コメディ

珠玉の会話劇「スナックバス江」レビュー

スナックバス江 コメディ
©フォビドゥン澁川/集英社・「スナックバス江」常連一同
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評価 ★★★★☆(64点) 全13話

TVアニメ「スナックバス江」PV【2024年1月12日より放送開始】

あらすじ 北海道最大の繁華街すすきの――から5駅離れた北24条。この町の「スナックバス江」は、バス江ママと、チーママの明美さんの楽しいお店。引用- Wikipedia

珠玉の会話劇

原作は週刊ヤングジャンプで連載中の漫画作品。
監督は芦名みのる、制作はスタジオぷYUKAI

スナック

スナックバス江

©フォビドゥン澁川/集英社・「スナックバス江」常連一同

タイトルでも分かる通り、この作品は「スナック」というものを描いている。
名前は知っているが、どんな場所なのか知らない、
なんとなくイメージとしておじさんが酒とカラオケを楽しんでいる、
そんなイメージを盛っている人も多いはずだ。

ガールズバー、コンセプトフェ、キャバクラ、クラブ。
様々な夜の店があるなかでも「ニッチ」といえるのがスナックだ。
この作品はそんな「スナック」というものを生々しく描いているといってもいい。

1話冒頭から北海道にある場末の「スナック」が描かれる。
客が洋楽を歌い、若いチーママとそれなりに年がいってそうな
パンチパーマでサングラスをしているママが待ち構えている。
そこに訪れるのは真面目そうなサラリーマンの山田だ。

先客として常連の少し怖そうな男性「タツ兄」もいる、
彼がなぜスナックに足を踏み入れたのか。
スナックというものを知らない人も大勢いるはずだ、
だからこそ「山田」を通してスナックの世界に触れることができる。

彼は飲み会の幹事になってしまい、二次会の場所を探す中で
「スナックバス江」に訪れている。
そんな彼がスナックの楽しみ方を学んでいく。

スナックと言えば「会話」だ。
大人達が社会の荒波に揉まれ、家にまっすぐ帰りづらい、
ちょっと常日頃抱えている愚痴や悩みをどこかで酒とともに
吐き出したい、そんな男の受け入れ場所がスナックだ。

作品自体はリズムカルな会話劇で綴られている。
アニメーションに関しては動きの面白さはないのだが、
スナックが舞台のアニメで動きの面白さなど求めていない、
会話だ、セリフの掛け合いの面白さこそがこの作品の本髄だ。

そんな会話、ネタの数々、
爆笑するほどではないが、クスッとできる会話劇が
酒のつまみにはちょうどいい。

この場には大人しか居ない、見る人も大人しか居ないだろう。
だからこそ、下ネタもあり、下品なネタもある。
例えば「目玉焼きには何をかける?」という何気ない会話が繰り広げられる、
するとチーママはさりげなく「うんこ?」と問いかけてくる(笑)

シラフで見るとくだらなすぎるネタではあるものの、
ウィスキーの一杯でも引っ掛けてこのアニメを見ていたならば
大爆笑間違いなしだ。
毒にも薬もならない、だが、つまみにはなる。

常連

スナックバス江

©フォビドゥン澁川/集英社・「スナックバス江」常連一同

スナックは常連ばかりだ、そんな常連と
ママとチーママがこの作品を作り上げている。
常連の一人の森田は汚いのび太みたいな見た目をしている、
だからこそ、下ネタ全開で会話を繰り広げている。

時間停止アプリだったり、服が透けるメガネだったり、
透明人間になるサプリだったり、
中学生が妄想するようなアイテムを買って持ち込み、
ゴミのような会話を繰り広げている(笑)

そんな犬も食わないような会話を繰り広げられるのがスナックだ。
ゴミのような会話でも、毒にも薬もならない会話でも、
そんな会話をしたくなるときが大人の男にはある。
ある程度の年齢が行くと大人の男は「オヤジギャグ」をつぶやいてしまう、
それは社会に抑圧されているからこそ、溢れ出たものなのかもしれない。

カラオケ

スナックバス江

©フォビドゥン澁川/集英社・「スナックバス江」常連一同

スナックはそんな溢れ出たものを、自分の中にある澱のようなものを酒と会話で洗い流す場所なのかもしれない。
洗い流したあとはカラオケで毎話しめられる。

決して流行りの歌ではない、ちょっと古い歌謡曲、
そんな客のカラオケを聞きながら、思わず体を左右に揺らし、
画面の中に、スナックバス江に自分も訪れているような
そんな錯覚すら感じさせる没入感が会話によって生まれている

ママの毒気のあるツッコミ、チーママの小ボケと辛辣なツッコミが
常連客の日々の愚痴を洗い流していく。

男性が客だからこぞ「女性」というものに対する愚痴もある、
そんな愚痴を女性だからこそチーママやママが受け流す、
この大人の社交場だからこその大人の会話劇が
軽快かわされることで染み渡る面白さが生まれている。

毎話のカラオケも染み渡る、声優さんたちの凄さを感じる歌い方だ。
本来ならもっと上手に歌える声優さんたちではあるが、
あえて「スナック」の客やチーママとして
「上手すぎない」歌い方を演じている。
これぞ、ある種のキャラソンだ。

そのキャラならばどうやって歌うのか。
上手く歌うことは簡単だ、だが、
キャラになりきって歌える声優さんは少ない。
この作品に出演されている声優さんはきちんとキャラクターになりきり、
スナックで歌うキャラを演じて歌い上げている。

更にカラオケの際にスナックの中のモニターに
「実写」の映像が流れている。
カラオケでおなじみのあの謎映像だ(笑)
これをこの作品はわざわざ手作りしているこだわりっぷりだ。

パロディ

スナックバス江

©フォビドゥン澁川/集英社・「スナックバス江」常連一同

この作品はパロディネタもかなり多い。
リアルな現実世界が舞台だからこそ、
当たり前のように「パロディ」なネタも飛び出してくる。

ファミ通レビューだったり、バブみでオギャリたりだったり、
孤独のグルメやジョジョネタまで飛び出してくる。
すずめの戸締まりまで盛り込んでいるのは新しさを感じた(笑)

その一方で「おじさん」世代にだから伝わるようなパロネタも多い。
ファミ通レビューもそうだが、HUNTERHUNTERネタや、
「地獄先生ぬ~べ~」など、今の30代や40代以降に
直撃するようなパロディネタが多いのも特徴的だ。

若者ではなく、おじさんにこの作品は向けている。
おじさんの、おじさんによる、おじさんの為のアニメだ。
パロディネタのチョイスもカラオケの曲のチョイスも、
会話の内容もおじさんだからこそ突き刺さる。

スナックという場所は一切変わらない。
だが、ネタという名の客は無限に訪れる。
ときには強盗が現れ、ときにはデスゲーム参加者が現れ、
ストレスの化身まで現れる。

もうめちゃくちゃなのだが、この作品の世界だからこそ許される。
特に6話の「勇者」が現れる回はめちゃくちゃだ。
ドラクエパロディから始まり、異世界転生ネタが繰り広げられる。
それだけならまだしも「リゼロ」なあいつまでやってくる。

KADOKAWAさんに喧嘩を売りまくるスタイルはやばすぎる(笑)
スナックも現実世界にある異世界のような場所だ、
だからこそ異世界ネタが許されるのかもしれない(?)

そんなとんでもないパロネタ状況ではあるものの、
会話劇は真面目だ。異世界に活路を見出すよりも、現実と向き合う。
ふざけた会話や、やりすぎなパロディ、中の人ネタ、
下品なネタも多いのだが、
大人だからこその会話劇でそれを上手く回している。

一癖も二癖もある客が出れば出るほど、
再登場すればするほど深く掘り下げられ、愛着が湧いていく。
視聴者にとって最初は見知らぬ他人でしかなかた常連客たち、
そんな常連客と顔を合わせるうちに、愛着が湧き、
みている側もまた常連になっていく。

変化しない

スナックバス江

©フォビドゥン澁川/集英社・「スナックバス江」常連一同

この作品の特徴は「変化」しないことだ。
10代がメインキャラのアニメなら多かれ少なかれ成長していく、
人と出会い、会話や様々な出来事を経て10代の若者は成長していく。

だが、30代以上は違う、もう出来上がってしまっている。
だからこそ、この作品のメインキャラたちにも変化はない。
童貞な常連は童貞のまま、チャラい男はチャラいまま、
ここまでそうやって生きてきた彼らが大きく変わることはない。

彼ら自身も変わろうとしているわけではない。
あくまで日常の中で溜まっていくなにかを
スナックという場所で発散したいだけだ。

だからこそ変化しない。
偉大なる惰性という名の日常アニメでありギャグアニメだ。
話によっては悪ノリやパロディが強すぎる回もあるのだが、
それが作品全体のマンネリを防ぎ、空きさせない。

四天王キャラが訪れたり、ミュータント・タートルズみたいなのが
出てきたりと、メタネタなども、やりたい放題だからこそ面白い。
スナックという異世界、スナックの扉を開ければ現実世界が待っており、
異世界の出来事はまるで夢のようだ。

毎話、スナックでの会話のテーマもあり、
男女の話や、持てるモテないの話、処世術から
「金と愛」の話まで浅いような深いような話を繰り広げている。
まさに酒の席での会話だ。

酔った勢いで現れる、二軒目、いや三軒目の酒の場だからこそ
各キャラの本髄が現れたぶっちゃけた会話が繰り広げられる。
スナックという場所だからこその会話劇がたまらない。

彼らもまた、スナックという場所での会話を楽しんでいるのに過ぎない。
決して友達ではない、何度も顔を合わせても、
スナックの扉を出れば他人だ。だからこそ、何でも話せてしまう。

学生や10代の少年少女ではない、酸いも甘いも経験した
大人な彼らだからこそ、それぞれの人生観があり、哲学がある。
それを変えることはない、だが、大人だからこそ、
相手の考えも許容しながら、自分の考えも話している。
これぞまさに大人の社交場だ。

媒体の違いを理解せよ!

スナックバス江

©フォビドゥン澁川/集英社・「スナックバス江」常連一同

アニメと原作では違う部分も多いようだ。
原作では酒すら出てこないことも多いようだが、
アニメの場合はきちんと毎話、酒が用意されている。

本来、原作どおりにこの作品をやるならば30分枠では厳しい、
15分や5分枠である程度どの勢いが必要なギャグアニメだ。
しかし、30分枠でやることが決まったからこそ、
「スナック」という場所の雰囲気感を強調し、
勢いではなく、丁寧な会話劇をリズムカルに展開することに重きをおいている。

漫画とアニメ、媒体が違うからこそ表現の違いもある。
だからこそ本来の最終話である13話が地上波でやれないこともある(笑)
地上波版の最終話である12話でさえ、終盤は
男の下半身のサイズの話で終わっている下衆さだが、
そんなゲスさも「ちあきなおみ」さんの「喝采」で幕を閉じる。

このジョークがわかる若者は少ないはずだ。
いつものように幕が上がる、そんな歌詞から始まる歌で
この作品の地上波の幕が降りる展開はウィットなセンスすら感じさせてくれた。

総評:珠玉の会話劇

スナックバス江

©フォビドゥン澁川/集英社・「スナックバス江」常連一同

全体的に見て久しぶりに純粋な会話劇によるギャグアニメを楽しんだ感覚だ。
かつては「さよなら絶望先生」など会話劇で楽しまさせるギャグアニメもあったが、
ここ最近はその手のギャグアニメも減ってしまっていた。
そんな中でこの作品は純粋な会話劇をスナックという場所で繰り広げられている。

会話の内容自体は大したことがない、くだらないものが多い。
だが、誰しも1度は酒の席で話したことがあるような
男女の話から下の話、価値観の話や男のロマンなど、
ある種のあるあるネタとしてそれが展開されている。

そんな会話を交わしているのも「大人」だ。
それぞれが、このスナックに訪れるまでにいろいろな経験をし、
一人の人間として完成しきっている。

だからこそ、いろいろな価値観が飛び交う会話の中で、
自己主張しつつも、他人の話をしっかりと受け止めつつも、
それがキャラクターに影響を与えることもない。

スナックという大人の社交場でかわされる、
ちょっとした酒のつまみの会話劇がたまらなく、
その会話劇を勢いでごまかすこともせず、
しっかりとした声優さんの演技で見せている。

アニメーション的な部分に関してはほぼ動きはないに等しいが、
カラオケの実写映像が無駄に凝っていたり、
画作りや空間を意識したカメラワークが没入感うみ、
見れば見るほど自分もスナックバス江に訪れている感覚になる。

1話ではピンとこないかもしれないが、現実のスナックと同じで
通いつめれば詰めるほど味が出てきて面白さが分かってくる。
そんな作品だった。

個人的な感想:もっと見ていたい

スナックバス江

©フォビドゥン澁川/集英社・「スナックバス江」常連一同

1クールで終わってしまうのが本当に残念だ。
4クールくらいずっと見ていたくなるような感覚を味わえる作品で、
見れば見るほどハマってしまう作品だった。

原作と比べると表現がマイルドになっていたり、
表現できなかった部分もあるようだが、それはもう媒体の違い故に仕方ない。
本来は30分枠でやるような作品ではないはずだが、
それを30分枠のアニメにするうえでの演出やストーリー構成、
台詞の間がきちんと計算されている作品だった。

逆に原作を好きな人は気に要らない部分もあるかもしれない。
そのあたりは引っかかる人もいるかも知れないが、
個人的には酒とともに見たいアニメとして楽しむことができた作品だった。

2期があるならばぜひ期待したいところだ。

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