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最高級のB級映画「劇場版 チェンソーマン レゼ篇」レビュー

5.0
劇場版『チェンソーマン レゼ篇』 映画
画像引用元:(C)藤本タツキ/集英社・MAPPA
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評価 ★★★★★(91点) 全100分

劇場版『チェンソーマン レゼ篇』公開記念PV/Ending Theme:米津玄師, 宇多田ヒカル「JANE DOE」Chainsaw Man – The Movie: Reze Arc”

あらすじ 「チェンソーの悪魔」との契約により「チェンソーマン」に変身し、公安対魔特異4課所属のデビルハンターとして悪魔たちと戦う少年デンジ。公安の上司である憧れの女性マキマとのデートに浮かれるなか、急な雨に見舞われ雨宿りをしていると、レゼという少女に出会う引用- Wikipedia

最高級のB級映画

本作品はチェンソーマンのアニメ映画作品。
監督は吉原達矢 、制作はMAPPA。
ネタバレも含むレビューとなっておりますのでご注意ください。

モーニングルーティン

TVアニメ版のチェンソーマンは言葉を濁して言えば賛否両論であり、
監督の写実的な演出、抑え気味な表現、乾いた雰囲気の作画は
非常に好みが分かれるところであり、しかも、それを
チェンソーマンという作品でやってしまったがゆえに
かなりの賛否両論につながってしまった印象がある。

そんな監督の存在を「総集編」は無きしものとして扱い、
原作に沿った台詞回しや演技が目立つようになっていた。
そこからの映画版だ。

多くの人がどうなっているのか気になって仕方ないはずだ。
本当に総集編のように原作の雰囲気通りになっているのか、
それともまたTVアニメ版のようにしけった花火のような作品になっているのか。

そんな期待半分、不安半分のなかで映画が始まる。
複雑な感情を抱いている中で映画冒頭ではOPが流れる、
その中で「モーニングルーティン」が描かれる(笑)
デンジ、パワー、アキ、そしてマキマさんのそれぞれの朝の様子が
OPとともに流れるのは前監督のモーニングルーティンを打ち消そうとしている
現れかもしれない。

総集編はあくまでTVアニメの映像をつなぎ合わせたものであり、
完全に前監督の気配、色は消しきれていなかった。
だが、この作品は違う、完全なるチェンソーマンのアニメを
ようやく、よーやく拝むことができる。

演技

これは作品全体で言えることだが演技のクォリティが格段に上がっている。
特に主人公である「デンジ」の演技はパーフェクトといってもいい。
序盤の段階の日常描写の中でのさりげない演技、
デンジという主人公の性欲に忠実な男の子ぶり全開の演技の数々は
本当に素晴らしく、きちんと抑えていない演技だ。

今作では「レゼ」という少女の惹かれ、まるで年頃の少年のように
逢瀬を重ね、その日々を楽しむ様も愛らしく、
性欲に支配された脳みそから出る行動や台詞の数々、
等身大の男の子らしい演技が本当に素晴らしい。

そして、それを最も感じるのは戦闘シーンだ。
チェンソーマンになり、何度も何度も殺され、再生しながら、
「ハイ」になって「ギャハハハハァ!」と叫びまわりながら戦う姿は
まさにデンジであり、チェンソーマンだ。
このヒャッハー!な主人公こそが今作の魅力でもある。

抑えていない演技、実写のような演技を意識した演技ではない。
きちんと漫画のチェンソーマンの主人公であるデンジが
アニメ化された際の演技ができている。
なぜ始めからこうできなかったのか、
この作品を見ていると常々そう思ってしまう。

デンジだけでなく他のキャラの演技もそうだ。
今作で出てくる「レゼ」を演ずる上田麗奈さんの演技も本当に素晴らしく、
ときに年頃の少女のように、ときに男を魅了する悪魔のように、
デンジが彼女に惚れてしまうのもわかるほどの蠱惑的なキャラクターの
魅力を後押ししている演技は流石だ。

更に「サメの悪魔」であるビームを演ずる花江夏樹さんの演技も
本当に素晴らしく、デンジのハイテンションな演技に呼応するかのように、
ビームもハイテンションに演技をするからこそ、
戦闘シーンが本当に見ていて楽しい。

これぞエンタメだ、声優の演技がきちんとアニメ的であり、
テンションが高いだけでキャラの魅力がぐっと強まり、
一人ひとりに愛着が湧いてしまう。

TVアニメ版との違いは「色」だ。
光を意識した撮影や演出などは多いものの、
基本的にかなり作品全体の彩度が高い。
日常シーンでの日中のシーンはきちんと太陽光を感じるものになっている。

これはTVアニメ版にはなかった要素だ、TVアニメ版は
乾いた作画でこういった彩度の高い色は使われず、
ずーっと陰鬱な印象が続くシーンが多かった。
しかし、劇場版では一気に彩度が高くなり、
ただ高くするだけでなく「チェンソーマン」という作品らしい色になっている。

中盤あたりで夕焼けのシーンが有るのだが、
その夕焼けはオレンジではなく真っ赤であり、
悪魔の血は赤ではなく、青や紫といったサイケデリックな色で描かれている。

終盤の戦闘シーンでは血液がビッシャビッシャとびかいながら
戦闘をし、その中でのエフェクトで使われる色や、
ここぞとというときで「チェンソーマン」という作品らしい
サイケデリックな色を起用することで、
これぞチェンソーマン、これがチェンソーマンなんだという雰囲気が出ている。

どちらかといえば蛍光色に近い色を決定的な場面で使うことで、
原作の「表紙絵」のような印象を受けるシーンが生まれてる。
色使い1つで作品の印象はがらりとかわり、
素晴らしい作品に仕上がっている

BGM

BGMもかなり印象的だ、ギャグシーンではギャグなBGMを、
シリアスなシーンではシリアスなBGMを、
場面にあったBGMをきちんといれることで、よりシーンの意味合いが伝わりやすくなる。
手段としては安易なのだが、その安易さがエンタメは必要だ。

レゼとのデンジの日々のBGM、ギャグシーンでのBGM、
戦闘中のBGM、どれもこれもきちんと印象的なものになっており、
その場面を盛り上げてくれる。
音楽をつけただけ、それだけなのに盛り上がってしまう。

主題歌も米津玄師、EDは米津玄師と宇多田ヒカルという
豪華さも素晴らしいのだが、劇中では挿入歌として
マキシマムザホルモンの「刃渡り2億センチ」も起用されており、
そんな音楽が戦闘のボルテージをより上げてくれる印象だ。

ストーリー

ストーリー的にはTVアニメと地続きになっている。
デビルハンターとなったデンジ、色々な悪魔と戦い、同僚を失いつつも、
彼は「涙」を流すことはない。
たとえ自分が何度も殺されかけても、彼は絶望せず、
1日3食で温かい布団の上で眠れればそれで十分だ。

だが、同時に疑問にも思う。涙を流せない自分に「心」はあるのかと。
そんな隙間を埋めてくれるのが「マキマさん」でもある。
彼は自分を好きな人が好きだ、マキマさんは自分を好きに違いない、
だからこそ彼もマキマさんが好きだ。

そんなマキマさんとデートをしたかと思えば
「偶然」レゼという普通の少女と出会う。
自分と同じくらいの学生、普通の生き方をしている女の子。
デンジは普通というの知らない、学校に通うことも、
同じ年頃の男の子がどういう暮らしをしているかも。

レゼは普通の少女だ、喫茶店でバイトをし、ときおり勉強をし、
日々を楽しそうに過ごしている。
決して毎日のように悪魔と命がけの戦いをしているわけではない。
そんな普通の少女にデンジは好意を抱かれる。

そんな日々の描写は幸せそうだ。
ややテンポは悪く、長回しのシーンも有る。
だが、それには意味がある。特に長回しのシーンは終盤で効果的に作用する。
レゼがデンジと出会い、別れバイト先に向かう道中、
非常に長くその道中が描かれる。

この長回しのシーンがラストで効いてくる。
ただ長回しすれば良いわけではない、そのシーンに
長回しをする意味がきちんとある。

幸せな日常、退屈とも言える日常はあっさりと崩れ去る

爆弾

レゼはデンジを狙う「悪魔」だ。
あっさりと裏切り、デンジの敵となり悪魔の姿になるシーンへの
こだわりはやばい。「変身」である(笑)
首元のプラグを抜いて徐々に悪魔の姿へと変身するシーンは
特撮者の変身シーンでも見てるかのように思わず興奮してしまう。

そんな「爆弾の悪魔」の戦闘描写はえげつない。
爆弾、その描写が非常に巧みで多種多様な表現で
「爆発」というものを描いている。
ときには足を爆発させて高速で移動したかと思えば、
指パッチンで爆弾を飛ばし、自らの肉片すらも爆弾に変える。

この爆発の描写が美しさすら感じさせる。
特に秀逸なのは「スロー」の使い方だ。
スローは安易な演出方法で意味もなく使う監督が多い、
だが、この作品は違う。爆発する瞬間をスローで移すことによって
爆ぜる瞬間とのギャップが生まれており、スローが効果的に作用している。

戦闘が進めば進むほど爆破の規模が大きくなり、
街1つを破壊しながら、まるで花火大会のごとく色鮮やかな爆発の数々を描いている。
漫画という白黒の媒体では味わえない色の表現、
爆弾が爆破する様子を余すことなく描くことでまるで季節外れの花火大会のごとく、
爆弾描写の数々をこれでもかと味わわせてくれる。

サメ!台風!

そんな爆弾の悪魔だけでなく、サメと台風の悪魔も参戦している。
このサメと台風の描写も秀逸だ。
台風は爆弾の悪魔の仲間として周囲を吹き飛ばしており、
そんな台風を「サメの悪魔」にのったチェンソーマンがかけまわる。
トルネードシャークもびっくりな光景だ(笑)

特にサメの悪魔はコメディリリーフとしても優秀で、
チェンソーマンを崇拝し、彼の「足」となり、
台風と血の海を駆け回るさまが気持ちよくて仕方ない。
もうノリとしてはアメリカのB級映画そのものだ。
だが、それを悪ふざけ全開で本気でやるからこそ面白い。

どいつもこいつもネジが2本どころか100本くらい無くしたような
ぶっ飛び具合で叫びながら戦うさまは本当に痛快で、
そんな痛快な戦闘シーンをMAPPAの作画が彩る

チェンソー!

作画のクォリティもTVアニメのときよりも明らかに上がっている。
爆弾の悪魔との街の中での高速戦闘など、
呪術廻戦でも見たようなMAPPAらしいハイスピードな戦闘シーンであり、
それをチェンソーマンでもこれでもかと魅せてくれる。

目にも止まらぬ戦闘シーンではある、だが、
スローや一時停止、秀逸なカメラワークを使うことで
「静と動」がうまれており、戦闘シーンにメリハリがきちんとある。
そこにケレンミをきかせたアニメーションとキャラ描写があることで
「チェンソーマン」という作品らしい戦闘シーンが
スクリーンいっぱいに広がっている。

ハイテンションな声優の演技、サイケデリックな色合い、
アメリカのB級映画もびっくりなシチュエーション、
ハイクォリティな作画と演出とカメラワーク、
それが合わさることで最高の「劇場版チェンソーマン」を味わえる。

チェンソーマンのチェンソーがうなり回転する、
その描写だけで思わずテンションが上ってしまい、
戦闘シーンは終始、思わずニヤケ顔がとまらなかったほどだ。

ラスト

そんなハイテンションバトルが終わると静かなシーンに切り替わる。
チェンソーマンと戦ったレゼ、彼女がデンジの待つ喫茶店へと歩みを進める。
序盤でデンジと出会い喫茶店に向かった道のりと全く同じだ。
序盤で長回ししたシーンを終盤でも同じく長回しで見せる。

それがラストの「結末」に効果的に作用している。
初めて自分の意思で手に入れようとしたものを失うデンジ、
それは「レゼ」も同じだ。
前半のシーンと後半でのシーンの対比が非常にうまく、
それが「長回し」のシーンでより効果的に感じさせてくれる。

この演出、この結末が映画としての満足感を
これでもかと感じさせてくれて、
チェンソーマンらしい「オチ」もきちんとある。

最初から最後まで、100分間。
私達の「見たかった」チェンソーマンがこの映画には詰まっていた。
本当に大満足な作品だった。

総評:最高の仕上がりだぁああ

全体的に見て素晴らしい作品だ。
映画全体としてエンタメ感に溢れる内容になっており、
チェンソーマンらしい良い意味でのB級映画感を極めた作品に仕上げている。
爆弾、チェンソー、台風、サメ、そして迸る血液。
見ていて気持ちの良い映像を映画館でたっぷりと味わうことができる。

ストーリーはシンプルであり、原作通りではあるものの、
前半の日常を丁寧に、ややテンポが悪いと感じるほどしっかりと
描いたからこそ後半の展開やシーンに強い意味合いが生まれている。
声優さんの演技も素晴らしく、これが見たかったチェンソーマンだった!と
心の底から叫んでしまうような感覚だ。

TVアニメ版にがっかりしたかたも、そうでないかたも、
ぜひ、劇場に訪れていただきたい。
きっと100%満足できるチェンソーマンの世界が広がってるはずだ。

個人的な感想:試写会

今回、試写会にご招待いただき鑑賞したのだが、
そういった場だかからこそドライな感じで見ている人が多い。
そんな中で私はずーっと中盤からニヤけ顔だった。
叫びたい気持ちを抑えながら座席でニヤニヤしてる様は
他の人から見ればオタクそのものだったかもしれない。

そんなオタク心を久々にどストレートに刺激してくれる映画であり、
最高のB級映画だった。
ぜひスクリーンでご堪能あれ。

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