評価 ★★★☆☆(59点) 全5話
あらすじ 合唱部の部長・岡 聡実は、突如現れたヤクザ・成田狂児から声をかけられる――「カラオケ行こ! 引用- Wikipedia
ヤクザとカラオケ行きませんか?
原作は漫画な本作品。
監督は中谷亜沙美、制作は動画工房
実写映画化もされ、大ヒットした作品だ。
語り
冒頭から非常に独特な「語り」が入る。
主人公は中学生であり合唱部の部長だ。
中学生として最後のコンクールに参加する中で「妙な視線」を感じている。
その言葉にできない感情を独特の語り口で語っており、
それを淡々とだが感情を感じさせる演技で綴っている。
コンクールは銀賞で終わり、モヤモヤした気持ちを抱える中で
コンクールの控室の前に「ヤクザ」な男が立っており、
「カラオケ行こ」と誘われるところから物語が始まる(笑)
独特な語り口からの予想外な展開で一気に作品の世界に引き込まれる印象だ。
基本的にメインキャラクターは関西弁であり、
それがどこか耳心地がいい。
ヤクザの目的は「歌がうまくなること」だ。
そのために中学校の合唱コンクールに潜入し、歌が上手い子に目をつけている。
ヤクザな組で毎月のように開催されるカラオケ大会、
強制参加で一人一曲歌わなければならない。
カラオケ大会で1番下手だったものは組長の手自身で
「入れ墨」を掘られる、うんこみたいな絵の入れ墨を(笑)
1話の10分ほどでしっかりと世界観を見せ、
二人の主人公を見せてくれる。
素晴らしい導入だ。
歌
中学生の前にいきなり現れたヤクザである「成田狂児」は「紅」を歌い出す。
ヤクザを演じる小野大輔が必死に謳う中で、中学生はチャーハンを頼む。
この独特なシュールさがこの作品の魅力でもある。
中学生である「 聡実くん」の意見はストレートだ。
「好きな歌と得意な歌は違うんですから」
ヤクザ相手にも彼はブレない。
真っ直ぐな意見をぶつけてくれる。誠実な男だ。
相手がヤクザと分かっていても、臆することはない。
中学生でありながら肝が座っている。
毎週、ヤクザのカラオケに付き合う日々。
何を唄うのか、それすらなかなか決まらない。
「ヤクザ」ゆえに組長は絶対だ、組長が好きな西野カナを
歌えば破門される(笑)
組員同士で選曲が被られることも許されない、なかなかにハードルが高い。
合唱部の部長を務め、部員からも信頼されている。
だが、彼にも悩みがある。
合唱部として最後のステージである「合唱祭」を控えている。
彼は「高音」に自信のある子だった、そんな高い音が変声期を迎えた彼には
もう出すことはできない。
天使の声と呼ばれる男の子の高音は儚いものだ。
ヤクザが歌っていた紅も、変声期を迎える前の男の子なら
歌いやすいだろう、だが、もう彼にも厳しい。
好きな歌と得意な歌は違う、
ヤクザに言った言葉は彼自身に突き刺さる。
高い声が出なくなる、大人になっていく、
そんな自分を彼は理解しつつも受け入れることができない。
ヤクザ
「 聡実くん」 はどんどんとヤクザの世界に巻き込まれていく。
成田に師匠が居ると聞きつけたヤクザたち、
ヤクザたちも変な入れ墨を入れられたくなくて必死だ。
どストレートに毒舌でヤクザの歌を指摘していく。
だが、ヤクザ故に思わずそんな毒舌に手がでそうになる。
それを守ってくれるのは「成田 狂児 」だ。
どことなくBL的なテイストはある、だが、ガチのBLではない。
少年が大人の男に憧れるようなそんな憧れの気持ちであり
決して「恋心」ではない。
そういうテイストはあるものの、ガチではない。
今の自分に、成長していく自分に悩んでいるからこそ、
ヤクザという今までの自分にはない世界にいる存在が
自分と同じように「歌」で悩んでいることに
彼としてはどこか共感のようなものを覚えているのだろう。
合唱部の後輩にも「声」を指摘される。
最後の合唱祭で自分を貫けない。
それが苛立ちへとつながる。
変化を受け入れることは大人でも難しい。
変化を受け入れながらも声を出そうとして、より無理をしてしまう。
ヤクザとの日々はあっという間に過ぎていく。
この作品は後に放送予定のアフターストーリーを除けば
全4話しかない、原作もたった1巻だ。
短い一夏のヤクザとの思い出を
丁寧に描いている作品だ。
結果
「 聡実くん」 にとって「成田 狂児 」は自分の価値観を示すものでもある。
3年間合唱部を頑張ってきた、そんな自分の指導に結果がついてくるのか。
変声期を迎えた彼は自分の価値、自分を見失っている。
だからこそ、ヤクザの歌の練習で自分を見定めようとしている。
結果はどうなるかわからない、だが、「成田 狂児 」は彼に言い放つ。
「勝負はやってみないとわからん
勝てるもんも勝てへんで」
そんなヤクザの言葉を自分自身にも刻み込んでいる。
変声期を迎え、声にも限界が来ている、
本来はパートを降りないといけないのかもしれない、
だが、「 聡実くん」 の中にはやり遂げたいという気持ちがある。
だからこそ、勝負に挑む。
「苦しくてもやってみたいんや、
勝負はやらんと勝てへんから」
あがき、悩み続けた少年は答えを出す。
だが、その言葉を言ったのはヤクザだ。
少年を守るためとはいえあっさり人を傷つける。
大会当日、「成田 狂児 」 の車は別の車に突っ込まれる。
紅
「成田 狂児 」 が死んだことを聞いた「 聡実くん」 は紅を唄う。
初めて聞いた彼の曲、下手くそな裏声で叫んでいた
彼の歌声を思い起こすように。変声期の今だからこそ歌える紅、
それは少年だった自分への別れであり、
「成田 狂児 」 への別れでもある。
時系列は最終話で一気に未来の飛ぶ。
主人公の独特の語り口、その語り口は「彼の文集」であり、
3年前の日々を思い越している。
「カラオケ行こ」
そんなヤクザの言葉で始まり、そんなヤクザの言葉で終わる。
完成された物語を全4話で味あわせてくれる作品だった。
総評:全4話の名作
全体的に見て素晴らしい作品だ、全4話という短い尺ではある、
だが、短いからこそ、きちんと起承転結が生まれており、
短くはあるものの、その短さを感じさせないドラマがきちんと有り、
登場人物たちの深い掘り下げにつながっている。
歌が得意じゃないヤクザと、変声期で高い声が出づらくなってる少年、
そんな二人が出会い、少年は大人の世界を、大人になることを知る。
少年時代の自分への別れ、少年時代の自分を思い起こすような
語りも特徴的で、それが最終話のある種の伏線にもなっている。
紅を初め、いろいろな実在する曲をヤクザたちが歌っているのも愛らしく、
シュールとも言えるギャグ要素がいい塩梅に刺激になっている。
BL的な要素に関しては人によっては好みが分かれるところではあるものの、
あくまでそういうテイストを感じさせるだけでありガチではない。
声優さんの演技もさすがであり、ヤクザを演じる小野大輔さん、
変声期を迎えた少年を演じる堀江瞬さん、
この二人の掛け合い、演技のぶつかり合いが素晴らしい作品でもあった。
本来、こういう原作が短い作品はアニメ化しにくいのだが、
全4話という構成でアニメ化したのは制作側の意気込みを感じるところだ。
のこりの8話分の尺をどうするのかといえば、
同じ原作者の作品である「夢中さ、きみに。」がアニメ化され放送される。
1クールという尺の中でオムニバスのように複数のアニメをやる。
こういうやり方が今後、もっと増えるかもしれないなと感じる作品だった。
個人的な感想:短い作品の増加
タコピーの原罪、フードコートでまた明日、
そして「カラオケ行こ」と3作品も短い作品がある。
この作品の後枠の作品も入れれば今季だけで4作品だ。
僧侶枠も入れれば5作品にもなる。
これはこういう流れが確実に来ているのだろう。
原作が1巻や2巻で終わる名作も数多い、
そんな作品がアニメ化で再び注目される日も近いかもしれない。