評価 ★★★☆☆(41点) 全9話
あらすじ ハグル王国の工作員として、類まれなる変装技術と体術を駆使し数々の任務を完遂してきたクロエは、上司の裏切りを機に組織を脱走する。 引用- Wikipedia
説明地獄から始まる良作
原作は「小説家になろう」で連載している小説作品。
監督は木村延景、制作はスタジオディーン。
工作員
1話冒頭から説明セリフがあまりにも多い。
工作員だった彼女は兄のように慕っていた上司の裏切りを許せず、
工作員としての人生を捨て、新しい名前で新しい人生を選ぶ。
手札が多いことを自称する彼女は、未来に不安を一切感じていない。
こういった前提の世界観や状況をぜーんぶ主人公のモノローグで説明してしまう。
物語の中で自然に描くのではなく、
設定を説明してしまうのは物語の描き方として悪手だ。
これが「文字」を媒体とする小説なら素直に受け取れるかもしれないが、
アニメという映像を媒体とする表現においては、
説明セリフをひたすら聞かされている感が否めない。
捨て子
主人公は新しい名前で、新しい街で、新しい人生を送ろうとしている。
そんな中で彼女は「捨て子」と「騎士団長」に出会う。
だが、そういった1話の中でもモノローグによる説明が多すぎる。
捨て子を保護して「どうするか」を考える際に
「どうする?」とわざわざモノローグで描いたり、
ひったくりが目の前にやってくると、そのひったくりにどう対処するのかを
モノローグで説明する。
説明、説明、説明、とにかく説明だ。
心理描写と説明描写を履き違えているのではと思うほど、
無駄なセリフが多い。
アニメーションという、見せることで表現できる手法があるのに、
原作通りに文字という名のセリフで説明してしまっている。
捨て子に自らの過去を重ねた主人公は、捨て子を引き取ることになる。
しかし、その「過程」の心理描写がろくに出ていないため、
シチュエーションづくりのための展開にしか見えない。
2話からはこの傾向がかなり薄れるものの、
1話だけを見ると、ややコケた印象を受ける。
居場所
主人公は完璧だ。
料理もできて、多種の言語を扱い、仕事も完璧にこなす。
優秀ゆえに人の縁にも恵まれ、住む場所も仕事も、どんどん良いところが決まる。
周囲にもいい人しかおらず、特に何か大きなトラブルが起こるわけでもない。
1話で出会った騎士団長ともいい感じになり、
3話になれば元工作員として暗躍したりもする。
そして彼女は、工作員としての仕事を楽しんでいた自分自身に気づきつつも、
今の平穏な生活を守ろうとする。
主人公と同じく、騎士団長や捨て子の少女など、
心に傷を抱えた者も多い。
3人が関わり合いながら、そんな心の傷を徐々に癒していく。
信頼した者に裏切られ、大切な人を亡くし、大切な人から見放された。
そんな3人が支え合いながら描かれる日常には、
優しい雰囲気があふれている。
素性を明かせない主人公ではあるものの、
目の前の悪事や、身近な人に危害が及ぶのを放っておけない。
ほのかに芽生え始める恋心や、
工作員だったときには感じられなかった人との縁。
そういった積み重なりの中で、
彼女は少しずつ自分の居場所を見つけていく。
縁
裏切られたからこそ、真実を言うことはできない。
こんな幸せな日々がいつまで続くのか。
そんな不安を感じながらも、工作員としての自分も隠しきれぬままだ。
一度できた縁、つながりを彼女はもう失いたくはない。
だが、工作員である彼女は同じ場所にとどまり続けることはできない。
それでも、新しくできた縁、積み重ねた人とのつながりが、
孤独だった彼女を救っていく。
全9話という短い構成の中で、
この3人の関係性と主人公の変化をすっきりとまとめたラストは悪くない。
ここで終わっても十分に成立しているだけに、
2期が決まっていることにはやや蛇足感も覚えてしまう作品だった。
総評:
全体的に見て、1話だけで判断するのはもったいない作品だ。
1話こそ説明セリフの多さに不安を感じる部分が多かったが、
2話以降はそういった欠点がかなり薄れ、
この作品本来の面白さが際立ち始める。
ストーリーとキャラクターたちを素直に楽しむことができ、
3人が少しずつ心の傷を癒しながら、
新しい関係を築いていく過程には独特の温かさがある。
「SPY×FAMILY」とやや類似点を感じる部分はあるが、
作品としてはきちんと差別化できており、
より静かで優しい世界観が広がっている。
2期では別の国に行った3人がどうなるかはわからないが、
ここで終わっても問題ないほどすっきりとしたラストになっている。
全9話という短さも、この作品にはよく合っている。
ただ、作画に関しては序盤こそ良いものの、
中盤くらいからやや怪しいシーンも増えていく。
派手なアクションシーンがあまりなく、
会話劇が基本の作品だからこそ、
作画のちょっとした崩れや違和感が逆に目立ってしまう部分があり、
そこは若干気になるところだ。
それでも、1話の印象だけで切ってしまうには惜しい作品だ。
1話では説明過多な部分が目につくものの、
2話、3話と見続けることで徐々に味が出てくる。
3話くらいまでは様子を見てほしいと思う作品だった。
個人的な感想:KADOKAWA
1話はちょっと引いてしまったのだが、
2話、3話と見続けていくうちに味が出てくる作品だった。
全9話というかなり特殊な構成ではあるものの、
かつてKADOKAWAのアニメには、
こういう少し短めの尺でまとまった作品も多かった印象がある。
アニメが乱造されている今の時代に、
こういう少し短いアニメというのは逆にちょうどいいのかもしれない。
変に引き延ばすのではなく、
その物語にとって区切りの良いところはどこなのか。
そこを優先して、
必ずしも1クール全12話、あるいは全13話という構成に縛られない作品が、
今後さらに増えていくのかもしれない。
そういう意味でも、少し面白い立ち位置の作品だった。



