな中で「キリコ」はデーモンとして人類への逆襲を誓っている。

巨大なデーモンの力を復元させ東京を壊滅しようと動くキリコ、
そんな人類の危機に「デーモン」が力を貸してくれる。
人間に操られているわけではない、自らの意志で
人間を助けることを彼らは選んだ。

少年は大人になる。
この度は一人の少年が「母の死」を受け入れるまでの物語だ。
時間を巻き戻すことも、復元することも「死」という概念からは
誰も元に戻せない。
彼はそれを心のなかではわかりつつも、諦めきれなかった。

そんな彼が旅の果てに母の死を受け入れ、
そして「デーモン」と「人類」の共存を望むようになる。
新たな仲間、家族とともに、少年はそんな未来のために動き出す。
1クールで素晴らしいストーリーが紡がれている作品だった。

総評:在り得たかもしれないポケモンの世界

全体的に見て非常に綺麗にまとまっている作品だ。
核災害が起きた世界、そんな世界で生まれたデーモン、
人類の生活圏が脅かされる中で、デーモンを恨むものが多い世界で、
主人公はデーモンのことが大好きで、アナのことが大好きな少年だ。

そんな彼が母を失い、そんな母を取り戻すために旅をする、
いわゆるロードムービーなストーリーの中で、
1話1話にきちんと意味がある。
この世界で人間が生き抜くことの難しさ、
デーモンという存在との関わり合い方に、多くの人は悩んでいる。

そんな世界で少年である主人公は何もすることが出来ない。
大人の事情に巻き込まれながら、アナの力に頼りながら。
多くの出来事を経験し、多くの人、そしてデーモンと出会った彼は
母の死を受け入れ大人になる。
そんな物語が1クールで描かれている作品だ。

アニメーションとしてもキャラクターデザインの癖はあるものの、
アクションシーンは秀逸であり、フルCGだからこその
カメラワークやスロー演出を駆使したキビキビとしたアクションの数々、
デーモンたちの固有の能力を生かした戦闘シーンには
ハラハラさせられる。

終盤はまるで怪獣映画のごとく巨大なデーモンも現れており、
ダイナミックな構図で描かれるラストバトルに、
手に汗握れる作品だ。

この作品の根本にあるのはポケットモンスターだ。
序盤などポケモンバトルのように見えるような要素も多く、
モンスターの鳴き声が名前になっている点など類似点も多い。
終盤の展開などミュウツーの逆襲を見ているかのようだ。

この作品は在り得たかもしれないポケモンの世界だ。
ポケットモンスターの世界は人類とポケモンが仲良く暮らしている。
だが、ロケット団などポケモンを悪用する人間もおり、
ミュウツーなど人類に憎しみを抱くポケモンもいる。

そんな世界をより生々しく、よりダークに描いている。
もしポケモンを恨む人間が大半で、ポケモンを支配し、
狩る世界だったらどうなるのか。
ダークな世界観で描かれる新たな解釈ポケモンのような世界観は
1クール、ぶっ通しで見てしまう面白さがある作品だった。

個人的な感想:ダークホース

Netflixで配信が開始され、気になってみてみたら
意外な面白さのある作品だった。
根本にあるポケモン要素の数々をダークに彩り、
最後は少年が大人になる物語が染み渡った

制作自体はタイの制作会社だが、
日本の制作会社もうかうかしてられないと感じるほど
レベルの高い映像表現と乙一さんによるストーリーがマッチし、
素晴らしい出来栄えになっていた作品だった。

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