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名作なのに台無しクソラップ 「クスノキの番人」レビュー

4.0
クスノキの番人 映画
画像引用元:(C)東野圭吾/アニメ「クスノキの番人」製作委員会
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この記事を書いた人

オタク歴25年、アニメレビュー歴13年、YouTube登録者11万人。 個人的な視点で語るアニメ批評です。

評価 ★★★★☆(60点) 全113分

あらすじ 直井玲斗は理不尽な理由で職を失い、やけになって窃盗の罪を犯し逮捕・拘留される。将来への展望もなく、人生に投げやりになっていた玲斗のもとに突然、「依頼人の命令に従えば釈放する」と条件を提示する弁護士が現れる。 引用- Wikipedia

名作なのに台無しクソラップ

原作は東野圭吾による小説作品。
監督は伊藤智彦、制作はA-1 Pictures、Psyde Kick Studio。
東野圭吾作品としては初のアニメ化作品となる。

主人公は映画冒頭の時点で職を失っている。
無実の罪を着せられ、解雇され、金に困り職場の金を盗もうとした結果、
彼は警察に捕まってしまう。

両親もおらず頼る者もいない彼のもとに「弁護士」がやってくる。
怪しげな弁護士は「依頼人の命令に従えば釈放する」という条件を課し、
その条件を飲んだ主人公は「叔母」と初めて出会うことになる。

主人公は将来の夢も、未来も見えない若者だ。
そんな先のない彼に叔母は「クスノキの番人」になることを依頼する。

いつ、誰が、どういう目的で建てたのかも分からない神社にあるクスノキ。
クスノキに願えば願いが叶う、そんな伝説のあるクスノキを管理し、
「祈念」という儀式を手伝うことになる。

冒頭から主人公と同じく「状況」を飲み込みにくい。
クスノキのファンタジー的な伝承、
唐突に依頼されるクスノキの番人という仕事、叔母の思惑。
クスノキに対する「祈念」とはなんなのか。

祈念した父がクスノキに何を祈念したのか暴こうとするヒロインもいる。
大企業の社長の息子が「祈念」に成功するのを
大の大人たちが願っていたりと、かなり謎が多い。

序盤はどこかダイジェスト的であり、クスノキの番人に至るまで
かなりテンポよく描かれている。
主人公も理解していない状況だからこそ、そこをじっくりと描くのではなく、
あえてダイジェスト的に描き、見ている側にも謎を叩きつけてくる印象だ。

「東野圭吾」というミステリー作家らしい「謎」を序盤で提示する。
決して殺人事件が起こるわけではない。
しかし、殺人事件よりも興味深い「クスノキ」の謎を
見ている側が自然に解き明かしたくなるようなミステリーの魅力がある。

家族

主人公は小学3年の時に母を亡くしている。
「家族」との良い記憶というものもろくにない。
そんな彼の前に親族である叔母が現れ、彼の環境は一変する。
箸の持ち方も、一張羅という言葉の意味すら知らなかった彼が
厳しい叔母のもとで変わっていく。

ろくに未来もない無職だった若者が、
大企業グループの叔母のもとで、大人の世界を知る。
彼の前には「可能性」がある。
その可能性をどう掴むのかは彼次第だ。

死ぬ時に何か1つ持っていれば良い。
その何かを明確に掴むのではなく、のらりくらりとしている。

今、この作品を見ている若者、かつて若者だった私たちにも
「経験」のあることだろう。
誰も彼もが夢に向かって一直線というわけではない。
主人公だけでなく、主人公がかつて働いていた職場の社長の息子もそうだ。

「会社を継ぐ」という未来が決まっている者でさえ、
何かを掴めそうで掴めないでいる。

クソラップ

そんな物語への没入感が高まり、この先どういうストーリーを展開していくのか。
謎がなかなか明らかにならず、主人公たちも悩み苦しんでいるのが中盤だ。
その没入感、物語へ引き込まれている私たちを一気に現実に引き戻す。

それがクソラップだ(苦笑)

主人公はクスノキへの祈念の謎を解き明かすために、
クスノキの中に盗聴器を仕込んでしまい、それがあっさりとバレてしまう。
叔母の自分への信頼すらも裏切り、彼は神社を去ることを決める。

そんな中で流れ出すのがラップだ。
もう意味が分からない。
せっかくしっとりとした雰囲気の中で
作品への没入感、キャラクターへの感情移入が生まれる中で、

「きっとこんなはずじゃなかったと毎晩おもうこともあった、
 それもいつのまにかどうせこんなはずだった思うようになり、
 八つ当たりできる相手も場所もない、誰でも価値があるということは
 まるでスーパーレアガチャのバーゲンセールのようなもので」

と早口のラップがいきなり流れてくる。
一瞬で冷静になり、一瞬でこの作品に対する嫌悪感が巻き起こる。

とんでもねぇクソラップである。
作品の雰囲気を、名作のストーリーを、心理描写をラップでグシャグシャにされる。

職人が目の前で握ってくれる寿司を1つ1つ丁寧に食べていたのに、
唐突に現れた酔っぱらい客がカウンターでウンコを漏らすような感じだ。
最悪でしかない。

ここまで100点だった作品が-1000点に叩き落とされる感覚を味わえる。
なかなか味わえるものではない。

伝える

主人公は多くのことを叔母から教わっていく。
本来は母から、家族から教わるはずだったもの、
受け継ぐべきだったものを彼は受け継いでいく。

子どもは親や親戚から多くのものを受け継いでいる。
知識、常識、立場、金。
この作品に出てくる若いメインキャラの親族は
多くが社長や企業の上の方にいる存在だ。

それだけでなく、祈念に訪れる者は歳を重ねた者が多い。
歳を重ねたからこそ「思い」を受け継いでほしいという思いがある。
その「思い」を託すのが祈念だ。

クスノキに託された思いは、クスノキで祈念した血縁者に受け継がれる。
伝え、受け継ぐ。
2つの祈念をもって祈念となる。

伝えたかった思い、伝えられなかった思いを託す。
必ずしもクスノキから思いを受け取れるとは限らない。
クスノキはあくまでも補助だ。
たとえそれがなくとも、血の繋がりがなくとも、
子は、若者は、先人から多くのものを受け継いでいく。

決意

それが終盤で若者たちの決意となって現れる。
チャラチャラしていた社長の息子が、何も未来がなかった主人公が、
ピアノを諦めていたヒロインが、決意し、それを形にしていく。
映画序盤で描かれた謎が綺麗に終盤で回収される。

この終盤は思わず涙腺を刺激されてしまう展開だ。
先人たちが残した思い、それは必ずしも報われるものではない。
「無念」という思いもある。
自らの死期を、人生の終わりを察しているからこそ、先人たちは
より多くのものを残そうとする。

主人公の「叔母」の思い、クスノキに託した思いは
いつか忘れてしまうかもしれない。
だが、主人公には託された。
思いは受け継がれていく。親や家族が亡くなっても、
たとえクスノキがなくとも。

この作品の原作者たる「東野圭吾」さんとしては初のアニメ映画だ。
作家として40年以上、多くの作品を残し、映像化もされている。
それなのに「アニメ」という媒体で東野圭吾氏の作品が描かれることはなかった。

なら、どうして『クスノキの番人』は「アニメ」になったのだろうか。
それはもしかしたら、東野圭吾氏が先を行く者として
残したいものがあったからかもしれない。

そんな原作者の思いすら感じさせてくれる作品だった。

総評:100点の名作からの-1000点のクソラップ

全体的に見て、1点を除いて素晴らしい作品だ。
「東野圭吾」というミステリー作家らしい要素を序盤で描き、
それが終盤で一気に紐解かれることで感情の爆発が生まれ、
思わず涙を流してしまうような名作になっている。

この作品で描かれた若者たち、それは現実の若者でもある。
未来が決まっていない、まだ先が見えない。
そんな若者たちへ親や家族が「残そう」とする思いとその積み重ね、
「受け継ぐ」ということの意味と大切さを描いている作品だ。

ストーリー構成的にかなりハイテンポで描かれており、
会話劇の作品なのに間延びや飽きが生まれない。
アニメーションとしても素晴らしく、単純な会話劇をそのまま見せるのではなく、
工夫されたカメラワークや演出、終盤の盛り上がるシーンは
あえてアニメ的な誇張とアクションを混ぜて描いており、
作品全体を飽きさせない。

声優もいわゆる芸能人声優が多く出演しているが、
しっかりとした演技力でキャラクターを支えている。
主人公の叔母を演じた「天海祐希」さんの演技はさすがの一言であり、
主人公を演じた高橋文哉さんはプロの声優と言われても分からないほどだ。

社長の息子を演じている「宮世琉弥」さんも素晴らしい演技力だ。
ヒロインを演じている齋藤飛鳥さんも元アイドルであり、
若干拙さを感じる部分はありつつも、それがヒロインの可愛らしさにもつながっており、
サブキャラをプロの声優が支えることで作品の雰囲気を壊さない。

ストーリー、アニメーション、声優、どれも素晴らしく名作といえる。
しかし、本当に唯一謎なのが「ラップ」である(苦笑)
何度見返してもこのラップだけは納得がいかず、
せっかくの没入感を台無しにするクソラップでしかない。

本当にあのクソラップがなければ100点の名作なのに、
そんな名作を-1000点にするクソラップが
ノイズすぎる作品だった。

個人的な感想:名作なのに

評価に困ってしまう作品だ、クソラップ以外では文句の付け所がなく、
クソラップを無視すれば高評価できるのに、
クソラップのせいで素直に高評価しづらくなってしまっている。

主人公の心理描写としてラップを選んだのはわかるが、
この作品のテイストに合っているとは言えず、
見終わった後にラップのことばかり考えてしまうような作品だ。

ただ、この感覚はめったに味わえるものではなく、
ラップ以外は素晴らしい作品なだけに、
いろいろな意味でぜひ味わっていただきたい作品だ。

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