評価 ★★★★☆(65点) 全71分
あらすじ 楽器も触ったことがない不良学生たちが思いつきでバンドをスタートさせる 引用- Wikipedia
唯一無二、71分の衝動
原作は漫画な本作品。
監督は岩井澤健治 、製作はロックンロール・マウンテン、Tip Top
7年
この作品は岩井澤健治監督が7年の月日をかけて制作したことで知られている。
監督、脚本、絵コンテ、キャラクターデザイン、作画・美術監督、編集、
その全てを岩井澤監督が手掛け、岩井澤監督と数名のスタッフにより
「4万枚」の作画で作られている大作だ。
それほど岩井澤監督が原作に魅入られ、アニメで表現したいと思ったからこそだろう。
映画冒頭から独特な空気感が漂っている。
会話と会話の間、その空気感やテンポ感というのが非常に独特で、
はっきりいってアニメ的ではない、かといって実写的か?といえばそうでもない。
非常に絶妙なテンポ感を漂わせる会話の間があり、
「音声トラブルか?」と思うほどの無言なシーンもあったりする。
そのトラブルかと彷彿とさせる会話のテンポが、
独特な空気感を生み出し、この作品だからこそのリズムを作り出している。
一歩間違えば放送事故だ、映画だから上映事故だろうか。
通常のアニメのストーリー構成、テンポで描くなら
30分足らずで終わってしまいそうな脚本を、
独特なテンポで60分に引き伸ばしている印象だ。
声優
一歩間違えばシュールを通り越してテンポの悪さを感じさせる、
綱渡り的な間の取り方だ。
しかも主人公を演じているのはプロの声優ではない。
この手のアニメ映画だと人気の若手俳優だったり、アイドルだったりが
やることが多いのだが、今作の主人公を演ずるのはロック歌手である(笑)
あまりにも異様な配役なのだが、その声と演技が自然だ。
本作の主人公はいわゆるヤンキーであり、特に目的もなく、
なにかに夢中になるわけでもなく、日々を何気なく生きている。
表情の変化にも乏しく、口数も少ない。
そんな主人公像だからこそ演技力というものはあまり求められない。
この主人公も一歩間違えばただのモブやサブキャラでしかない。
しかし、彼はたまたま「ベース」を手に入れる。
たまたま町中で預かったベースをパクリ、
何の前触れもなくヤンキー仲間とともにバンドを始める。
何の脈絡もない、何の伏線もない。
唐突に主人公がベースを手に入れて、
主人公の仲間も勝手に音楽室から楽器を盗み出す(笑)
ヤンキーらしい無秩序な行動が一般市民には予想外すぎる展開を生み出している。
この手のバンドアニメだと、バンドの演奏をみて憧れてだったり、
過去に楽器はやってたけど今はとある事情でやめてしまって…
というバックボーンが有るのが普通だ。
しかし、この作品には一切ない、ベースをたまたまパクったので、
音楽を始めただけだ。あまりにも潔い。
原始の音楽
最初はただかきならすだけ、ただ叩くだけ。
そこにリズムなんてない、そこに音程などない、コードなんて概念もない。
知識も技術もない、だが、3人の奏でる「音」は徐々に
リズムを捉え、音楽へと進化していく。
誰か教えて貰える人がいるわけでもない、3人は3人なりに
「馬鹿」なりに模索する。
まるで原始人たちが日常の中で音を見つけ、それを音楽にしていくように
彼らもまた「本能」の音楽を奏でる。
ちなみに彼らのバンド名は「古武術」である(笑)
なんともふざけたバンド名であり、ストーリー展開なのだが、
この唯一無二のストーリーと会話のテンポ感、演技が
見れば見るほどクセになっていく。
彼らが通う高校には「古美術」というバンドが有ることを知り、
物語は不思議と盛り上がっていく。
古美術
古美術は古武術と違ってヤンキーではない。黒髪眼鏡な真面目な3人だ。
ヤンキーに怯える彼らは古武術と出会う。
彼らはきちんと技術もあり、きちんと自分たちの楽器で音楽をやっている。
古美術はフォークソング、古武術はあえていうならロックだ。
どちらも優等生とヤンキーという本来は交わることのない人間だ。
やっている音楽すら、何もかも違う。
だが、そんな6人は「音楽」を通じて心の底から通じ合う。
言葉などいらない、音楽ももとを辿ればコミュニケーションの手段の1つだ。
言葉という概念すらをも超えた音楽によるコミュニケーションが
言葉以上のなにかを伝えてくれる。
行き場のない衝動を彼らは音楽にぶつける。
研二という主人公はただ不良なだけだ、ただ何もしてないだけだ。
意味もなくタバコを吸い、意味もなく喧嘩をする。
若さ故の衝動のぶつけ場所を見失っていた彼が
「音楽」という衝動のぶつけ場所を見つけた
だが、この主人公は普通では終わらない。
唐突にバンドに飽きる(笑)
1度冷静になり自分を見つめ直したからこそ、もう衝動は止められない。
彼の衝動は「リコーダー」の音色とともに爆発する。
ロトスコープ
この作品はロトスコープという技術が使われている。
実写の映像でまず撮影し、その撮影した映像をトレースしながら
アニメーションを作るという方式だ。
それゆえに手書きのアニメでは省かれてしまうような細かい動きまで
取り込むことが出来るのが特徴だ。
そんなロトスコープだからこその演奏シーンの凄まじさがある。
主人公の衝動はライブで爆発する、リコーダーを狂ったように吹き、
そんな狂った演奏に仲間たちも影響されていく。
古武術と古美術のジャンルを超えた「音楽」、まさに衝動だ。
自らの体内にある音を奏でる演奏は言葉に表すことが出来ない。
あまりにも圧巻すぎる演奏に思わず口を開けよだれを垂れ流しながら、
驚愕の演奏をただただ見つめ、聞くことしか出来ない。
音楽とは衝動だ、本能だとでも言わんばかりの唯一無二のライブシーンは
1度見れば必ず虜になってしまうだろう。
その衝動は「叫び」へいたり、物語が終わる。
だが青春は終わらない、ほんの少しの恋の始まりを予感させ、
映画の幕は閉じる。
総評:これこそが唯一無二の作家性だ!
全体的に見て凄まじい作品だ。
71分という尺をあえて大胆に使ったストーリー構成、
シーン構成は一歩間違えば間延びしてテンポが悪いだけの作品になってしまう。
しかし、絶妙な尺の使い方によってシュールな雰囲気を醸し出し、
この作品だからこその空気感が生まれている。
そんな空気感をロトスコープによるアニメーションが盛り上げてくれる。
特にラストのライブシーンは圧巻の一言であり、
「音楽」とはなにか?というどこか哲学的な考えにまで
至らせてくれるような唯一無二のライブシーンに仕上がっている。
ストーリーもかなり突飛だ。
盗んだというかパクったベースで奏でだす不良の物語であり、
抑圧されていた衝動を音楽という形で表現する物語だ。
そしてラストには少しの恋物語が有る。
この71分の絶妙なストーリーがたまらず、
1度見れば忘れることの出来ない強烈なインパクトを残す作品だ。
キャラデザなどの癖もあるため敬遠する人も多いと思うが、
1度ご覧いただければ私のこの「熱量」に到るまでの
作品であることがおわかりいただけるはずだ。
個人的な感想:ひゃくえむ。
ひゃくえむ。をきっかけにこの作品を見ることにしたのだが、
あまりにも鮮烈すぎる作品だった。
この作品があったからこそ、ひゃくえむ。につながった、
そう感じさせる部分も多く、岩井澤監督の
ロトスコープでのアニメーションでの表現の
違いや変化も楽しむことが出来る。
ぜひ、ひゃくえむ。を見て虜になった人は
本作品も楽しんでいただきたい。
きっと貴方の衝動を駆り立ててくれるはずだ。




