「夜は短し歩けよ乙女」レビュー

2018年11月18日

評価 ★★★★★(100点) 全93分

あらすじ クラブの後輩である“黒髪の乙女”に思いを寄せる“先輩”は今日も『なるべく彼女の目にとまる』ようナカメ作戦を実行する。引用- Wikipedia

これぞ森見登美彦の世界観、これぞ湯浅政明の世界感っ!

原作は森見登美彦による小説。
監督は湯浅政明、制作はサイエンスSARU。
森見登美彦原作で湯浅政明といえば「四畳半神話大系」だ。
そのタッグで再びアニメ化されたという感じの作品だ。

怒涛のモノローグ


引用元:©森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会

登場人物が自分の思ってることや感情、
現状を心の中で言うのがモノローグだ。
アニメで言えば「涼宮ハルヒの憂鬱」のキョンなどが最たる例だろう。
涼宮ハルヒの憂鬱の以降、このモノローグを安易に使う作品が増えた。

しかし、この作品は「モノローグ」が面白い(笑)
飲み会で登場人物が出るたびにモノローグで自身を語る。早口で。
畳み掛けられるような勢いで語られるモノローグを解き放つキャラを
「星野源」と「花澤香菜」が演じる。
「いい声」と「素晴らしい演技力」がなければ、
このモノローグの面白さは伝わらないだろう。

小説の中でモノローグは当たり前のように使われる。
その当たり前をアニメの中でも多用する。
モノローグで進む物語とキャラの描写の数々、
小説にありがちな「詩的な表現」でさえもモノローグでさらっと語られる。

聞き取れるギリギリのテンポでセリフを詰め込むことで、
まるでサラサラと読みやすい小説を文字を飲むこむように、
「聞く」ことができる。
これ以上台詞のテンポが早ければ聞き取れない、逆に遅ければ面白くない。
この絶妙なテンポで綴られるモノローグがたまらない。

森見登美彦の世界観


引用元:©森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会

森見登美彦作品の世界観は独特だ。だが、その独特な世界案を
中村佑介さんのキャラ原案と湯浅政明の大胆な動きと演出が相まり、
森見登美彦作品の世界観を「見て」味わえる。

この世界観の中で主人公である先輩とヒロインである黒髪の乙女、
名前のないキャラクターが動き回る。
ストーカー気質な先輩が思いを寄せる黒髪の乙女、
この二人のキャラを中心に描かれるストーリーは最初は全くつかめない。

目まぐるしく切り替わり場面、次々と出てくるキャラクター、
ひたすら飲み歩く黒髪の乙女と、巻き込まれまくる先輩、
詰め込みまくりなセリフが雪崩のように降り注いでくる。
交わりそうで交わらないヒロインと主人公がいつ交わるのか、
見てるうちによめなさすぎる話の展開にワクワクしてくる。

意外な関係性と荒唐無稽に思える展開


引用元:©森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会

この作品のキャラクターは多い、何の脈絡もなく登場し、いつのまにか居る。
そんなキャラクター同士が話が進んでくると意外な関係性であることがわかる。
その関係性がわかるたびに「あぁ、そういう関係なのか」という、
関係性がわかるだけなのに、それが面白い。

ストーリー展開は本当に読めない。
主人公はパンツを盗まれたかと思えば酔いつぶれ、
ヒロインは飲み歩いていたかとおもえば見ず知らずの人物の借金の帳消しのために
飲み比べ勝負を始め、勝負を挑んだ相手の船には盗まれたパンツが飾られていて、
場面が切り替われば古本探しが始まる。

もはや文章にしていても意味がわからない(笑)
だが、その意味のわからなさと展開の唐突さが繰り返される中で、
それが不思議と面白い。

畳み掛けるようなセリフと、その量とテンポがなせる技なのか。
一見「荒唐無稽」に感じるようなストーリーが繋がっていく感覚が、
まるで複雑なパズルをしているかのような感覚になるほどだ。

湯浅政明の遊び心


引用元:©森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会

湯浅政明監督のセンスのなせる技をところどころに感じる。
少し古くささえ感じる演出をあえて取り入れ、明るい色彩とエフェクトを多用し、
湯浅政明監督らしい「切り絵」のような作画を挟み込むことで、
見ていて飽きさせない画面作りになっている。

この作品は多くの登場人物の話が描かれる中で
先輩と黒髪の乙女のストーリーが描かれる作品だ。
ゆえにテンポが遅かったり演出が地味であれば、
途端に退屈に感じてしまいやすい作品だろう。

そこを小説を読んでいるときの「想像の世界」を大胆に彩ったような
シーンの数々は「アニメーション」としての動きの面白さと、
アニメとしての面白さときちんと体現している。
湯浅政明のセンスが森見登美彦の世界観の中で暴れまくっている。

ちなみに、四畳半神話大系を見ていた方には
たまらない「小津」に似たキャラが出てくるのも
四畳半神話大系のファンならばたまらないサービスだろう。
四畳半神話大系とは別作品だが舞台は同じで主人公とカップルだけが違う。
そんな感じすら味わえる世界観の表現がたまらない。

交わりそうで交わらない、あぁ恋とはそんなもの。


引用元:©森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会

主人公である先輩とヒロインである黒髪の乙女。
彼と彼女は見かけたり、一瞬出会ったり、下半身裸で現れたりするが、
一瞬だ。会話などせず、交わらない交わらない。

思いを寄せる先輩は黒髪の乙女の気を引くために
思い出の本を手に入れたりするのだが、
当の本人は学園祭を満喫し、いきなり舞台女優になったりと、
もはや、これは先輩の片思いで終わるのではと思うほど交わらない。

そんな中でようやく対面する。
紆余曲折ある中で、紆余曲折を経て、ようやく対面しても、
また離れ離れになる(笑)

徐々に近づいてはいるが、なかなかうまくはいかない。
怒涛の展開と詰め込むようなストーリーの中で、
荒唐無稽にも見えるのだが、この作品なりの「恋の駆け引き」が描かれる。

静寂と終焉


引用元:©森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会

怒涛かつ荒唐無稽かつ畳み込まれるように描かれていた序盤から中盤。
この作品はどういう結末を迎えるのか気になるところで、
一気にこの作品は「静か」になる。

四畳半神話大系という作品も色々なサークルに入ったあと、
最後は「四畳半」だった。
この作品も短い夜を乙女が歩く中で、騒がしかったキャラ達が風邪をひく。
描かれてきた関係性があるからこそ人を通じて「風邪が移り」、
出てきたキャラクターの殆どが風邪を引いている。
風邪とは人との関わりそのものだとでもいいたげだ。

そんな風邪なキャラたちを黒髪の乙女が各キャラのお見舞いに行く。
飲み歩き、学園祭で騒いだのが嘘のように静寂だ。
お見舞い巡りをする中で各キャラの何気ない一言が、黒髪の乙女の心に響く。
そして、とあるキャラが彼女に言う「夜は短し歩けよ乙女」。

命短し恋せよ乙女


引用元:©森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会

彼女がドコへ向かって歩くのか。
そして歩いた先に誰が待っているのか。
風邪で寝込んで孤独と自己疑念に苛まれる先輩のもとにだ。

彼が彼女の何処をスキなのか、それは本当に恋なのか、
彼がどうしてここまで回りくどいことをしていたのか。
心の中で自分自身と向き合い討論する。

先輩の家へ向かう黒髪の乙女の道中は湯浅監督のセンスが爆発しており、
ただの道が大スペクタクル映画にように描かれる。
ただの「お見舞い」をここまで大胆に表現できるのかと、
見てるうちに思わず笑ってしまったほどだ。

そしてラストシーンを迎える。夜が終わり迎えた朝のシーンだ。
たまたまを作り黒髪の乙女と関係性を深めようとした先輩のもとに、
黒髪の乙女も「たまたま」訪れる。

このシーンのラストは本当に気持ちがいい。
複雑なパズルの最後の1ピースが終わったような爽快感と、
「あぁ、面白かった」という素直な感想が思わず
こぼれ落ちるような作品だった。

総評:この作品は間違いなく名作だ


引用元:©森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会

全体的に見て本当に素晴らしい作品だった。
森見登美彦さんが文字で綴る世界観を湯浅政明の独特な感性で、
アニメという世界観に落とし込んでいる。

怒涛のモノローグ、なだれ込むようなセリフ量、慌ただしすぎる展開、
次々と出てくるキャラクターたち、目まぐるしく状況が切り替わる中で
徐々に紐解かれていく関係性と、繋がっていく縁の数々、
そしてそれが全て先輩と黒髪の乙女の恋の話に繋がり、
まるで嵐のようなストーリーが嘘だったかのように晴れやかに終わる。

見ていて本当に楽しい作品だ。湯浅政明さんの演出は癖がある。
その癖が森見登美彦さんの世界観の中で本当に生き生きと鮮魚のごとく跳ね回り、
終盤の正直やりすぎと思うほどの演出の数々が面白くて仕方がない。
祭りの後のように静かに終わるラストシーンも含めて、
本当に素直に面白かった作品だ。

欠点というのを探すのが逆に難しい。
正直個々まで完成度が高いともはや「好み」の問題でしか無い。
名作という言葉が自然と溢れ出てきてしまうほど、完璧な作品だった。

「四畳半神話大系」を見た方なら見て損はない。
見ていない人ももちろん見てほしい。
この作品は短い夜の恋の話だ。
それ以上でもそれ以下でもない、だが、その中に詰め込まれた要素の数々を、
93分という尺の中でたっぷりと味わえてしまう作品だ。

個人的な感想:画面を貪るように見てしまった


引用元:©森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会

Netflixで配信されていたのに気づいたのは今日だった。
お酒を飲みながら何気なく再生した、
その後私は飲みかけのお酒を一滴も飲まずに画面に釘付けだった。
(Dアニメなどでも配信されています)

湯浅政明監督の独特な演出、作画、カメラワークを舐め回すように、
森見登美彦さんの独特な世界観と癖のあるキャラクターを飲むこむように、
花澤香菜さんと星野源さんの声を耳に焼き付けるように、
93分、瞬きすら忘れるほど集中してみてしまった。

驚くほどに名作だ。もちろん好みはあるだろう。
この作品は癖のあるキャラクターと一見荒唐無稽に見えるストーリーを、
叩きつけるかのようなテンポと独特な演出で彩っている。
この「癖の強さ」は尋常じゃない。
それゆえに好みも別れやすい。

黒髪の乙女を演じている花澤香菜さんも本当に素晴らしく、
彼女の声と演技だからこそ、より黒髪の乙女の魅力が際立っていた。
星野源さんも最初はやや違和感があったのだが、
風邪のシーンでの演技は凄まじく、圧巻だった。

余談だが、ロバートの秋山さんが声優として出演されているのだが、
ほとんど違和感0だったのが凄かった(笑)

まだ見ていない方はぜひ見てほしい。
この作品は間違いなく名作だ。

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