評価 ★★★☆☆(58点) 全81分
あらすじ 体を求めて街をさまよう切断された手と、ひとりの青年の心に芽生えた淡い恋心。パリを舞台に、恋愛と謎が交錯する不思議な冒険を描いた、繊細なアニメ作品。引用- Wikipedia
右手が主人公
本作品はフランスのオリジナルアニメ映画。
監督はジェレミー・クラパン、制作はシーラム。
現在はNetflixで配信中。
手
映画序盤から非常に独特な世界観だ。
フランスアニメ映画らしい芸術的な雰囲気があふれる中で、
「切り落とされた右手」だけが動き出す。
右手ゆえに「言葉」は存在しない。
アダムス・ファミリーのあのハンドのようなキャラクターだ。
自分の「体」を求めながら彼はさまよう。
右手に残された記憶、何かに触れ、誰かに触っていた記憶を
道中で描きながら物語は進んでいく。
音楽家の母を持つ少年の右手。
多くのものに触れながら、子供は大人になっていく。
ピアノの鍵盤、自転車のハンドル、おもちゃ、
事故で両親を失った瞬間。
「脳」という器官のないはずの「手」が持つ、触れた感触に
あえて注視した過去回想は非常に面白く、
「手」の感触という視点で過去が描かれるというのは斬新だ。
普通なら顔や表情に注目するところを、
この作品では何かに触れ、何かを掴む「手」に注目させる。
自然と見ている側も彼の右手に視線が行き、
その手が何を感じ、何を失ってきたのかを意識させられる。
社会
手だけの存在だからこその「視点」や、行動の数々は面白い。
あくまで手としての力と機能しかない。
動きも力も制限される中で、右手はフランスの街を動き回る。
本作で描かれる街は、
どこか乾いていて、どこか孤独を感じさせる。
我々日本人がイメージするような華やかな芸術の街というよりも、
雑然とした都市の中で、人々がそれぞれ孤独を抱えて生きている。
そんな街の中を右手はさまよう。
社会の荒波にまみれながら、ときに鳩やネズミに襲われながら、
自分の体を求めて動き続ける。
それは右手の持ち主も同じだ。
子供の頃の夢を叶えたわけでもなく、
ピザの配達員として灰色の日々を送っている。
未来も、夢も、希望もない。
ただ生きるために生きているだけ。
そんな焦燥感と無力感の中で、一人の女性と出会う。
インターホン越しのちょっとした会話。
高層マンションに住む女性と、自分。
立場は違うはずなのに、どこか同じものを抱えている。
声しか知らない女性に恋をし、彼の人生は変わっていく。
やや行動自体はストーカー的ではあるものの、
今の自分を変えるために、彼はこれまでの生活から一歩踏み出そうとする。
失う
ストーカー的な行動で始まった恋は、彼の人生を変える。
意中の相手とも仲良くなり、手に職を得る。
少なくとも彼自身は、
今までとは違う人生を歩き始められると思っていたのかもしれない。
しかし、ストーカー的な行動が明らかになると、
意中の相手は当然のように態度を変えてしまう。
せっかく変わると思ったのに。
変えられたはずだったのに。
そんな苛立ちと焦燥感の中での仕事中、
彼は右手を失うことになる。
色々なものを失ってきた人生だ。
子供の頃の夢も、母も、父も、そして右手も。
もう取り戻せないものばかりだ。
もう一度、失いたくないものを手に入れようとしたはずなのに、
彼はまた失ってしまう。
それでも彼は自らの命を失うことはしない。
多くのものを失ってきた。
そこには自分自身の選択や行動が原因になったものもある。
彼のストーカー的な行動そのものは決して肯定できない。
だが、失敗し、拒絶され、さらに右手まで失ったことで、
彼はようやく過去に縛られた自分自身と向き合うことになる。
失った手が彼のもとに戻ってきても、
元の手に戻るわけではない。
失ったものは元には戻らない。
両親も、夢も、恋も、右手も。
どれだけ願ったところで、過去そのものを取り戻すことはできない。
それでも人は生きていかなければならない。
失ったものを抱えたまま、前に進まなければならない。
そんな哲学的なものを感じさせる作品だった。
総評:右手から教わる哲学
全体的に見て、非常に文学的な作品だ。
日本のアニメ映画のようなエンタメ大爆発で
分かりやすい作品というわけでもない。
フランスのアニメ映画らしいアニメーションによる演技と、
哲学的なメッセージを感じさせるテーマは、
鑑賞後に深く残るものがある。
切り離された右手がフランスの街を動き回る。
その奇妙な光景を描きながら、
この作品は徹底して「手」に着目する。
ピアノを弾く手。自転車のハンドルを握る手。
誰かに触れる手。何かを掴もうとする手。
主人公の過去を「手」の記憶として描き、
現在ではその手そのものが主人公の体を求めて動き回る。
だからこそ、最終的に右手を失うという出来事にも大きな意味が生まれる。
彼の人生は決して褒められたものではない。
彼自身に原因があるものも多く、
恋愛面での行動も決して肯定できるものではない。
だが、それでも彼は生き続けている。
彼だけではない。人は何度も何度も失ったものを思い出しながら、
生きていくしかない。
命、恋、夢。
人が生きるということは、何かを得ることであると同時に、
何かを失っていくことでもある。
そして、失ったものは元には戻らない。
だからこそ、失ったものだけを見続けるのではなく、
これから何を掴むのかが重要なのかもしれない。
彼の恋の行方、仕事の行方がどうなったかは分からない。
人生が劇的に好転したわけでもない。
だが、彼は一歩踏み出した。
過去を取り戻すためではなく、
失ったものを抱えたまま、これからを生きるために。
フランス映画らしい芸術的なアニメーションと、
そんな哲学を味わえる作品だった。
個人的な感想:フランス
ここ最近、フランスのアニメ映画が多く日本でも上映され、
日本で見られるものはある程度見ておこうと思い、
この作品に手を出したが、非常にフランスアニメ映画らしい作品だった。
日本のアニメ映画とはテイストが違うからこそ、
面白みもまた違う。
毎回見るには少し重たいが、
たまにこういう作品を味わうのも悪くない。
フランスアニメ映画ばかり味わうと、
フランス料理のように胃もたれしそうだが(笑)



