評価 ★☆☆☆☆(28点) 全61分
あらすじ とある地方の高校で運命的に出会った2人の少女イギョンとスイの、距離が近づいていくことの喜びや、一見するとささいにも思えるすれ違い、そして避けられなかった結末までを、2人のモノローグとともに描く。 引用- Wikipedia
新海誠風韓国百合はビターな味
本作品は韓国のアニメ映画作品。
監督はハン・ジウォン。
韓国では2023年に上映され、日本では2025年に吹替版が上映された。
夏
本作品のタイトルにもなっている「夏」。
その夏を序盤からビンビンに感じることができる。
蝉の鳴き声、夏の昼間の日差しから夕焼け、
日焼けした少女たち。
リアルな背景は、どことなく新海誠監督作品のテイストを感じる仕上がりであり、
キャラクターデザインも初期の新海誠監督作品に近い雰囲気がある。
新海誠監督作品も夏が舞台になりやすいこともあって、
あの頃の作品を強烈に思い出させる。
そして、それは「失恋」という題材にも通じる部分がある。
青春
本作品は61分ほどの短編映画であり、それゆえに展開が早い。
映画冒頭で、メガネをかけた少女「イギョン」に、
サッカー少女である「スイ」の蹴ったボールが当たってしまう。
そんなありがちな出会いをきっかけに、
イギョンはスイのことが気になってしまう。
そう、この作品は百合だ。
きっかけはちょっとした出来事。
そんな出来事をきっかけに、
二人は互いのことが気になってしまう。
「甘酸っぱい」夏の百合模様がほほえましく、
そこには韓国らしい要素もある。
韓国の学生たちの日常。
インスタントラーメンのようなものが入った鍋を食べたり、
ジュースを買ったり、橋の下でダベったり。
イギョンのモノローグによって心理描写がなされつつ、
二人の距離が徐々に、徐々に近づいていく。
告白という決定的なものはなくとも、自然につながる手、通じ合う心。
放課後の倉庫で抱きしめ合う。
どこかポエミーな台詞回しも、初期の新海誠監督作品を思わせる。
もう今の新海誠監督には描けないような、
甘酸っぱく、ほろ苦い青春模様がこの作品にはある。
百合
日本と同じように、韓国でも「同性愛」に関しては、
まだ当たり前のものではない部分がある。
この作品の原作が2018年の短編小説ということもあり、
現在の韓国については分からないものの、
少なくとも本作の描く2000年頃の韓国では、
周囲の視線が二人に重くのしかかっている。
二人は付き合っているが、それを決してオープンにはしない。
特にスイはそれを嫌い、
イギョンはどこかオープンにしたい気持ちがある。
同性愛者同士であっても、考え方が同じとは限らない。
他人はどうでもいいと思うイギョンと、
他人の目線を意識してしまうスイ。
同性愛だけでなく、見た目に対する偏見も厳しく、
イギョンの茶色い髪と茶色い目を「犬みたい」と侮蔑してくる者もいる。
だが、イギョンにとって他人は他人だ。
そんな言葉を投げかけてくる相手は、
「愛情が足りていないから」だと思っている。
そういうカラッとした性格だ。
しかし、スイは違う。
「やめればいいのに」
サッカーを続けたいと悩む彼女に、
イギョンはあり得ない言葉をぶつけてしまう。
サッカーを続けたいのに、
過去にケガをした箇所を試合中に再び痛め、
彼女はサッカーを続けられなくなってしまう。
すれ違い
徐々に二人はすれ違っていく。
大学へ進学したイギョンと、
アルバイトをしながら整備士の専門学校に通うスイ。
環境が変わり、会う時間も、電話をする時間もなくなっていく。
それでもスイはお金を貯め、
イギョンの寮のそばに住むようになり、
二人の関係性は一度は改善する。
しかし、環境の違いは大きい。
おしゃれなレズビアンバーやパン屋で働くイギョンと、
ボロボロになりながら整備士になろうとするスイ。
環境が違う二人が互いの世界に足を踏み入れれば、
その違いやすれ違いが、よりはっきりと見えてしまう。
そのすれ違いからか、
イギョンはあっさりと別の女性を好きになる(苦笑)。
大人になり、環境が変わり、
きれいな大人のお姉さんへの憧れを抱いてしまう。
そんな女性とは真逆のスイへの思いが、
次第に冷めていく。
身勝手ではあるものの、
人の気持ちが環境によって変わってしまう生々しさはある。
ずっと変わらないと思っていた関係が、
生活や価値観の違いによって崩れていく。
その苦さこそが、本作品の描きたいものなのだろう。
ただ、61分という短さもあって、
イギョンの心変わりがやや唐突に見えてしまう。
モヤモヤ
終盤から、イギョンはそんな大人のお姉さんに夢中だ。
彼女と会えなくなっても思いを捨てきれず、
結果としてスイを捨てる。
イギョンのかなり身勝手な行動と心変わりに
ついていけるかどうかで、
この作品の評価は大きく変わる部分がある。
別れることを自分で決め、自分から言い出したのに、
「スイ……スイ……」と女々しくなる姿は、
個人的にはついていけなかったところだ。
もちろん、別れを選んだからといって、
未練がなくなるわけではない。
頭では終わらせたつもりでも、
感情までは簡単に割り切れない。
そういう人間の矛盾を描いた場面なのだろう。
ただし、その心情を理解するための描写が十分だったかといえば、
少し疑問が残る。
それどころか、大人のお姉さんとの付き合いも一年ともたない。
いまいち消化しきれないモヤモヤが残り、
何とも言えない感覚が残る作品だった。
総評:
全体的に見れば面白い作品ではあるのだが、
素直に楽しかったとは言いづらい作品だ。
新海誠監督作品を思わせる背景描写やポエミーな台詞回しなど、
日本のアニメから影響を受けた部分を強く感じつつも、
韓国だからこその舞台背景には面白さがある。
序盤は二人の百合模様をニヤニヤと見つめていられるのだが、
中盤以降はイギョンの身勝手な行動にモヤモヤしっぱなしであり、
そのモヤモヤが晴れることなく終わってしまう。
だが、このモヤモヤこそが、
失恋というもののリアルな後味なのかもしれない。
どちらか一方が明確に悪いわけでも、
きれいに納得できる理由があるわけでもない。
環境が変わり、気持ちが変わり、
かつて愛した相手と離れていく。
そんな苦い青春の終わりを描いた作品だ。
女性監督であるハン・ジウォン監督が作り上げた、
韓国の百合映画という斬新さはあるが、
どこか既視感もありつつ、
素直に人には勧めづらい作品でもある。
イギョンの心変わりをもう少し丁寧に描けていれば、
単なるモヤモヤではなく、
忘れがたい苦い青春映画になっていたかもしれない。
あと一歩で名作になりそう。
そんな期待を感じさせるだけに、
ハン・ジウォン監督の今後の作品に注目したいところだ。
個人的な感想:韓国
韓国のアニメというものはたまにしか見ないが、
「こういう作品も作られるようになったんだな」と、
ひしひしと感じさせられる作品だ。
同性愛ものは日本でも賛否が分かれ、
好みが分かれるところもあり、
特に「ガチ」なものほど、その傾向にある。
そういった人を選ぶ作品であることは、
韓国でも変わらないはずだ。
それでも短編映画を作り、公開までこぎ着けている。
日本のアニメからの影響を感じさせながらも、
韓国独自の社会や青春の空気を描いている。
韓国のアニメ文化も、
どんどん育ってきていることを感じさせてくれる作品だった。


