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ひねくれた美術映画「花緑青が明ける日に」レビュー

花緑青が明ける日に 映画
画像引用元:(C)2025 A NEW DAWN Film Partners
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評価 ★☆☆☆☆(28点) 全76分

『花緑青が明ける日に』主題歌入り本予告|𝟯.𝟲 (𝗙𝗿𝗶) ❉

あらすじ 森の中にある創業330年の老舗花火工場・帯刀煙火店は、町の再開発で立ち退きを迫られていた。。 引用- Wikipedia

ひねくれた美術映画「花緑青が明ける日に」レビュー

本作品はオリジナルアニメ映画作品。
監督は四宮義俊、制作はスタジオアウトリガー

日本画家

本作品の監督の経歴はかなり特殊だ。
肩書としては美術家、日本画家、アニメーション作家と
wikipediaには記載されており、
イラストからデザイン、アニメの演出や監督もしている。

そんな特殊な経歴を持つ四宮監督の初長編アニメ映画が本作品だ。
あまり宣伝を行っていないのか、私自身、
先日、映画館で初めて予告を見たくらいで
知名度というのはかなり薄い。

公開後も興行収入はかなり伸び悩んでおり、
いわゆるアニメ映画6000人族な映画になっている。
映画自体の尺が76分とやや短めであり、
タイトルの読み方の複雑さも相まって、
人が入っていない印象だ。

冒頭から素晴らしい作画に度肝を抜かれる。
監督が日本画家であることを感じさせるような、
まるで水彩画のような背景、そんな背景に溶け込むように
あえてトレース線が薄いキャラクターたち、
リアルに描かれた美術の数々に酔いしれることができる。

この「絵」のすごさはこの作品の最大の魅力でもある。
1枚1枚、1シーン1シーン、どこを切り取っても
飾れるような絵になっており、他のアニメでは見かけないような
独特な色は映画館のスクリーンに映えている。

この絵を見てほしい、この背景を見てほしい、この構図を見てほしい。
まるでそんな意図が見えてくるようなカメラの動かし方は印象的で、
あえてワンカットでずらすようなカメラワークが頻繁に出てくる。
このカメラワークはやや酔う感じはあるものの、
「絵」を見せたいという監督の意図は強烈に伝わってくる。

時には水彩画のように、時にはリアルに、時には
ストップモーションアニメまで唐突に盛り込んで、
様々な画作り、映像表現を見せたいというのは伝わってくる。

だが、アニメ映画は絵が良ければ面白いというわけではない。
このストップモーションアニメの部分など
メインキャラの一人が泥酔してるときに見えた幻覚のようなもので、
やたら長い上に面白みがあるわけでもない。

確かに1枚1枚の絵のクォリティは高い、
しかし、それがアニメーションという表現となると別だ。
アニメを見終わった後にどのシーンも印象に残らない。
この作品の主題である「花火」の印象すら薄い。

結局、この作品は絵を見せたいだけだ
見せたい絵が先にあり、そこにつなげるためのアニメーション、
ストーリーでしか無い。

毒饅頭

この作品の舞台は神奈川県の田舎町だ。
花火が盛んな町で花火大会が毎年行われるような町だったが、
そんな花火大会をするための花火を作る会社が
町の再開発に伴って立ち退きを迫られている。

この会社は主人公の幼馴染の兄弟の父の会社であり、
以前起こした事件のせいで、行政の印象も悪いうえに、
町の再開発のために立ち退きを迫られ、主人公の親を含め、
この街の住人は「毒饅頭」という名の札束を飲み込んでしまっている。

そんな立ち退き問題があってから4年後、
主人公はとある事故の後に東京の大学に行き、幼馴染の兄は役場に務めてる。
しかし、幼馴染の弟の方は立ち退きを拒否し家に引きこもり続け、
「花火」を作り続けていたというところから物語が始まる。

この物語が動き出すまでが異様に遅く、
76分ほどの映画なのに、話が動き出すまでが遅い。
背景をやたら長回しで見せたり、意味があるのか無いのかわからない
自然や背景の描写を見せたりすることが多く、話がなかなか進まない。

シュハリ

この「シュハリ」という言葉は何度も作中に出てくる。
幼馴染の父が作ろうとしていた伝説的な花火であり、
宇宙を切り取るようなとんでもない花火だ。
そんな花火を作ろうとしていたが、結局、完成することなく、
幼馴染の父は失踪してしまっている。

シュハリ、シュハリ、シュハリ。
何度もこの言葉が出てくるが、具体的にそれがどんな花火なのか、
そもそも主人公と幼馴染たちの関係性すら
きちんと描かれないため、序盤の段階ではシュハリにしろ、
主人公と幼馴染たちの関係にしろまるでわからない。

話を進める中で「過去回想」でチラチラチラ、
小出しにしながらシュハリや関係性を描いているのだが、
そのせいで序盤から中盤に至るまでこの作品に対する没入感や
キャラに対する愛着や感情移入というのも湧いてこない。

反体制

この作品で描いてるのは反体制主義だ。リベラル、左翼的な考えといってもいい。
かつて「ぼくらの七日間戦争」という作品で、
子どもたちが管理教育に対する反発を描いていたが、
それに近いものがこの作品にもある。

主人公の幼馴染の家は税金もろくに払わず、
行政の指示にも従わず、強制的に取り壊し、立ち退かされることが決まっている。
これは明らかに主人公の幼馴染の家が悪い。
立ち退き云々はともかく少なくとも税金も払ってない幼馴染の家は
どうしようもない事実だ。

だが、そこに本来責任を取るべき大人が失踪してしまっている。
なぜ主人公の幼馴染の父が失踪したのか、ここが語られていない。
考察するに「シュハリ」が作れなくなったからだとは思うが、
子どもたちを残して税金も払わずに失踪する最低な父だ。

子どもたちが体制に反対するような状況を作るために
失踪させられただけのキャラになってしまっており、
取り壊しがきまり、取り壊される中でなんとか
「シュハリ」を上げようと体制に抗う姿が描かれても、
キャラ描写の浅さや父親の失踪などのノイズのせいで感情が乗ることはない。

体制によって花火という文化が失われ、
体制の再開発によって自然が失われ、日本が壊れていく。
そういった思想が見える作品だ。

犯罪

主人公たちがやってることはかなりやばい。
シュハリをあげるために無許可で、多くの大人に対する暴力も
働きながら花火を上げている。

しかも、わかりやすいことにこの体制側にも実は問題があり、
地上げ屋と役所が繋がってて…みたいなスキャンダルが軽く描かれる、
あくまで軽く描かれるだけで深掘りされることはなく、
主人公たち側に大義があり、正義もあることを描きたいのはわかるが、
やってることはシンプルに犯罪だ。

この犯罪がシンプルに不快だ。
密造酒がある、密造酒を飲んで泥酔、
主人公は車で家に突っ込んで門を破壊、
幼馴染の兄は上司を気絶させる、不法占拠、税金も払わない、
立ち退きの作業を妨害する、花火を勝手にあげる。

などあげだしたらきりがない。そのやらかした行為の代償として
主人公は大学を退学になっているのだが、
主人公の幼馴染の兄のほうはお咎めなし、
弟の方は警察の厄介になったようなことを匂わせてはいるが
牢屋にぶちこまれたわけでもない。

ラストはふわっとしており、やらかしたことの代償が薄く、
これでぼくらの七日間戦争のように小学生だったり、
せめて中学生ならまだ情状酌量の余地があるが、
20歳を超えてる主人公たちにはそんな情状酌量の余地はない。

映像は本当に綺麗で、これがPVなどで描かれていれば
この映像美だけに浸れたかもしれないが、
ストーリーとキャラクター描写という「雑念」が
乗っかってしまったことで、映像美に酔いしれられない。

事故

特に主人公の過去が最悪だ。
過去に主人公たちは花火で事故を起こしている。
これに関しては断片的にしか本編で語られていないが、
主人公たち「未成年」が関わった花火の事故がおき、
そのせいで幼馴染の父の会社は様々な問題点を突っ込まれている。

未成年に花火を触らせたことや、花火を防空壕で管理してる杜撰さ。
そういった問題が突っ込まれ、人がどんどん居なくなり、
立ち退きの問題もあり、幼馴染の父も「シュハリ」が
環境問題でできなくなったことで失踪している。

すべて彼女たちの問題だ。
他人に、町に、親に、迷惑をかけまくり、
危険な行為もしまくって、犯罪行為もしまくって、
最後には火事になりかねない巨大な花火をあげ、
結果的に幼馴染の家は全焼している(苦笑)

ちょっと擁護のしようがない。
少なくとも主人公と幼馴染の弟は
放火の罪でしょっぴかれなければおかしいはずだ。
いくら映像が美しくとも、ストーリーとキャラ描写に
ツッコミどころがありすぎてノイズになってしまっている作品だった。

総評:辛気臭い実写邦画のようなアニメ

全体的に見て微妙な作品だ。
確かに絵は綺麗で独創的な色使いや、
他のアニメでは見たことのないような描写の数々は素晴らしいものの、
そこを見せたいだけのアニメになってしまっている。

そこだけに集中できるようならば、この映像美だけに
酔いしれることもできたかもしれないが、
アニメとしては不可欠な「ストーリー」と「キャラクター」が
映像に対してのノイズになってしまっている。

声優の演技というのもかなり気になってしまった。
決して下手というわけではないが、
主人公も幼馴染の二人も他のキャラも、
全体的に「ボソボソボソ」とした喋りのキャラクターが非常に多く、
まるで実写の邦画でも見ているかのような気分になる。

もっと素直に、エンタメにもできる作品だ。
立ち退きがきまって、廃業も決まっている花火会社、
そんな花火会社の社長の父と子どもたちが
最後に1発大きな花火を上げる、そんな素直な物語もできるのに
この作品はあえてひねくれた反体制物語にしてしまっている。

映像は美しく、映画館で見るからこその素晴らしさもあるのだが、
そこを素直に評価できない作品になってしまっていた。

個人的な感想:ぼくらの七日間戦争

ぼくらの七日間戦争をとんでもない映像美にしたら…
というような印象を受ける作品だった。
映像はたしかに素晴らしいが、それ以外のすべてがノイズと
言えてしまうほどひどく、MVやPVならいいが、
アニメ映画としては色々と厳しい作品だ。

最近はこういう「ChaO」のように映像美に全振りしているような
作品が増えてきて、アニメ映画界にそれだけ
余裕が生まれてるんだろうなと感じるものの、
個人的にはあまり得意ではないタイプの作品のため、
こういう作品が増えるのは複雑な気分だ。

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