「攻殻機動隊SAC_2045」レビュー

4.0
SF
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評価 ★★★★☆(70点) 全24話

あらすじ 世界は計画的かつ持続可能な戦争「サスティナブル・ウォー」へと突入した。これにより、世界各国で内戦、レイドが勃発。それはこの事態を引き起こしたアメリカも例外ではない。引用- Wikipedia

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ようこそ!究極のメタバースへ

本作品はNETFLIXオリジナルアニメ。
TVシリーズの攻殻機動隊、いわゆるSACシリーズを手掛けた監督である
「神山健治」をそのままに、フルCGで制作されている。
監督は神山健治、制作はProduction I.G、SOLA DIGITAL ARTS

フルCG

攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Societyから約16年。
当時はCGではなく手書きの作画で描かれていたが、
今作品はフルCGで描かれている。
Wikipediaなどによると当時のスタッフを集めることができず、
3DCGを採用したようだ。

やや独特の「ツルツル」としたフルCGは好みが分かれるところではある。
どこか人形のような感覚を覚えるCGは
最近の日本のCG、いわゆるセルルックCGとは違い、
海外のCGアニメのような印象を受ける作風に仕上がっている。

これはNETFLIXという海外でも配信されるサイトだからこその
キャラクターデザインとフルCGかも知れないが、
なれるまではやや時間がかかるうえに、
正直CGのクォリティはあまり高くない。
アニメというよりはPS4あたりの「ゲーム」を見ているような映像だ。

特に少佐に関してはTVシリーズや映画版は
20代後半~30代前半のような義体の見た目だが、
この作品では10代後半のような義体の見た目をしている。
他のキャラはそこまで変化はないことを考えれば、
全身義体化している少佐が義体を乗り換えたのだと思えば納得できなくはない。

戦闘シーンはきちんとアニメーションとしての面白さがある。
特に序盤のタチコマと多脚戦車の戦いは、
CGだからこそのグリグリと舐め回すようなカメラワークで、
動きまくるタチコマを移しており、撃ちまくりな戦闘シーンに
見応えを生んでいる。

さらに言えば今作では「光学迷彩」を使った戦闘シーンが多い。
少佐やバトーが当たり前のように光学迷彩を使い、
敵も味方も姿が見えない中での戦闘で姿をぼやかしながら
ヌルヌルと見せる表現はCGだからこそできたシーンだ。

音楽に関しても攻殻機動隊の特徴でもあった「菅野よう子」さんは
本作品では関わっておらず、色々な部分で「変化」が見られる。
その変化を見る人がどう受け取るのかが難しいところではある。
同時に作中の「世界」も変化、いや変革している。

唯一変わらないのは「声優」さんだ。
荒牧課長を演じていた阪脩氏以外の声優の変更はなく、
田中敦子、大塚明夫、山寺宏一、玉川砂記子のあのメンバーは変わらない。
彼らが変わらずに少佐を、バトーを、トグサを、タチコマを演ずるからこそ、
攻殻機動隊の世界は変化しても、雰囲気は保たれている。

2045年

作中では「経済」が死滅している。
もはやとんでもない設定だが、AIのせいで全世界が同時デフォルトし、
金融機関が取引を停止、紙幣は紙くずとなり電子マネーも
電子の海へと消えてしまった世界だ。

そんな世界では「産業としての戦争」が続いている。
持続可能な戦争「サスティナブル・ウォー」を世界が続けることで
なんとか世界が保たれている。
いわゆる「ポストアポカリプス」になりかけている世界だ。

SDGSを皮肉ったような内容だ(笑)
持続開発な目標をできるような状況ではなく、
世界は戦争をしなければ経済を保てない。
戦争は破壊を生むがそこには莫大な「金」の流れも生まれる。
だからこそ持続可能な戦争をこの世界は続けている。

街という街は街の形をしておらず、「ヒャッハー!」な連中もいる。
SSSでは「老人」や少子化の問題を描いていたが、
そんな問題が吹き飛ぶような出来事が起きてしまった結果、
世界は変わってしまった。

そんな世界でもトグサや元公安9課のメンバーは傭兵として生きている。
広大な大地、どこまでも続く青空、統一に並べられた風力発電、
どれも過去の攻殻機動隊シリーズでは見ることのできなかった風景だ。

物価も向上し、りんご1個が25ドル(約2500円)、
ハンバーガーに至っては1個約300ドルもする(約30000円)。
とんでもないインフレだ(苦笑)

さりげない日常の中の買い物でインフレした世の中を映し、
物価が向上し、紙幣や通貨が紙くずになっている様子を見せる。
当たり前のようにVRが存在し、当たり前のように
ダークウェブの中の「メタバース」で人々が会話している。

神山健治監督らしい「有り得るかもしれない未来」の世界観は
この作品でも変わっていない。

ポストヒューマン

そんな中で少佐たちは謎の男、ジョン・スミスに囚われ、
謎のミッションを強要されてしまう。
一方で荒牧課長は「公安9課」を再建しようと動いており、
少佐の行方を探すためにトグサが派遣されている。

そんな中で出会うのが「ポストヒューマン」だ。
彼らは全身義体化しているわけではない、ただ電脳化しているだけだ。
この世界では当たり前に存在する人間ではあるものの、
全身義体化した少佐以上の動きをし、撃たれる銃弾をまるで
未来予知でもしたかのように避けてしまう。

序盤こそキャラデザの変更やCGのクォリティのよる違和感はあるが、
序盤をすぎれば「攻殻機動隊」の世界観にどんどんとのめり込んでしまう。
見れば見るほど「やっぱり面白いな…」としみじみ
感じてしまうほどだ。

進化

戦争はいつだって悲惨な結末と多くの犠牲を生むと同時に
人類にとっての「進歩」も生み出してきた。
私たちは普段使っているスマホ、携帯電話やGPSもそんな進歩の1つだ。
戦争による技術の革新と進歩、莫大な金な流れる戦争だからこそ、
人類は戦争により革新的な技術を生み出している。

だが、それでも「人類」の愚かさは変わらない。
第二次世界大戦以降、多かれ少なかれ国家間の争いはあれど、
世界を巻き込んだ戦争は起こっては居ない。
それでも、人類はいつだって争いをしている。
同じ過ちを繰り返している。

技術が進化しても、人類は進化していない。
だが、「持続可能な戦争」が起きている世の中だからこそ、
人類そのものも「進化」を始める。それがポストヒューマンだ。
電脳という技術を詰め込んだ人類の脳は、
持続可能な戦争を世界中で行う中で「進歩」の兆しを見せている。

そんな進化した人類は普通の人類が考える「人間性」が喪失している。
彼らが何を考え、何を目的とし、何をなそうとしているのか。
ポストヒューマンとなった人類に共通の行動はない。
あるものは「核ミサイル」を撃とうとし、
あるものは「政治家」を殺し、
あるものは「ネットで炎上」したものを殺している。

電脳を得て、持続可能な戦争の中で進化した人類は
何を思っているのか。
序盤は連続したストーリーだが、中盤からはTVシリーズの攻殻機動隊にも
あったような1話ないし2話完結の物語が描かれながら、
新たなる公安9課の物語が描かれていく。

笑い男と個別の11人と人形使い

SACにおける笑い男も、オリジナルではなく模倣の存在だ。
天才的なハッキング技術を持つ彼は笑い男を模倣し、
自身の正義感を社会にぶつけようとした。
今作の「ポストヒューマン」もある種の笑い男の模倣だ。
彼ら自身が内面に抱えている「正義感」を社会にぶつける行動だ。

2ndGIGでは個別の11人という存在が出てくる。
彼らは特定の条件を持った「ウィルス感染者」であり、
合田一人の思想を自身の思想と思い込み、
革命を起こそうとした。

この作品はその地続きだ。
個別の11人のごとく「感染」した彼らはポストヒューマンとなり、
笑い男の模倣をするかのように自身の正義感を社会にぶつける。

更に「人形使い」のような存在もいる。
彼は原作、及び「押井守版」の攻殻機動隊で出てくる存在だ。
AIである彼は電子の海で進化し、より高次元の存在に至るために
「草薙素子」という名のイブを求めた。
今作でそんな人形使いのようなAIまで存在する。

笑い男、個別の11人、人形使い。
この作品は平成に生まれた攻殻機動隊の総決算のような作品だ。
令和における「攻殻機動隊」ともいえるのかもしれない。

江崎プリン

ふざけた名前だが、彼女は今作における新キャラだ。
なぜかバトーさんが大好きで、なぜか公安九課に憧れる少女。
ややうざったいくらいに明るい少女は自らも
「外部記憶」に残した記憶がある。

1クール目ではやや「うざい」とすら感じさせるキャラだ。
だが、2クール目の4話で彼女の真実が明らかになる。
なぜ彼女が「プリン」なんて名前にしたのか、
なぜ彼女はバトーさんが好きなのか。

そんな彼女は自らの死すら乗り越える。
ある意味で彼女もポストヒューマンとは違った人類の進化の形だ。
人の体に、人の脳に縛られない、人。

N

ポストヒューマンたちは東京へと集まってくる、
多くの人類に「感染」した彼らは「N」となのり、
革命を起こそうとしている。
ある意味で彼らは「解脱」した人間だ。

現実ではうまくいかないこと、抑圧される現実の自由、
持続的な戦争を行っている世界や社会に、自分に、誰かに絶望し、
結果的に彼らは「現実」を見限ろうとしている。

かつて「クゼ・ヒデオ」という男は
300万人の難民の指導者となり、自身と難民たちの記憶と
ゴーストをネット上にアップロードする計画を立てていた。
かつて「草薙素子」は「人形使い」と融合し、
自らの存在をネット上にコピーした。

彼らはインターネットという「電子の海」に理想郷を求め、
メタバースというもう1つの世界に逃げ込もうとしている。
現世という名の現実から解脱という名の電子の海へ。
終盤は、どこか宗教的かつ哲学的な内容へと変化していく。

現実と虚構が入り交じる終盤はあまりにも難解でヒントも少ない。
推測することはできるものの、
そこに答えがない。

何が現実で、何がヴァーチャルなのか。
電脳に支配された人類は「偽りの記憶」をあっさりと植え付けられ、
それを「真実」と認識してしまう。

見ている我々も「視覚情報」を頼ってしまう求人類であるがゆえに、
虚構と現実が入り交じる終盤は、真実が見えない。

人類補完計画orマトリックス

わかりやすくいえば、新世紀エヴァンゲリオンにおける
「人類補完計画」やマトリックスのようなものだ。
全人類が「現実」を捨て、電子の海へと至った状態だ。
誰しもが平等で、誰しもが理想とする自らの世界を「想像」し、
それを虚構ではなく「真実」と認識することができてしまう。

そこには差別はない。
一人ひとりが、個人が、理想とする虚構を現実と認識できる。理想郷だ。
しかし、同時に「ディストピア」でもある。
Nというネットワークに管理された人類は、もはやNから抜け出せない。
自分が理想とする世界を死ぬまで味わえる世界、
いや、もしかしたら死という概念すらも超越した世界だ。

人類の経済が崩壊し、ポストアポカリプスになりかけた世界で、
人類が進化し、理想郷という名のAIが管理するディストピアを手に入れた世界。
人類が進化の過程で「しっぽ」をなくしたように、
更に進化した人類は「現実」を進化の過程で捨てたとも捉えることができる。
もはや、この世界で「現実」は進化した人類にとっては不要なものだ。

個人で完結される理想の「メターバース」がそこにはある。
究極のメタバース思想を描いてると言ってもいい。
誰もが「持続的な可能」な幸福の状態を維持できる世界。
旧人類が新人類に屈服した結果の世界だ。

そんなディストピアな理想郷のメタバースを抜け出した少佐は問われる。
人形使いと出会わなかった彼女、人形使いとの融合をしなかった彼女だからこそ、
彼女にAIが「選択」を求めた結果だ。

少佐の最後の選択。
コードを抜けばこの理想郷を終わらせることができる。
少佐の選択は明確には描かれない。解釈を見ている側に求めている。
それまるで視聴者に答えを聞いているかのようだ。

「貴方は理想郷のメタバースと、辛い現実、どちらで生きるのか?」

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総評:サステナブってるぅ~?

全体的にみて圧巻の作品だった。序盤こそCGの違和感が凄まじく、
世界観の変化にもなかなかついていきづらいものがあり、
なかなか攻殻機動隊らしい面白さを感じることができない。
しかし、話が進めば進むほど強烈にのめり込んでしまう。

かつて笑い男がやったように、かつてクゼ・ヒデオがやったように、
かつで人形使いがやったように、ポストヒューマンたちは
自らの正義と思想と理想を求め動き、
そんな彼らを止めるために公安9課は行動する。
だが、彼らは結果的に止めることができない。

人類は何度も同じ過ちを繰り返している。
戦争を繰り返し、その中で技術を発展し、
そんなメビウスの輪のような状態から「進化」が生まれた。
その結果、人類は「現実」を捨てた世界へと至る。
思想的かつ、宗教的かつ、SF的な未来がこの作品では描かれている。

かつてマトリックスという作品は攻殻機動隊に影響されて
作られたと言われている。
この作品はシンプルに言えば、そんな「マトリックス」へと至る作品だ。
傷つけ合うことしかできない人類が傷つけ合わずにいられる理想郷へと、
「究極のメタバース」を、持続可能な人類の幸せを作り上げた世界。

視聴者に解釈を求めるラストと、終盤の展開はかなり難解だ。
SF的な知識がなければついていきづらい部分も多く、
CGのクォリティやキャラデザの違和感という欠点もある。
人によって強烈に好みの分かれる思想的な作品だ。

だが、攻殻機動隊という作品を好きならば
最後まで見て味わって、貴方の答えを、貴方のゴーストに聞いてみてほしい。
貴方のゴーストは一体、なんとささやくだろうか。

個人的な感想:理解を超えそうになった

ちょっと危うく理解しかねる部分が出てきそうな作品だった。
特に終盤の展開は宗教的であり哲学的であり、
そんな思想を全開にしながら、同時にSF要素も全開だ。

なんとか最後まで振り落とされずについていき、
何度も何度も自分の中で納めては吐き出し、収めては吐き出すような
そんな気持ち悪さのようなものも残り続ける。

CGのクォリティに関しては序盤をすぎればなれ、
CGだからこそのアニメーションの面白さも感じられた部分も多いが、
どうしてもフルCGは好みが分かれてしまうところだ。

今から23年年後の未来、もしかしたら、こんなシンギュラリティが起こり、
こんな未来が待ち受けてるのかもしれない。
攻殻機動隊らしい「未来」と「問いかけ」を存分に味わえる作品だった。

「攻殻機動隊SAC_2045」は面白い?つまらない?

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