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「サイダーのように言葉が湧き上がる」レビュー

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評価 ★★★☆☆(57点) 全87分

「サイダーのように言葉が湧き上がる」スペシャルPV (never young beach ver.)

あらすじ 地方都市「小田市」に暮らしている少年と少女の物語。
引用- Wikipedia

青春微炭酸

本作品はオリジナルアニメ作品。
四月は君の嘘などでおなじみのイシグロキョウヘイ監督による作品。
制作はシグナル・エムディ、サブリメイション

癖の強さ

冒頭から癖の強さが全開だ。
俳句を読む少年、自身の「歯並び」を気にしてマスクをする少女。
そんな2人の主人公をえがきつつ、強烈にビビットな配色で彩られた背景は
若干目がチカチカするほどだ。

イシグロキョウヘイ監督らしい配色センスといえるものの、
この彩色の強さはやや作品全体に特有の「癖」を生んでいる。
どこか一般向けとはいい難い、芸術性の高さや
イシグロキョウヘイ監督だからこその特色をこの色使いで
出そうとしているのでは?という印象をううける。

ハイテンポに切り替わる画面、
癖はあるものの印象に残りやすいキャラクターデザインと、
そんなキャラクターたちの自由な動きは爽快感を生み、
グリグリと画面狭しとキャラクターが動き回るさまは心地よさすら感じる。

方向性は違う物の「湯浅政明」監督のキャラクターの動かし方と
近い部分があり、より現代的かつ、いい意味で「若々しい」センスを
画面の端から端じまで溢れさせているような感覚だ。

ベタ

映像面での新進気鋭なセンスは感じるものの内容としてはベタ、
いい意味で言えば王道だ。
自身にコンプレックスを持つ男女がある日、出会う。
いわゆる「ボーイミーツガール」な作品だ。

少年はいつも「ヘッドホン」をつけている。
それは彼が外界に強い壁があることを位置付けている。
人と人のコミュニケーションが苦手な主人公という
位置づけにしたいのはわかるものの、いまいち彼の設定は生かしきれていない。

注意されればヘッドホンははずすし、別に人と話せないわけでもない。
俳句をSNSに投稿し自分の思いを吐露しているものの、
別に某作品のように常に俳句でしかしゃべれないわけでもない。

少女もコンプレックスのある出っ歯を改善するために
矯正しており、常にマスクはしているものの、
矯正が終わればそのコンプレックスも解決されるだろう。
外見は気にしているものの配信サイトで多くのファンがおり、
強い「コンプレックス」があるとも言えない。

二人の主人公が抱えている問題がはっきりいってしまえばやや中途半端だ。
もう一歩踏み込んだ設定にしてほしいと感じる部分がある。
どこか感情移入しにくいキャラクターだ。

序盤の出会いから淡々とした展開が続いてしまい、
この作品はどこへ向かうんだろう?と思うなかで「恋」が始まる。
自分の思いを俳句でしか表現できない少年、
そんな彼の「俳句」と読み上げる「声」をかわいいと
シンプルに伝える少女に彼は恋をする。

SNS愛

2人の恋愛模様は微笑ましい。
若い世代の、今の少年少女だからこその恋愛模様ともいえる。
言葉にせず、互いのTwitterのアカウントをフォローしあい、
少女のチャンネルに登録し、互いにに「いいね」を押す。

こっそりと好きな人の配信を見て、ツイートにいいねを送る。
互いが互いの「好意」をSNSを通じて伝えている。
決して言葉にせず、行動にするわけでもない。
明確に自身の中にある恋心を自覚しているわけでもないからこそだ。

この現代的ともいえる恋愛模様は歯がゆさはあるものの、
微笑ましい描写だ。少年は引っ越しを控えている。
この歳で遠距離恋愛などできるわけもない。
だからこそ、自身の中にある恋心を自覚しないように、
これ以上は溢れ出ないようにしている。

少年はいつの頃からかヘッドホンをしなくなっている。
決定的な場面はない、この作品はあえてそういった決定的な場面を
描かずに「淡く」どこかボヤケてみせていると言ってもいい。

恋心が、少女と関わりたいという少年の思いが少年も気づかぬうちに
自然と彼のヘッドホンをはずうさせている。
端的に言えばキャラクターたちの自己主張が甘い、
こちら側が彼らの領域に踏み込んであげることが重要だ。
映像をただ見ているだけではこの作品の面白さを掴み取れない。

レコード探し

いつの間にか少女は少年と同じバイトを始める。
この過程はダイジェストで描かれており、やや唐突であり、
この展開のせいで同時に「配信をしている少女」という設定が
死んでしまっている。

中盤からはバイト先である「デイケア」の利用者のおじいさんが
探している「レコード」を2人で探すという展開になる。
二人の共通の目的が生まれることで二人の仲も深まっていく。

SNSで密かに思いを伝えあっていた2人が、
現実で行動をともにすることで、その思いを抑えきれなくなってくる。
だが、少年はもうすぐ引っ越してしまう。少女への思いは募るばかりだ。

「やまざくら かくしたその葉 ぼくはすき」

「山桜」は「出っ歯」の俗称だ。
そんな俳句を彼はSNSにさりげなく投稿する。
思いを寄せる出っ歯な少女が自分のツイートを見ていることをわかったうえで。
なんとも遠回しでじれったい恋愛模様に思わずニヤニヤしてしまう。

引っ越すことすら彼は言えていない。
そんな彼を少女は思い切って誘う。

「花火…いっしょにみにいこ?」

マスクはしたままの彼女の告白。
だが、引っ越してしまう彼はそんな思いを受け止めることはできない。
悲しそうな彼女の後ろ姿を見て彼は再びヘッドホンで心を閉ざす。
せっかく見つけても割れてしまったレコードは
まるで2人の恋のようだ。

一歩踏み出す

少年は自分の思いを吐露することが苦手な少年だった。
そんな彼が、好きな人に自分の思いを伝えるために、一歩踏みだす。
終盤のそんなベタな展開、だが、そのベタさがたまらない。

「サイダーのように言葉が湧き上がる」

タイトルの通りの彼の思い。
俳句でたどたどしく、人前でも関係ない、彼の思いの吐露。
不器用で、青く、まっすぐな告白。何度も何度も繰り返し、彼は叫ぶ。
吹き出した炭酸という名の思いは誰に止められない。

少女はマスクをはずす。
それは少年がそれを認めてくれたからこそだ。

総評:青春微炭酸

全体的に見て気持ちがいいまでのまっすぐな青春恋愛アニメ映画だ。
序盤はこの作品の方向性が見えず、キャラクターたちにも
いまいち感情移入しに切れない部分があるものの、
中盤から見てる側が一歩、踏み込み、彼らの現代的な恋愛模様にニヤニヤし、
終盤の青臭さすら感じる展開を楽しんでしまう。

ただ作品全体として地味だ。
ビビットな配色やキャラクターのぬるぬるとした動きで
誤魔化してはいるものの、展開としては淡々としている部分が多く、
キャラクターや設定を活かしきれていないと感じる部分もある。

いい意味でイシグロキョウヘイ監督の処女作らしい作品と言えるのかも知れない。
まだ青い果実、そのみずみずしさを作品全体から感じるものの、
もう一歩踏み込んだら名作に、熟れた果実のような味わいが出るのにと
感じる若い作品だった。

個人的な感想:悪くない

展開としてはかなり王道ではあるものの、現代的なSNSの要素を入れつつも
俳句やレコードといった古い文化を取り入れている。
そのミックスが面白く、その面白さの味わいが出てくるのが中盤くらいだ。
見終わってみれば面白かったと感じられる作品ではあるものの、
細かい部分での粗はめだっている。

背景のえがき方はリアルな描写とは違い、
この手の最近の作品だとSF要素が入りがちだが、その要素は一切ない。
あくまでも「イシグロキョウヘイ」監督がえがきたいものを
描いたんだろうなーという印象を受ける作品だった。

興行収入は余り伸びなかったようだが、
確かにこの作品をどういう層に見てもらいたかったのかいまいちわからない。
一般受けとしてはやや癖のある描写が非常に多く、
オタク受けとしてはストーリーが王道すぎる。
どっちつかずになってしまっている感じは否めない。

もう一歩どちらかに傾く要素があれば興行収入も違ったかも知れない。
色々と「惜しい」と感じる作品だった。

「サイダーのように言葉が湧き上がる」は面白い?つまらない?

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  1. 匿名 より:

    滅茶苦茶面白くはないが面白いか面白くないかで言ったら面白い方