SF映画

「君の名は。」レビュー

4.0
SF
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評価 ★★★★☆(77点) 全106分

「君の名は。」予告

あらすじ 東京の四ツ谷に暮らす男子高校生・立花瀧は、ある朝、目を覚ますと岐阜県飛騨地方の山奥にある糸守町に住む女子高生・宮水三葉になっており、逆に三葉は瀧になっていた。2人とも「奇妙な夢」だと思いながら、知らない誰かの一日を過ごす。引用- Wikipedia

新海誠という名の変態

本作品はアニメオリジナル映画作品。
監督は新海誠、制作は制作会社 コミックス・ウェーブ・フィルム。
2016年に大ヒットし、興行収入250億円というとんでもない売上をあげた。

背景

見出して感じるのは驚くほどに書きこまれた背景だろう。
新海誠監督の前作「言の葉の庭」も背景描写と雨の描写が素晴らしかったが、
それ以上に細かい背景描写のこだわりはもはや病的と言っても過言ではない。
ほんの1シーン、時間としては1秒にも満たないようなシーンの背景でさえ
細かすぎる描写をすることで作品の世界観に一気に入り込ませる。
もはや新海誠の意地みたいなものすら感じるこだわりだ。

新海誠と言う監督は変態である。
これは新海誠作品を見たことが有る人ならば共通認識だと思うが、
前作の言の葉の庭における「年上のお姉さんと年下の男の子」という関係性や、
「足」にこだわりまくった描写は強いフェチズムと変態性がなければ
描けないものだ。
その変態性がこの作品でも生きており、それは背景描写にまで現れている。

冒頭の雲、星、夜、街の景色の数々。
「背景」だけで自然と期待感を感じさせる描写は流石だ。
背景というのはただリアルだからいいというわけでもない、
背景がきちんと描かれ、それが生々しく、現実的であるほど
キャラクターの作画が浮いてしまう危険性がある。

しかし、この作品はそのバランスが素晴らしい。
あくまでリアルな背景ではあるものの、キャラクターの作画が浮いていない。
だからこそ、より「現実的」にキャラクターを生々しく感じることができる。

特に冒頭の「朝日」の描写はさすがだ。
部屋に差し込む朝日、そんな朝日に照らされて自然と目が覚める。
誰もが感じたことのある日常をリアルに描くことで、
この作品のリアリズムを感じることができる。

TS

この作品は「入れ替わり」を描いている。
いわゆるTS、性転換的な要素を含んでいる。
主人公は朝目が覚めると自分が地方の街で暮らす女子高生になっており、
女子高生は都会で暮らす男子高校生になっているという入れ替わりが起こる。

健全な年頃の男子がもし女の子の体になったらどうするか。
「胸を揉む」である(笑)
健全な男子ならば女子の体になった瞬間にすること=胸を揉むという
どストレートなエロスが冒頭で描かれる。

自分の目線から入れ替わった女子の胸を上から覗き
谷間を確認し、自分の胸を揉む。
逆のパターンもきっちり描かれる。
女子高生が男子高校生の体になって股間の違和感に気づき触る(笑)

見た目は男子高校生だが中身は女子高生
見た目は女子高生だが中身は男子高生。
どちらのパターンでも反応の可愛らしさや素直なエロが描かれている。

随所随所に新海誠監督の変態性が盛り込まれており、
見た目は健全なアニメ映画なのだが、
そこかしこに変態性を感じさせることでニヤニヤしながら見てしまう。

この作品は王道のSF青春アニメ映画だ。
しかし、見た目はそうでも、細かい部分で「新海誠」という
監督の作家性を感じるフェチズムの数々を取り入れることで、
刺激的なシーンが生まれている。

だが、それを一瞬しか見せない。
一瞬しか見せないからこそエロティシズムが適度に抑えられているが、
オタクはその一瞬を見のがなさない(笑)
普通の人が見れば気にならないくらいのセクシー要素、
オタクが見ればめちゃめちゃ描きこまれたセクシー要素というバランスが素晴らしい。

セクシー要素の代表とも言えるのが「口噛み酒」だろう。
米をかんで吐き出したものを発酵させて作る世界最古の酒だ。
その描写を生々しく描く。米を口に入れ噛みほぐし、吐き出す。

もはやフェチを超えてマニアなレベルのシーンの描写だ。
しかし、そんなマニアックなシーンではあるものの「田舎の祭り」の
儀式の1つとして組み込むことでマニアックさを抑えている。

お前は誰だ?

序盤は互いに入れ替わっていることに気づいていない。
何処の誰かもわからない人生に乗り移ったような不思議な感覚、
覚えていない「夢」のような感覚の入れ替わりを
二人はなかなか自覚しない。

田舎暮しである「三葉」は田舎暮しであるがゆえの不満を抱えている。
「来世は東京のイケメン男子にしてください!」
そんな願いが巫女である彼女の通じたのか通じていないのか(笑)、
彼女もまた入れ替わりを経験する。

もしかしたら夢かもしれない。
何度も何度も「入れ替わり」を二人は経験する中で、
それが夢ではなく現実だと気づく。
しっかりと序盤でそこまでの過程を描いたあとに、
その序盤が終わると有名にもなった「あの曲」が流れる中で
ダイジェストチックに軽く序盤のストーリーを一気に描く。

もっとこの部分をじっくり描くことも出来たはずだ、
だが敢えてダイジェストチックに何度も行われる入れ替わり描くことで、
TVアニメなら2,3話かけて描きそうな内容を凝縮して描いている。
これは普段、アニメを見ない層に向けた演出とも言える。

だらだらと日常描写を描かずに、あえて一気にダイジェストで
進めることでストーリーのテンポを良くし、
同時に流れる主題歌の印象も強く根付く。

互いの入れ替わりの中でのノートやスマホに記載した中での
メモ書きでの会話を見せることで、一気にストーリーの盛り上がり、
キャラクターへの愛着も深めることができる。

入れ替わった東京の男子高校生「瀧」の可愛さも素晴らしい。
中身は田舎の女子高生の三葉だ。
だからこそ「女の子」らしい仕草と喋り方で、
外見は男子なのにどこか可愛らしく感じる描写になっている。
このあたりは演じている「神木隆之介」さんの演技の素晴らしさもあるのだろう。

TS要素の良さを女子ではなく、男子の体で見せることで
エロさを抑えていると言えるかもしれない。

違う人生

互いが入れ替わってる間の出来事は日記や周囲の反応でしか知ることができない。
だが、普段は味わったことのないぜんぜん違う環境、性別だからこそ
その体験は新鮮であり、まるで交換日記のように互いに互いの意見を言い合っていく。

誰も知らない二人だけの秘密、互いの人生を味わうことで、
互いを理解し、知り得ていく。
それは友達でも、家族でも、恋人でも味わえない体験だ。
人は血の繋がりがあったとしても他人であることには違いない、
所詮は自分自身以外は自分自身の人生を味わえない。

だが二人は違う。二人は互いの人生を味わい、
互いの置かれている状況や悩み、互いの気持ちを感じてしまう。
それがある種の「恋心」にもつながる。
恋心なんて安っぽい言葉じゃなく、もっと違う、特別なつながり。
この作品の言葉を借りるならば「結び」だ。

結び

ベタベタな入れ替わりが急に途切れ、電話やメールも通じない。
夢の中で入れ替わっていた彼女は確かに存在したはずなのに、
二度と入れ替わりが起きなくなってしまう。
どうして入れ替わりが起きなくなってしまったのか、
「三葉」という少女は存在するのか。

繋がりという名の結びを得たからこそ、彼は彼女を求めてしまう。
彼女が暮らしていた街は災害で3年前に無くなってしまっており、
彼女が残したメモも消えていく。

青春ものかと思わせといて急激にSF展開へと変わっていく流れは、
1時間半という尺をダレさせず飽きさせないストーリー構成になっており、
やや唐突な展開な感じはあるものの、
言い方を変えればドラマチックにストーリーが展開していく。

ただ、この後半のストーリーはやや賛否が別れる所だろう。
主人公がどうしてヒロインを好きになったのか、
逆にヒロインがどうして主人公を好きになったのかという
恋愛のきっかけのようなものもやや分かりづらく、
SF的ストーリー展開が怒涛な感じだ。

テンポが早いだけに「勢い」で誤魔化している感じも強く、
書きこまれた背景による作画の雰囲気と
前半のキャラクター描写があったからこそ、
この後半のやや強引ともご都合主義ともいえる展開についていけるが、
深く考え出すとしっくりと来ない部分もあり、
後半にこのSFストーリーを詰め込んでしまったために分かりづらい部分もある。

特に終盤でヒロインの父親が彼女の言葉を信じるところなどは、
やや説得力に欠けると思ってしまうのだが、
そこをごちゃごちゃと説得するシーンを描写するのではなく、
勢いのままにすすめている。

ただ、そういった細かい部分が気になってしまうのは
私が「オタク」だからであり、それ以外の普通の人ならば
こんな細かい部分は気にならず勢いのままに怒涛の展開を楽しめるだろう。

ラスト

そして新海誠作品らしくないラスト。
これほどまで清々しい分かりやすいハッピーエンドは
今までの新海誠監督作品ではありえず、
良い意味でも悪い意味でも「一般受け」を狙った作品だと感じさせるラストだ。

SF的なストーリーにしたからこそ、
時間のズレという仕掛けを取り入れたからこその物語だ。
3年という時間のズレ、互いも自覚していなかった時間のズレが
切ない物語を生んでいる。

入れ替わってしまったからこそ、その入れ替わりがなくなってしまったからこそ、
何処に居るかもわからない相手を求めてしまう。
「自分」とは決してわからない、3年前には出会ってすら、
入れ替わってすら居ない相手。
忘れてはいけない「名前」と「結び」を終盤で彼は思い出す。

入れ替わっている間は決して触れ合うことはできない。
だが、たった一時だけ、その一瞬だけ触れ合える。
切ないラブストーリーは「時間のズレ」というSF要素を
取り入れたからこその物語だ。
夢はいつか忘れてしまう、だが「結び」は消えない。

そして、新海誠という監督は「時空」を捻じ曲げてまで
同い年だったヒロインを自分好みの「年上」の
ヒロインへと昇華させている(笑)

総評:変態という神が地上に舞い降りた

全体的に見て、これまで新海誠監督というのは
アニメオタクやアニメマニアに受ける作品を作ってきた人だ。
そんな人が普段アニメを見ない人にもう受け入れやすいようにわかりやすく、
テンポよく、ストレートにストーリーを描いた事で
多くの人に受け入れられた作品になり、ここまでの大ヒットしたのだろう。

今までの新海誠ならもっと掘り下げつつも、もっと台詞は少ないはずだ。
キャラクター同士の何とも言えない空気感や間でキャラの感情を察させるような
そんな演出はこの作品にはない。
物凄いわかりやすくキャラクターが感情のままに動き、
起承転結のスッキリとしたストーリーが描かれている。

それだけに今までの新海誠監督作品を好きな人にとっては
しっくりと来ない部分もあるかもしれない。
わかりやすく言うと今までの新海誠という人は
ミュージシャンで言えばシングル曲の「B面」ばかりを作ってきたような人だ。

そのミュージシャンのファンならば表題曲のA面よりもB面のほうが
良いという人も多いはずだ。
そんなB面ばかり作っていた人がA面曲を作ったことで
しっかりと一般受けする楽曲になったというような感覚の作品だ。

新海誠らしさを感じる部分は多い。
特にヒロインが主人公を探しに東京に来るシーンでの
「時間のすれ違い」など憎い演出であり、
単純な入れ替わりではなく「時間のズレ」があることによる切なさや
会えないもどかしさなどは新海誠監督らしい部分だ。

ただ、普段アニメを見ない人にも受け入れやすいようなテンポと
分かりやすい感情のままのセリフでストーリーを進めており、
RADWINPSの曲を頻繁に入れることで分かりやすく
盛り上がるような雰囲気作りをしている。

フェチズム要素はありつつも変態的要素は抑え気味で、
抑えたからこそ国民的なアニメ映画になったのかもしれない。

個人的な感想:前作

個人的にいえば「言の葉の庭」のほうが好きだった。
この作品ももちろん面白いのだが、オタク目線で見てしまうと
一般受けを意識した要素が非常に多く、
何度も見たいと思うような作品というよりは一回見れば十分な感じの作品だ。

いつもの新海誠監督のキャラクター同士の空気感もあまり感じず、
シンプルにキャラクターの感情をぶつけるのは悪くはないのだが、
新海誠監督らしい作品を求めると肩透かしを食う部分も大きい。

色々と書いてしまったがスッキリと楽しめる完成度の高い作品だ。
人気になるのも分かる丁寧な作り方をしており、
1度は見て損はない作品だろう。

新海誠監督の次回作はどうなるのだろうか。
どういった方向性に切り替わるのか、同じ路線で突き進むのか。
次回作が楽しみで仕方がない。

「君の名は。」は面白い?つまらない?

この作品をどう思いましたか?あなたのご感想をお聞かせください

  1. 匿名 より:

    異性と入れ替わり村のピンチを救うという出来事は、過去にも起こってたのではないでしょうか。父親もその経験があったため、入れ替わっている三葉を見て重要性を理解しすぐに協力してくれたと思っています。