評価 ★★★★☆(60点) 全8話
あらすじ 豪華絢爛な美容外科業界の裏で渦巻く、美と金への欲望。美容整形の光と闇を、華やかに、苛烈に描き出す医療ヒューマンドラマ[ 引用- Wikipedia
整形は悪なのか
本作品はNetflixオリジナル作品。
整形
この記事を読んでいる人は「整形」というものにどういう印象があるだろうか。
私の勝手な思い込みでしかないが、オタク、特に男性オタクというものは
整形に否定的な立場にいる人が多いように思える。
少なくとも私はそうだった。
今やSNSを開けば美女が並んでいる。だが、そのどれも作り物に見えてしまう。
生成AIで作り出した美女と整形した美女に何の差があるのだろうかと、
思ってしまったこともあるくらいだ。
だが、今やルッキズム全盛期だ。
私が子供の頃は「人を見た目で差別してはいけません」と教えられてきたが、
そんな教えなど無視して人は見た目を気にする。
『人は見た目が9割』などという本があるくらいだ。
特に現代はSNSの発展によって
「テレビの中の特別な存在」だけでなく、素人に毛が生えたようなインフルエンサーも
美男美女が多く、それに憧れる。
その美男美女たちが「加工」した結果なのか「整形」した結果なのかは重要ではない。
ネットが発達し、技術が進歩したことで身近な存在に美男美女が溢れている。
だからこそ、自分の見た目を特に客観視してしまう人が多くなったのかもしれない。
しかも、街中にもネット上にも「美容整形」の広告は溢れている。
良くも悪くも手が出せる値段で「整形」ができる世の中になってしまった。
ルッキズムという言葉も日本で広まったが、外見至上主義に溢れている世の中だ。
そんな今だからこそ「美容整形」というものを
ドラマで描く本作品に多くの人が夢中になっている。
医療
主人公は医者だ。美容整形ではなく、きちんとした病院で働く医者であり、
そんな彼女の前に患者が運ばれ、手術することになる。
その際に彼女は「胸のシリコン」を摘出する。
命を救うには必要なことだ。胸に腫瘍を抱える患者の胸に
シリコンを放置しておく医者はいない。
だが、それはイコール患者の望みではない。
インフルエンサーである患者はイベントを控えており、
そんな中でシリコンを取られてしまい、夢が叶わなくなり、自ら命を落とす。
というところから物語が始まる。
この作品の面白いところは、主人公が「美容整形」というものに否定的なところだ。
整形に対するイメージは悪く、美容整形医も嫌っている。
美容整形医が行う行為は医療行為だとすら思っていない。
だが、果たして本当にそうなのだろうか?
病院を辞める羽目になり、
家族が抱える借金を美容整形外科医に肩代わりしてもらう代わりに、
主人公は美容整形の世界に足を踏み入れていく。
声優
2話で出てくる患者は声優志望の女性だ。
声も演技力もある。だが、ダンスや歌はあまり得意ではなく、
見た目も良いとは言えない。
今や声優もルッキズムの世界だ。演技力があるというだけでは採用されない。
まるでアイドルのように扱われる声優も、見た目まで評価されてしまうようになった。
2話の患者は自分に自信がない。自分の見た目の悪さも理解しており、
両親には実家に戻るように何度も迫られている。
彼女にとってラストチャンスだ。次のオーディションのために、
彼女は美容整形を受けることになる。
美容整形は成功し、オーディションも一次には通過するのだが、
ライバルに「パパ活」をしていたことをバラされる。
そんなライバルとのもみ合いの末、彼女の整形した鼻から
プロテーゼが飛び出してくる(笑)
緊急で手術を行わなければならない。
だが、すぐにプロテーゼを入れ直すことはできない。
本来は一度プロテーゼを抜き、鼻の治療が終わってから
もう一度プロテーゼを入れなければ、リスクが高くなってしまう。
そんな主人公の提案を声優志望の女性は拒否する。
自分の命よりも叶えたいものがある。そのためには「見た目」が必要だ。
「美容整形」というものは果たして医療なのか。
序盤はこのテーマにかなり踏み込んでいる。
ちなみに、美容整形の常連である大人気声優として小倉唯さんが出演されている(笑)
老人
特に象徴的なのが3話だ。
癌で余命わずかしかない老人が美容整形を申し込んでくる。
非常にリスクが高い手術だ。だが、当然、主人公には拒否感が生まれる。
主人公にとって、美容整形は「本当の医療」ではない。
がん患者が受けるものではない。
それが主人公のスタンスだ。
しかし、余命わずかしかないからこその願いでもある。
長い人生、自分のために何もしてこなかった老人が、
最後に自分のために何かしたい。
たとえ命を落としても、余命を削ってでも、最後に美しい姿になりたい。
美容整形というものは、ある種、心の治療でもある。
見た目を気にして病む人も多い。
ルッキズムが当たり前になった社会では見た目が求められ、
求められることに応えようとした者が行き着くのが美容整形ではあr.
だが、それだけじではないということを
この作品では訴えかけてる
インフルエンサー
だが、そればかりではない。
4話では子供YouTuberが出てくる。子供時代は人気だったが、
成長して人気が落ちており、そんな中でバズるために
彼女の父は整形企画を思いつく。
本当に子供が整形したいと思っているのか。
子供の整形問題は、整形をする子がどんどん増えており、
脱毛などは当たり前のようにやっている。
本人が本人の意思で整形するならば問題はない。
だが、子供はその意思がまだ確立できていない。
成長段階の子供を整形することのリスクもある。
求められるのは「美容整形医」の倫理観だ。
利益を優先し、倫理観を捨てている美容整形医もいる。
だが、一歩踏みとどまる美容整形医もいる。
自信
印象的なのは野呂佳代さん演ずる普通の主婦だ。
専業主婦で高校生の娘がいて、
夫との関係性は悪くはないものの、いわゆる亭主関白な家庭だ。
そんな彼女の周りでは当たり前のように美容整形をする主婦がいる。
彼女はあくまで普通の主婦だ。
体型だってスリムとは言えない。見た目だって良いとは言えない。
どこにでもいる普通の主婦。
そんな主婦が「自分のため」にへそくりを使って美容整形に手を出す。
これならありがちなエピソードだったかもしれない。
しかし、彼女が整形するのは「女性器」だ。
顔や胸などではない。女性器というピンポイントの整形だ。
それ以上、彼女がほかに整形をするわけでもない。
だが、そこから彼女はどこか自分に自信を持ち始め、
パートまで始めるようになる。
彼女の「心情」というものが深く描かれるわけではない。
「女性器」にどんなコンプレックスがあったのか、
それは本人にしかわからない。
だが、整形というのは多かれ少なかれそういうものだ。
「自己満足」といえば聞こえは悪いが、
人は何かしらのコンプレックスを多かれ少なかれ抱えている。
そのコンプレックスが他人に理解されるとは限らない。
他人から見ればなんてことのない、
自分が欠点だと思っている部分が欠点ではなくなることで人生が前向きになる。
それが美容整形というものだ。
そういう意味では心の治療でもある。
一般医療では治せない、病やケガではないコンプレックスというものを治すのが
美容整形だ。
美容整形というものを、この作品はかなり肯定的に描いている。
そこは少し気になる部分ではある。
醜形恐怖症
中盤で出てくるのは安達祐実さん演ずる醜形恐怖症のキャバ嬢だ。
離婚してなかなか子供にも会えず、そんな子供のためにも
綺麗な「母」でいようとしている。
しかし、それが歪んだ欲に変わり、
醜形恐怖症、整形依存症のような状態に陥っている。
この作品全体に言えることだが、「整形」した顔、もしくは
「整形前」の顔を特殊美術で作り上げており、それがかなり自然だ。
どこかで見たことのあるような整形顔が、かなり生々しく再現されている。
安達祐実さん演じるキャバ嬢は、まさにそんな見た目をしている。
整形を繰り返していくうちにバランスが崩れ、
どんどん整形にのめり込んでいく。
結果、人から見れば一瞬ギョッとしてしまうような顔になってしまっている。
それで本人が満足であればいいが、満足していないからこそ
繰り返し整形を行ってしまう。
これもまた心の病だ。
誰かが寄り添い、向き合わなければ、本人だけでは止められないところまで来ている。
そんな中盤までのエピソードは非常に素晴らしく、
「整形」というものが何なのかということを肯定的に描いている。
だが、問題は中盤からだ。
親子
序盤からこの作品は親子というものを描いている。
インフルエンサーの母、声優の両親、子供YouTuberの親、主婦と娘、
キャバ嬢と息子という感じで、親子というものを描きながら
整形というものを描いている。
「親からもらった体に傷をつけるなんて」
と、整形やタトゥーをする際によく言われる言葉があるからだろう。
親からもらった顔にメスを入れて変えてしまう。
それは親によっては、どこか子供の裏切りのように感じてしまうかもしれない。
だからこそ、親子という要素を盛り込んだのかもしれない。
それ自体は悪くないのだが、問題は二人の主人公だ。
再婚した母に育てられ、本当の父の顔も名前も知らない主人公と、
「神の手」と称される美容外科医を父に持つ女医。
この二人の親子関係も描かれている。
ここまで美容整形という一つのテーマからさまざまな価値観を描いていたのに、
中盤から急に「主人公たち自身の出生と家族のドラマ」へ舵を切ってしまう。
これが非常に微妙だ。
あくまでドラマのスパイスだった序盤はまだしも、
中盤以降はそこがメインになってしまい、
美容外科医である女医の父が、女医の医院を乗っ取るために画策しだし、
それに女医が対応したりする。
主人公の母も美容整形というものになぜか拒否感を持っており、
主人公が美容整形医になったことに反発して
やめていた酒に手を出し、頭を打って入院したりと、
中盤以降は整形が関係ないエピソードばかりになってしまう。
父
さらに、実は主人公の本当の父が女医の父であることが明らかになる。
非常にどうでもいい展開だ。
そんな要素のせいで女医との関係も複雑なものになり、
最初は女医の秘密をつかもうと動いたり、彼女のイップスを
SNSにばらまいていたはずの主人公が女医に寄り添ったりと、
何がしたいのかわからなくなる。
挙げ句の果てが、終盤の展開だ。
事故
これは衝撃的というより、ちょっと笑ってしまったのだが、
女医のクリニックを主人公が辞めることになり、
彼女は知り合いのバイクの後ろにまたがって海に行くことになる。
そこで事故る(笑)
あまりにも唐突で脈絡のない展開は、どこか韓国ドラマでも見ているかのようで、
唐突すぎて笑ってしまったほどだ。
そんな事故の結果、大けがを負った主人公は顔がボロボロになってしまう。
ここで主人公が自らの顔に何らかのコンプレックスを抱き、
美容整形に手を出すという展開ならまだわかるが、そうではない。
主人公と女医の関係性、シスターフッド的な関係性の構築と、
ラストシーン自体には素晴らしいものがあったが、
途中からまるで別のドラマを見ているような感覚になってしまったのが
残念な作品だった。
総評:整形に否定的なアニオタが整形ドラマを見た結果…
全体的に見て高クオリティなドラマだ。
特に序盤から中盤は「美容整形」というものに踏み込んだドラマになっており、
それをどこか肯定的に描きつつ、一話一話で印象に残る
エピソードを積み重ねている。
役者の演技力も見事だ。
「松岡茉優」さん演じる主人公は男勝りな感じがあり、
キャラクター性が確立されており、
「仲里依紗」さん演じる美容クリニックの院長の演技も素晴らしく、
この二人の関係性の変化が、どこか同性愛的にも描かれている。
他の役者の演技も見事で、整形というものを再現した美術も素晴らしかった。
ただ、中盤からの展開は完全に別のドラマでも見ているかのようであり、
終盤の主人公の事故から、医療としての「形成外科」と美容としての「美容整形」の
違いを描いてくれれば違ったが、そうではなく、
違うドラマの物語をくっつけたかのような展開になってしまう。
そこがかなりチープに感じてしまう部分で、
ラストシーンこそ悪くないのだが、
そこに至るまでの中盤からの流れが序盤までと比べると
クオリティが落ちてしまうのが残念だった。
しかし、間違いなく序盤から中盤は面白い作品であり、
「整形」というものに肯定的な人も、否定的な人も
見ていただきたい作品だ。
個人的な感想:美容整形の是非
整形に対して、ここまで気軽にできる時代になったからこそ、
私は以前のように整形に否定的ではない。
白髪を染める、歯を矯正するのと何が違うのかと言われれば、
明確な反論も出ない。
ただ、今でも行き過ぎた整形や整形依存、
未成年への美容整形などには疑問がある。
それでも、この作品を見て少し考え方は変わった。
他人から見ればどうでもいいようなコンプレックスでも、
本人にとっては人生を左右するほど大きな問題なのかもしれない。
それを手術によって取り除き、その人が前向きに生きられるのであれば、
それを他人が「偽物だ」「整形だ」と否定する必要が果たしてあるのだろうか。
美容整形は病気を治すものではない。
だが、時には人の心を救う医療にもなりうる。
この作品の序盤を見て、私はそんなことを考えさせられた。



