評価 ★★★★☆(60点) 全10話
あらすじ 怒りが、憎しみが、戦火となって人々を飲み込もうとしている。レユニオン・ムーブメントの暴走とその背後にある陰謀を阻止できるのは、中立組織であるロドスのみ 引用- Wikipedia
死を背負い、世界に抗え
本作品はアークナイツの
監督は渡邉祐記 、制作はYostar Pictures
フロストノヴァ
3期であるがゆえに当然、2期の続きだ。
フロストノヴァとの戦いを経て、
ドクターはフロストノヴァの死体を抱きかかえている。
レユニオンとロドス、同じ感染者であることは変わらないのに彼らは戦い続けている。
フロストノヴァは戦いの果に命を失う瞬間にドクターたちとわかり合うことができた。
仲間になれたはずだった、だが、命を失うことでしかその道がまじりあうことはない。
彼女の死体もまた新たな「感染者」を生む。
彼女を弔い、そんな彼女のことを憂う暇すらなく、レユニオンは迫りくる。
3期の1話から固有名詞がかなり多く、
特に組織の名前と国の名前はややこしい部分がある。
このあたりは原作ゲームをやってる前提になっている部分も大きく、
組織名なのか国名なのか理解しづらい。
チェン
それぞれがそれぞれの「正義」を元に戦っている。
だが、その正義すら本当に「正しい」のかがわからない。
志が同じだったはずの仲間でさえ、道を違えることもある。
1話からまるで映画のような戦闘シーンが描かれる。
本来は戦わなくてもいい相手だ、だが、戦わなければ己を貫き通すことができない。
「龍門」にとってはロドスもリユニオンも同じ感染者であることは変わらない、
敵対してるかそうでないかだ。
だが、「龍門」 にいる「チェン」も隠していたが感染者だ。
1話から非常に複雑なストーリーが展開しており、
2期から忘れている部分も多く、調べながら、思い出しながら、
ストーリーにギリギリしがみつける印象だ。
感染者の居場所がない龍門で「チェン」は街を出て、
レユニオンである自らの姉と対話を試みようとする。
そんなチェンを止めようとするものも居る。
友人が、父親のような存在が。
武力を持って止めようとしても彼女は止まらない。
自らの中の「正しさ」を押し通すことさえできなければ
この世界で生きることは難しい。
正しさと正しさがぶつかりあう戦闘シーン、
暗い中で光る赤いエフェクトは戦闘シーンをより盛り上げてくれる。
過去
1話はなんとかついていけるのだが、2話になると
「過去回想」が始まる。傭兵の3人の物語が描かれるのだが、
記憶を失う前のドクターや、Wなどのキャラクターがでてくるのだが、
相当なダイジェストで描かれており、ギリギリだ。
私は原作ゲームを少しやっており、だからこそギリギリついていける部分もある。
アニメだけ見ていたらついていけないと感じてしまうほど、
2話以降はアニメ勢には優しくない。
戦闘シーンのクォリティが高く「雰囲気」があるからこそ、
その雰囲気に流されてキャラクターとストーリーに
ギリギリ、すがりつくことはできるが、本当にギリギリだ。
相当量のストーリーを2話にダイジェストという形で詰め込み、
なんとか形にし「W」というキャラクターを描いている。
ダイジェストとはいえ形になっているのは凄いところではあるものの、
集中してみていないとあっという間に置いていかれる感じがある。
死
主人公たるドクターも悩んでいる、敵として出会ったもの、
仲間として出会ったもの、それぞれ考えが少し違うだけだ。
この世界に生きるものは「矛盾」を抱えながらも
大局に抗うために戦うしか無い。それが自らの正義だと信じて。
1期は通常戦闘、2期はボス戦、3期は総力戦が描かれる。
それぞれが「死」を目の当たりにしている。
だが、それを簡単に受け止めることができないものも居る。
多くの死を味わい、そんな死を受け入れる時間すら無く、
戦いは次々と起こり、死は積み重なっていく。
立ち止まることは許されない、多くの死が背中に乗っかっている。
そんな死を無駄な死ではなかったと、意味のある死だったと思いたい。
だからこそ戦うしか無い。
フロストノヴァの義父である「パトリオット」がアーミヤたちの前に立ちふさがる。
フロストノヴァが生きていれば、フロストノヴァと同じ道を歩めていれば
パトリオットと戦うことはなかったかもしれない。
だが、フロストノヴァは死んだ。
戦うことでしか「死」を消化することはできない。
1期や2期以上にクォリティの上がった作画は本当に素晴らしく、
パトリオットはフルCGで描かれることで「ボス」であることの印象がより強まり、
巨大な盾と重厚な鎧を身にまとい、再生を繰り返すパトリオットとの
戦闘シーンの印象は凄まじい。圧倒的だ。
どれだけ傷ついてもパトリオットは止まらない。
救い
戦いの中でパトリオットの過去を「アーミヤ」は垣間見る。
多くの後悔、多くの死を背負ったパトリオット、
抱えているものが多いからこそ強い。
自らが死ぬことは、自らが背負って抱えているものを誰かに託すことと同じだ。
それを理解し、アーミヤはパトリオットの死を背負う。
この陰惨な世界において「死」は解放という名の救いだ。
生きている限り背負わなければならない、生きている限り戦わなければならない。
すべて失い、100年戦っても、生きている限り安寧は訪れない。
この世界に答えはない。
オリジニウムというエネルギーに頼る世界、
そんなエネルギーのせいで生まれる感染者、そんな感染者が感染者をうみ、
感染者は差別され、排他される。
この世界で生きているなら誰しもが感染者になる可能性がある。
それでもオリジニウムを使うことを辞めることはできない。
世界そのものが矛盾している、その矛盾を抱えながら
感染者たちが争っている。
生きている限り戦わなければならない、多くの死を背負い、
その果に答えがあるのか、死という名の救いがあるのか。
それは彼ら自身にもわからない。それを理解しつつ、
死を背負いながら世界に抗い続けるしか無い。
精神
同じ志、考えを持つ仲間も戦いの果におかしくなる。
「ロスモンティス」は力を使えば使うほど精神を消費する。
少しずつ記憶を失い、自らを失いかけている。
まともな精神のままでこの世界を生きるのは難しい。
それはレユニオンのボス的な存在である「タルラ」も同じだ。
感染者の未来のために、感染者が笑顔で暮らせるように。
そんな理想の元、彼女は多くの仲間を集めた。
感染者の命は短い、そんな短い命を人間らしく迎えたいだけだ。
タルラは諦めきれない、多くの人が彼女のもとに集い、
そんな多くの人の意思を、死を背負ってしまっている。
終盤は哲学的ですらある。
差別に抗うために武器を取る、それが始まりであり
彼女たちの正義だ。だが、そんな差別に苦しむ同士が争っている。
他者と戦いながら、自分自身とも戦い続けている。
狂人を演ずるもの、精神に支障をきたすもの、
精神を乗っ取られるもの。
体だけでなく心も傷つきながらも戦うしか無い。
そんな過去を、思いを、死を「アーミヤ」は背負い
「魔王」となる。
1期のラストで命を守るために命を奪ったアーミヤ、
そんなアーミヤが2期、そして3期を経て覚醒に至る。
魔王
魔王たるアーミヤは他者の記憶を覗き見て過去を知ることができる。
敵が何を思い、何を背負い、何を見てきたのか。それを彼女は味わい、背負う。
他者の経験をも彼女は取り込み強くなっていく。
この陰惨な世界の全てを背負い「魔王」となりえる存在だ。
そんな魔王となり全てを抱えたアーミヤは
今度こそ命を奪うこと無く戦いを終えることができた。
1期、2期を経ての3期でようやくだ。
死んでいった命を抱えながら、彼女たちは対話を続ける。
まだ解決していない問題も多い、解決できない問題かもしれない。
ドクターの記憶、アーミヤの魔王、いろいろな謎も残りまくりだ。
だが、1歩進んだ。
死なせない道、生きて解決する事をなしえた。
全26話、2クールのアニメを3分割したようなストーリー構成の中で
彼女の成長が際立つのが3期のラストであり、
がっつりと濃厚な世界観とストーリーを味わえる作品だった。
総評:しがみつけ!置いていかれるな!
全体的に見て1期、2期を見てきた方ならば問題ないとは思うが、
3期は過去の2作品に比べてゲーム未プレイの人を突き放した感じが強く、
特に序盤は「どういうこと?」となりやすい状況で、
過去回想なども挟まりまくるため混乱しやすくなっている。
ただ、その序盤を乗り越えると丁寧に敵の過去回想などがあるがゆえに
敵の事情がわかりやすく、キャラクター描写もかなり丁寧に
行っているからこそ話も理解しやすくなる。
この序盤でしがみついて置いてけぼりにならないことが重要だ。
そのあたりのハードルの高さもあり、1期から2期は
1年しかブランクがなかったが、2期から3期は
約2年のブランクが空いてしまっているのも厳しいところだ。
この2年の間に1期と2期の記憶もなくなってる人もいるだろう、
そのあたりを補完しないといけない。
それを踏まえてようやく3期を楽しめる。
1期、2期を経てアーミヤたちが経験してきた「死」の数々、
それを背負い、受け止め、彼女たちは歩みを止めない。
それは敵も同じだ、そんな敵の思いすらアーミヤが受け止め、
戦うのではなく対話で解決することに至る。
この1期、2期、3期あわせての全26話、
まるで2クールのアニメを見終わったような濃厚な味わいがあり、
最初から一気に全26話放送されていれば印象も違ったかもしれない。
しかし、時間をかけたからこそ、まるで映画のようなクォリティの
アニメーションがこの陰鬱な世界に素晴らしいスパイスを与えている。
特に3期の作画のクォリティは明らかに1期や2期から上がっており、
戦闘シーンのクォリティもぐぐっとあがっている。
魔王となったアーミヤや、ロスモンティス、パトリオット、
それぞれのキャラクターらしい戦闘シーンが際立っており、
シリアスな世界観、重苦しい中での爽快感が生まれている。
物語的には解決したことは少ない。
4期というのがあるかはわからないものの、
このストーリー、世界の行く末は気になるところだ。
誰かに面白いよ!とこの3期だけを勧めにくく、
もし今からみるなら一気見、できればゲームも少しやることで
ようやく楽しめる作品だ。
そのあたりのハードルを乗り越え、しがみつくことで面白さが味わえる。
その価値はあるのだが、人には勧めにくい作品になってしまった。
個人的な感想:一区切り
1期から3年かけて2クールのアニメが完結したような感覚だ。
作画のクォリティ的に連続2クールでは厳しく、
ストーリーの区切りが良いように全8話と全10話という
変則的な構成になっているのも制作側のこだわりを感じる。
ストーリーの重さ、アニメだけだと説明不足というか
理解しにくい部分も多く、人を選ぶ作品ではあるものの、
もし今から見る人がいれば1期から3期まで一気に見てほしいところだ。