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最高峰の中国アニメ映画「羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来」レビュー

5.0
羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来 映画
画像引用元:(C)Beijing HMCH Anime Co.,Ltd
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評価 ★★★★★(83点) 全125分

『羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来』本予告│ 2025年11月7日(金)公開

あらすじ 師匠であるムゲンとともに小さな村で穏やかな日々を過ごしていたシャオヘイだったが、ある時、とある会館への襲撃事件が、長きにわたって保たれていた妖精の世界の平和を脅かす。 引用- Wikipedia

最高峰の中国アニメ映画

本作品は羅小黒戦記の劇場アニメ作品であり、
羅小黒戦記としては2作品目の映画となる。
監督は木頭(MTJJ) 顧傑、制作は北京寒木春華動画技術有限公司

1作目

2019年に公開された「羅小黒戦記」はかなり話題となり、
日本では最初は「字幕版」のみだったのだが、
2020年には吹き替え版が上映されるという中国アニメ映画としては
異例な展開をしていた作品だった。

1作目を見た人ならばわかると思うが、
この作品は「日本のアニメ」に対するリスペクトを作品全体から感じられる作品だ。
人間社会にひっそりと潜む妖精と人間の関係性は
まるでジブリ映画でも見ているかのようであり、アクションシーンになれば
まるでNARUTOのような術で戦う。

Webアニメを原作としているものの、羅小黒戦記という単体映画として
成立している部分も大きい。
人間の進化と技術の進歩、繁栄により、妖精たちは住処を追われている、
わかりやすくいうなら「平成狸合戦ぽんぽこ」のような世界観だ。

そんな中でシャオヘイは人間を憎むフーシーに助けられ、
そんなフーシーを襲うムゲンを最初は恨んでいた。
しかし、ムゲンと旅をする中でシャオヘイの価値観がかわっていき、
最終的には人間であるムゲンの弟子になっている。

始まりの物語が描かれた前作はジブリ的なテイストが強い中で
NARUTO的な戦闘シーンが素晴らしかった作品だった。
あれから約5年、羅小黒戦記の続編が作られ公開することになった。
前作から2年の月日が劇中でも経過しており、
シャオヘイはムゲンのもとで修業しているところから物語が始まる。

ジャンプアニメ映画

1作目はテイストとしてはジブリ映画に近かった。
だが、2作目はジャンプアニメ映画的なテイストが強い。
1作目と同じように人間と妖精の関係性、
自然というものがテーマという部分はあるものの、
2作目はバトルシーンや展開的にジャンプアニメ映画感を強く感じる。

映画の冒頭からバトルシーンが始まる。
妖精たちの住処の一部が妖精から盗み出したもので作り出した武器を持つ
人間たちによって襲われ死亡者も多く現れる。
強かったはずの妖精までやられており、
そんな中で主人公であるシャオヘイの師匠である「ムゲン」が
容疑者として軟禁されてしまうというところから物語が始まる。

過去のジャンプアニメ映画を彷彿とさせる展開だ(笑)
NARUTOの映画でNARUTOが無実の罪で投獄されたこともあったが、
まさにそういうテイストをかなり強く感じ、
見ている間にニヤニヤしてしまう。

最近、日本のジャンプアニメ映画でやらなくなってきたスタイルだ。
最近でいえば僕のヒーローアカデミアやスパイファミリーが近いが、
映画オリジナルキャラが出てきて、本編には影響が出ない形で終わる。

私が調べた限りではあるものの本作で出てくる
シャオヘイの姉弟子の「ルーイエ」は映画オリジナルキャラだ、
そんな映画オリジナルキャラとともにシャオヘイが師匠の無実を
晴らすために奔走する。

シンプルなストーリーだが、久しぶりにこういうテイストの
アニメ映画を見た感じがあり、どこか懐かしさすら感じる。

食事

本作ではシャオヘイとムゲンが一緒にいるシーンは少ない。
冒頭と終盤くらいだ。だが、そんなわずかなシーンが本当にほほえましい。
序盤ではシャオヘイとムゲンのいつもの日常が描かれており、
修業をしながら、日常知識や勉学を教えながら、
彼に対して毎日手作りの料理まで作ってくれる。

このほほえましい風景の中で際立つのが料理の描写だ。
街の中で食べる火鍋、中盤でルーイエと食べる料理の数々、
どれもこれも本当においしそうだ。
「食」というのは日常そのものだ、そして何が好きか、どう食べるのか、
それが「キャラクター像」にもつながる。

ルーイエという姉弟子は「高級」なものを好む。
料理も一級品、泊まるホテルも一流だ。
逆に前作ではムゲンは安いホテルに泊まっている。
この違いが非常に面白く、そこに価値観の違いも現れている。

子供に対する接し方、甘やかし方の違いがキャラクター像にも表れている。
ルーイエという女性は過去に人間に仲間や師匠を殺されている。
ムゲンが師匠になっても彼とは戦い方を教わることくらいしかしていない。

彼女の心が閉ざされ、満たされていなかったからこそ、
「シャオヘイ」という子供に対しても接し方がわからなかったのかもしれない。
「高いものをあげるとうれしいはず」そんな安易ともいえる
考えがあったのかもしれない。
そういった考察がいろいろとできてしまうのは深いキャラ描写があるからこそだ。

映画のラストでシャオヘイがムゲンに「アイスクリーム」を
ねだるシーンがあるのだが、そんな二人を見て、彼女は自分を重ねている。
自分も子供のころにああやってムゲンに、誰かに甘えることもできたかもしれない。
そういった心理描写や変化が食を通してさりげなく描かれている。

あえて言葉にはしていない、だからこの私の解釈もあくまで私の解釈に過ぎない。
アニメーションによる演技、見せ方をしているからこその
解釈の違いが無限に生まれ、キャラクターの深みが生まれている。

カメラワーク

前作でもアニメーションのクオリティは凄まじいものがあったが、
今作はそれをさらにブラッシュアップさせている。
特に際立つのがカメラワークのすさまじさだ。

前作でも舐め回すようなカメラワークで描いていたが、
今作は舐めるというよりは這いつくばって追いかけまわしているような感覚だ、
本来、アニメはカットすることで場面を変える、
だが、この作品は戦闘中でもあえてカットせずにシームレスに
カメラを動かしている。

この「凄さ」というものは伝わりにくいと思うが、
例えば左にいるキャラから右にいるキャラを映すなら、
左にいるキャラを映してからカットして、右のキャラを映せば
単純計算で2枚の作画でやれる。
だが、この作品はシーンによってそのカットをしていない。

左にいるキャラから右にいるキャラまでの視点移動を
あえてカットせずに描くことで、カットによるぶつ切り感がなくなり、
シームレスなカメラワークが生み出されている。

戦闘中だけでなく背景を見せるシーンなどでも、
このシームレスなカメラワークを多用しており、
カットせずに描くことで生まれるキャラクターや背景の立体感を
「CG」を使わずに手書きの作画で生み出している。

地味ではあるものの、手間がかかりまくったこだわりのカメラワークはえぐい。

戦闘シーン

戦闘シーンのクオリティも本当に素晴らしい。
前作よりも修業して強くなったシャオヘイと、姉弟子が
共闘しながら戦う姿は見ていてくぎ付けになってしまうほどで、
「ムゲン」になりすました妖怪を街をパルクールしながら戦闘をする。

シンプルなパルクールであれば面白味は生まれにくいが、
戦闘しながらのパルクールは新しいカンフー映画でも見ているかのようだ。
中盤、「館」と呼ばれる妖精たちの組織の「チーネン」が人間と戦闘をするのだが、
その中盤の戦闘シーンは圧巻だ。

彼らはそれぞれが固有の能力を持っており、
シャオヘイは空間を操り、姉弟子は金属を操る。
中盤で人間と戦う「チーネン」は土を操る、シンプルな能力なのだが、
そのシンプルさゆえに強さの見せ方がダイレクトに見ている側に
「チーネン」の強さを感じさせてくれる。

随所随所で描かれる戦闘シーンが物語の盛り上がりを生み、
中盤では「飛行機」の上で空中戦を描いたりと、
前作以上に様々な場所で戦うシャオヘイたちの姿に夢中になってしまう。

終盤で今作のボスともいえる存在とシャオヘイが姉弟子と
共闘して戦うのだが、その際の息をのむほどの絶え間ないアクションの数々は、
洗練された戦闘シーンになっており、エフェクトや、
高速戦闘でごまかさない、アニメーションの面白さを
これでもかと浴びるような感じだ。

ムゲン

そしてなによりも笑ってしまうのが「ムゲン」だ。
彼は人間ではあるものの圧倒的な力を持っており、
彼が妖精の味方だからこそ人間と妖精のバランスが取れていると
言えるほどの重要な人物だ。

そんな彼が終盤、人間に盗まれたものを取り戻すために
軍事施設に真正面から入ろうとする。
彼はただ盗まれたものを取り戻すだけだ、一切手を出すことはない。
彼が手を出せば人間と妖精のバランスが崩れる、
それゆえに手を出すことはない。

だが、手を出さないからこそ怖い(笑)
ムゲンが空を飛びながら徐々に軍事施設に近づくのだが、
当然、軍事施設からは重火器やらミサイル、レーザーまで飛んでくる。
だが彼は一切顔色1つかえずに全部体で受け止める。意味不明だ(笑)

ムゲンの強さの描写が極端であるがゆえにそれがギャグにすらなっている。
前作もそうだったが、今作でも「ギャグシーン」がきちんと笑えるものになっている。
これは中国アニメを見てきた人ならば驚きの要素だろう、
基本的に中国アニメのギャグというのは笑えない。
文化の違いなのかセンスなのかはわからないが、笑えないのが中国アニメのギャグだ。

しかし、今作では随所随所で挟まれるギャグに思わず笑ってしまい、
その集大成ともいえるのが終盤のムゲンの戦闘シーンだ。

ストーリー

ストーリーに関してはシンプルではある、
前作と同様に「人間と妖精」の関係性を描きつつ、
物語が進むものの、敵の目的自体は若干ふわっとしており、
前作の敵だった「フーシー」ほどの魅力はない。

ただシャオヘイの成長と変化の物語としてはすごく丁寧に描かれている。
1作目では妖精として人間を恨みつつも、ムゲンと出会い、
多くの人間と出会ったことで「フーシー」の選んだ選択に疑問を感じ、
対立することになった。

それでも彼の中には疑問が残る。
フーシーの描いた未来、築こうとした未来は妖精たちにとっては
もしかしたら間違っていなかったのかもしれない。
それでもシャオヘイは自ら未来を選択した

そんな疑問を抱えたまま2作目では姉弟子の
「人間を時には犠牲にする」スタイルに疑問を感じながら、
いい人だと思っていた妖精にも裏切られている。
妖精の人間に対する恨みつらみを多く聞きつつも、
シャオヘイは「妖精と人間」が共存する未来を望んでいる。

シャオヘイはまだ子供だ、だが、彼が大人になったとき、
強大な力を持つ彼はいつか「ムゲン」すら超える力を持つだろう。
その時に彼はどんな未来をのぞみ、選ぶのか…
3作品目もぜひ見てみたいと思ってしまう作品だった。

総評:日本よ、これが中国アニメ映画だ!

全体的に見て圧倒的な完成度を誇る作品だ。
ストーリー的には王道なジャンプアニメ映画的なスタンスで
シャオヘイという主人公の成長と変化を
続編らしく丁寧に描いており、前作があったからこその関係性や
姉弟子との関係性もほほえましく楽しめる。

そんなストーリーを盛り上げるアニメーションのクオリティがとにかくエグく、
シームレスなカメラワークでさりげない作画枚数という名の物量をみせつけ、
いざ戦闘シーンが始まれば瞬間的なスローやシームレスなカメラワークを
多用しながら、豪雨のように降りしきる金属の波や、
空間能力を使った瞬間移動による戦闘シーン、ムゲンの圧倒的な
戦闘シーンをこれでもか!と描いている。

1回見ただけではすべて把握しきれないほどの「情報量」が
戦闘シーンには詰まっており、思わず、もう1度見たくなる魅力がある。
日本で放送される中国アニメにも面白い作品はあるものの、
羅小黒戦記だけはその中でも別格だ。

ぜひ、前作を見たうえで最高峰の中国アニメを
劇場で味わっていただきたい。

個人的感想:別格

前作から約5年の月日がたち、その間に多くの中国アニメを
見てきたが、やはり羅小黒戦記だけは別格だ。
戦闘シーンもストーリーもキャラクター描写もギャグも、
多くの中国アニメから頭1つどころか3つくらい抜き出ている。

前作が日本で上映されたときは本当に
「中国アニメが日本アニメを超える」日が来るかもと
戦々恐々としていたが、あれから5年たってもそうはなっていない。
この羅小黒戦記が異端児すぎるのかもしれない。

秋アニメからWebアニメ版も日本語吹き替えにて
放送が始まっており、ここからさらにこの作品は人気になるだろう。
おそらくやるはずの3作目も期待したいところだ。

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