這い寄るミステリーの面白さ「すべてがFになる THE PERFECT INSIDER」レビュー

2016年6月27日

評価★★★★☆(61点)全11話
すべてがFになる THE PERFECT INSIDER Complete BOX (完全生産限定版) [Blu-ray]

あらすじ
孤島の研究所で隔離された生活を送る天才プログラマー・真賀田四季。彼女の研究所を訪れた那古野大学准教授・犀川創平と学生の西之園萌絵は、不可思議な密室殺人に遭遇する。

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這い寄るミステリーの面白さ

原作は森博嗣によるミステリー小説。
監督は神戸守、制作はA-1 Pictures。

見だして感じるのは地味さだろう。
多くのアニメの1話の場合、OPの前になんらかのシーンが描写されるが、
この作品は1話冒頭からいきなりOPだ。
OPアニメーションは非常に独特かつセンス溢れるものではあるが、
刺激的とは言いがたく、地味だ。

キャラクターデザインも地味だ。
原作がラノベや漫画ではなく、ミステリー小説であることもあり、
実写よりのリアルなキャラクターデザインとなっており、
特徴的なデザインのキャラは少ない。

物語が始まっても淡々とした会話劇だ。
大学の准教授である「犀川創平」という主人公の哲学的セリフを、
西之園萌絵というヒロインが聞きながら受け答える。
この地味さは非常に好みの分かれる地味さだ。

まるで小説を読み解くように、絵面ではなくセリフから想像できる
人物像とキャラ描写を「耳」でセリフを聞きながら読み解き、
眼ではなく耳で見ているような感覚になるような、
じわりじわりとしたストーリー展開は、
小説ならば3ページにも満たないようなシーンをじっくりと時間を掛けて描いている

アニメでありながら小説を読んでいるかのような感覚になるのは非常に面白い、
だが、同時にアニメとしては致命的なまでに地味であり、淡々としている。
この地味さと淡々さを「染み渡るような面白さ」と感じるか、
「盛り上がりに欠ける」と感じるかは見る人の好みによって違うだろう。

1話では事件すら起きない。
この物語に登場するメインの登場人物がどんな人物かを
会話劇の中で見ている人に伝える。

3話でようやく事件が起こる、
じわりじわりとした人物描写の中で美しさすら感じさせる死体が現れる。
ウェディングドレスを着せられた黒髪の美少女、
だが、両手両足はない。

大量の血液や切断面、そういったグロテスクな描写はない。
だからこそ蠱惑的な犯罪の魅力と、死んだ人間を美しく着飾ることで、
衝撃的な事件のインパクトは無いのにもかからわず、
「どろり」としたサスペンス特有の感覚と
密室の中で起こった事件の内容がミステリーの面白さを感じさせる。

いわゆるクローズドサークルの中で起こる密室殺人からの連続殺人、
完璧なシステムで管理された中で一体どうやって殺したのか、
登場人物たちの秘密や過去、
そういったものが「1クール」というストーリーの中で
じわりじわりと見ている側に伝わり、じわりじわりと話が進む。

爽快感というものは薄い。
このシーンのここが面白いんだよ!と明言できないもどかしさを常に抱えつつも、
じわりじわりと染み渡るような面白さは確実にあり、
その面白さをじっくりと1クールという尺の中でたっぷりと味わせてくれる。

登場人物たちの絶妙な会話劇から、少しずつ登場人物たちのことがわかり、
序盤から中盤までは謎が謎を呼び、事件が事件を呼び、
伏線がさり気なく引かれ、終盤に伏線の回収と共に事件が解決する
一冊の本を開き、ページをめくるように、ストーリーがゆっくりと進む

ストーリーは面白い。
きちんとした雰囲気作り、雰囲気にあったキャラクターデザインと声優の演技、
ストーリーの面白さを決して邪魔せず、挿絵のように描かれる。
だが、同時に「アニメーション」としての面白さは薄い。

基本的に会話劇であり、刺激的なシーンは少ない。
物語の展開自体も非常にゆっくりで、全11話で1エピソードでしかなく、
このゆったりしたテンポがあるからこそ
この作品本来の面白さを決して邪魔しない作りにはなっているが、
逆にストーリーの展開は遅いと感じる人も多いだろう。

邪魔しないからこそ、
アニメーションの面での過剰な演出はなく、過剰な動きもない。
身も蓋もない話だが

「原作を読んだほうが想像が働く分面白いのでは?」

と感じてしまう部分もある。
特にリアルと言うか設定にこだわったせいか、
キャラクターの一人が英語しかしゃべらないため、
そのキャラが喋っている間に字幕が出る。

英語に拘る必要があったのかどうか非常に謎であり、
しかも、明らかに「日本人が喋っている英語」なため、
字幕のセリフの内容が素直に頭に入ってこない。

ストーリー的にも名探偵コナンのように
「犯人はお前だ!」ですっきりするような感じではない。
この作品らしく地味に、だが、しっとりと犯人がわかり、
粛々と物語が終わる。
この作品らしい雰囲気を最後まで維持したまま、
この作品の面白さを堪能できる感じだ。

全体的に見て非常に好みが分かれる作品だ。
圧倒的なまでに平坦で、圧倒的なまでに地味なアニメだ。
だが、その平坦かつ地味で淡々としたストーリー展開の中から、
じわりじわりと「這い寄るような面白さ」を感じられれば、
最後までしっかりとこの作品を楽しむことが出来るだろう。

しかし、この作品の面白さを最大限に活かすためには
どうしても過剰な演出や動きは不要であり、
地味になるのは仕方ない。
その地味さは人によっては退屈に感じてしまう地味さであり、
この作品の最大の面白さを引き出すための要素が最大の欠点にもなっている。

ただ最後までストーリーを見終わると、
「犯人の最後の笑顔」に思わず、主人公と同じように笑ってしまうはずだ。
やられたと、探偵役の彼と同じように笑いながら感じることが出来る。
犯人がつかまらずに逃げてしまうというのは、
ミステリーにおいて本来なら欠点にも思える要素ではあるが、
この作品の場合、それが最大の魅力にもなっている。

個人的にはこの作品の雰囲気がものすごい好きだ。
しかしながら、この作品を好きでない、つまらないという人の気持ちもわかる。
非常に評価の難しい作品だった