評価 ★★★★☆(68点) 全12話
あらすじ 桜咲朱音は落語家の父を持つ小学生。阿良川志ん太という高座名で細々と活動する父・徹を応援していたが、真打昇格試験にて一門のトップである阿良川一生により破門を宣告されてしまう。 引用- Wikipedia
前代未聞の落語復讐劇
原作は週刊少年ジャンプで連載中の漫画作品。
監督は渡辺歩、制作はゼクシズ。
落語
本作品は「落語」をテーマにした作品だ。
落語がテーマのアニメといえば「じょしらく」や
「昭和元禄落語心中」などがあるが、
アニメとしては決してメジャーなテーマではない。
それはひとえに「アニメ映え」しにくいからだ。
落語という「話芸」をアニメという「動き」でどう表現するのか。
しかも、天下の週刊少年ジャンプ連載漫画だ。
鬼滅の刃や呪術廻戦というバトルファンタジー作品が
ヒットする中で、この作品はファンタジーでもなければバトルでもない。
剣も魔法も呪術もない。
あるのは座布団の上に座る一人の人間と、その口から生まれる物語だけだ。
主人公は「落語家」の父を持つ少女だ。
決して売れているわけでもない「二つ目」の父。
真打になるために必死になる中で、彼女は父の「噺」に夢中だ。
こっそりと父の落語を覗き込み、一人で話す姿、
ちょっとした仕草や声で複数の人物を演じる「落語」というものに魅入られている。
派手なアクションがあるわけではない。
しかし、人が言葉だけで人を笑わせ、泣かせ、空気を変えていく。
この作品は、その地味にも見える話芸を、
ジャンプアニメの熱さとして描こうとしている。
真打
主人公の父は真打を目指している。
そのための昇進試験を控え、主人公も父に期待する中、
1話では昇進試験が始まる。
「落語」という話芸において「試験」がある。
これはある種のバトルアニメだ。
NARUTOなどのジャンプ漫画ではおなじみの試験、
その試験に挑む緊張感、キャラクターの心情を
「これでもか」とえぐってくる。
試験という誰しもが少なからず緊張する状況で、
主人公の父もまた上がってしまう。
だが、彼は一人の落語家であると同時に「父」でもある。
娘にいい姿を見せたい。
そんな思いが彼の落語を変える。
この「変化」が聞いていてひしひしと伝わる。
主人公の父を演じる「福山潤」さんの演技、
どこか頼りなさを感じるのに、芯のある声、
緊張と緩和、緊張にさらされながらも、
自分なりの落語を披露しようとする。
ただ落語を読んでいるのではない。
一人の男が、父として、芸人として、
自分のすべてを高座に乗せているような感覚がある。
落語
落語というのは伝統芸能だ。
古くから伝わる話があり、それを話して披露する。
だが、その披露する落語家次第で、100回聞いた噺も
初めて聞いた噺のように感じさせることができる。
それが落語だ。
大体のあらすじさえ合っていれば噺をカットしても良い。
登場人物の設定を変えてもいい。
落語家がその噺をどう解釈し、自分なりの落語にするのか。
それが落語の面白いところであると同時に、落語家の「武器」だ。
話芸という話し方を己の刃にし、振り下ろす。
あえて見せ場を捨てて人物描写を見せる。
その「落語家」としてのやり方を、やや過剰とも言えるエフェクトや表情、
そして声優の演技で「視覚的」に見せる。
実際、落語の内容自体はさらっとしか語られない。
1話でやる「芝浜」自体は有名な演目ではあるものの、
落語の内容が分かる分からないに関係なく、
視覚的に「落語」のすごさを見せる。
地味ではあるものの、アニメとして凄まじいことをしている。
座って話しているだけのはずなのに、
その場の空気、客の視線、演者の呼吸、
そういったものがバトルアニメの攻防のように描かれている。
だが、結果は報われない。
主人公の父は真打どころか「破門」される。
主人公の父のやった芝浜は異質だ。
だからこそ、伝統を重んじる落語家はそれを認めない。
主人公は小学生の時に「落語家」としての「父」を失っている。
これは復讐劇だ。
落語家の父を失った少女が、落語家としての復讐を果たす。
落語という話芸の話で「復讐劇」を描く。
とんでもないことをしている作品だ。
復讐
主人公の目的はシンプルだ。
真打になれなかった父の無念を晴らすため、
父の落語はすごかったと言わせるため、
自らが真打となろうとしている。
彼女の生活は一変している。
苦しい生活から、父が落語家をやめてサラリーマンになったことで、
安定した豊かな生活になっている。
だが、彼女の好きだった「落語家」の父はもういない。
6年の月日を経てもその思いは変わらず、
かつての父の師に弟子入りし、
彼女は落語家になることを目指す。
彼女の初高座。
まだ正式な弟子ですらない中での落語だ。
しかし、彼女は圧倒的な才能と努力を見せる。
そこに見えない「饅頭」を思わず想像してしまい、
見えてしまうような感覚になるほどの圧倒的な演技力、
父の面影を感じさせる演技が客を包み込む。
ちょっとした仕草、演技の仕方、演出で
主人公の才能までも「視覚的」に見せる。
ここがこの作品の面白いところだ。
落語の上手さを「上手い」と説明するだけではない。
客の反応、空気の変化、背景の演出、声の艶、
そういったものを使って、
彼女がただの素人ではないことを見せてくる。
天才
だが、そんな彼女の前に本物の「天才」が現れる。
ピンク髪のイケメン、まるでホストのような見た目だが、
「艶」のある落語を見せる。
まるで桜吹雪が舞うが如く、客を飲み込み、圧倒する天才。
吹いていないはずの風すら吹きすさぶような落語だ。
実力の差、才能の差も「視覚的」に見せている。
昨今のジャンプ原作アニメはバトルアニメが定番だ。
鬼滅の刃や呪術廻戦、そういったバトルファンタジーアニメは
確かにわかりやすい面白さがあり、人気も出やすい。
しかし、この作品は要素だけ見ればその逆だ。
バトルシーンがあるわけでもない、血が吹き出るわけでもない、人が死ぬわけでもない。
だが、それでもこの作品は間違いなく「ジャンプ」であり、
バトルファンタジー全盛期のジャンプに殴り込むような
「会話劇」の面白さを見せている。
言葉で戦い、空気で押し、芸でねじ伏せる。
やっていることは落語だが、
構造としては完全にバトル漫画のそれだ。
努力
天才を前にした主人公は正式に弟子入りし、見習いとなる。
より落語家としての力をつけるために、「努力」だ。
落語家というのは旧態依然としたものだ。
見習いから始まり、雑用をしたりしながら、
長い時間をかけてようやく出世していく。
しかし、その果てに真打になれるとは限らない。
長い年月の修行、弟子の期間の末に花開くかどうかはわからない。
その下積みにも意味がある。
主人公には技術も才能もある。
しかし、自分の芸さえ磨けば落語家として一流になるわけでもない。
「客」を意識しなければならない。
落語は生ものだ。
客の性別、年齢、地域、好み、
そのときどきの「客」を相手にすることを意識しなければならない。
落語は大筋さえ合っていれば改変は自由だ。
だからこそ、その客に合わせた「落語」をしなければならない。
下積みの中で主人公は人を、客を学んでいく。
無意味に思える下積みにきちんと意味を持たせ、
さらに主人公の成長につなげる。
ジャンプにおける「修行」シーンというベタな要素ではあるが、
大きな岩を持ち上げるわけでも、奈落の底に突き落とされるわけでもない。
落語家だからこそ「人」と接することが修行になる。
「人に受けたければ、人を受け入れろ」
落語だけではない「接客」というものの真理がそこにはある。
ちょっとした客いじりで場を温め、空気を感じる。
「枕」というものの重要性を感じさせる。
このあたりは題材としては地味だ。
だが、その地味さを逃げずに描いているからこそ、
主人公の成長に説得力が生まれている。
勝利
落語というものを知らない、分からない人でも、
話が進めば進むほど「どういうものか」を理解できる。
落語の本筋自体は、そこまで本作品において重要ではない。
かつてヒカルの碁も「囲碁」というもののルールを知らない多くの人を虜にした。
この作品はまさにヒカルの碁と同じようなことをしている。
客が楽しむのは大前提。
そのうえで自分の色を、自分のやりたい落語を見せることができるのか。
きちんと主人公の成長を感じさせてくれる。
努力からの勝利、まさにジャンプだ。
落語というやや地味な題材ではあるものの、
きちんと王道なストーリー展開になっている。
一見すると特殊な題材に見えるが、
中身は非常に分かりやすい。
努力して、壁にぶつかり、ライバルと出会い、
自分だけの武器を見つけて勝利を掴む。
その王道を「落語」でやっていることに、この作品の新しさがある。
大会
中盤、主人公はアマチュアの大会に出ることになる。
その大会に出る条件は「寿限無」1本だけで勝負することだ。
誰もが知る有名な落語、誰もが知るからこそ難しい。
復讐相手と話す機会を得られるかもしれない大会、
そこに集う様々なライバルたち、まるで天下一武道会だ(笑)
寿限無という誰もが知る落語を主人公がどう見せるのか。
様々な人、修行を経て彼女が得たものは「言い立て」だ。
寿限無寿限無という長い名前を限界まで早口で言い立てる。
確かにわかりやすい変化、違いだ。
しかし、それだけでは勝てない。
個性豊かなライバルたち。彼らも負けていない。
それぞれが様々な思いをたぎらせる中で、
審査員に復讐相手や、それを支える「四天王」までいる中で
主人公はどう挑むのか。
この大会編はかなりジャンプらしい。
ルールがあり、ライバルがいて、審査員がいて、
主人公がそこで自分の成長を証明する。
やっているのは落語なのに、見ている感覚は完全にバトル大会だ。
寿限無
大会のラストで主人公はあえて「さらっと」寿限無を始める。
刺激的な落語、アイドル性のある落語で温まりきった場に、
上回るような熱量でぶつけるのではない。
その熱を少しだけ落ち着かせるように、緩やかな落語を始める。
「人に受けたければ、人を受け入れろ」
序盤で彼女が学んだ手法が終盤でもきちんと生きている。
努力で掴んだ技術、そして兄弟子や先生、多くの人との「友情」で
彼女は「寿限無」の真髄へとたどり着く。
寿限無というのは長い名前で笑いを取る話だ。
最初はその長い名前できちんと笑いを取り、
次に主人公は「寿限無」という長い名前がどうして長い名前になったのか、
そこに重きを置く人情噺としての落語を披露する。
笑わせるために長い名前を連呼するのではない。
「愛情」を込めて長い名前を呼ぶ。
寿限無という物語に出てくる登場人物を理解し、了見を広げて披露する。
主人公が同じ落語を何度も披露することで、
その「違い」を見ている側もきっちりと感じる。
この違いをはっきりと見せるのがこの作品のすごさだ。
「話芸」というアニメ映えしないものをここまでアニメ映えさせる
演出、見せ方に圧倒される。
同じ演目でも、解釈が変わればまったく別物になる。
同じ技でも、使い手が変われば威力が変わる。
そういうバトル漫画的な面白さを、
寿限無という落語の中で見せているのが本当にうまい。
復讐相手
主人公が復讐相手に聞きたいことは1つだ。
なぜ父を真打にしなかったのか、なぜ破門したのか。
そんな理由を、復讐相手はどストレートに叩きつけてくる。
彼女の父は確かに素晴らしい落語を披露した。
しかし、父の落語は客に「応援される」落語だった。
応援されるようでは真打ではない。
芸のあとに応援がついてくる。
応援が先に来ては真打ではない。
当代一といわれる「阿良川一生」という落語家は芯を突いている。
阿良川という名門に求められる落語、
伝統芸能を守り、磨き、つなぐ落語家としての矜持がある。
あのとき破門にしたのは、決して気まぐれやパフォーマンスではない。
だからこそ、主人公にも復讐のしがいがある。
自分の落語を認めさせる。
この復讐がブレることはない。
復讐相手の「阿良川一生」もまた、彼女の存在に喜びを隠せない。
あの時に主人公の父を破門にしたからこそ、
憎まれ役になったからこそ、
「本物」の落語家が生まれるかもしれない。
このあたりの敵の描き方も良い。
ただの嫌な老人ではなく、芸に対する思想と信念がある。
だからこそ、主人公が超えるべき壁として成立している。
最終話では、まるで敵の幹部の組織が会議しているかのようなシーンまであり、
主人公の物語は始まったばかりではあるものの、
そんな序章をしっかりと感じさせてくれる1クールだった。
気になる部分
ただ、気になる部分がないわけではない。
1クールという尺の都合もあり、
主人公の成長や大会までの流れはかなりテンポよく進む。
じっくり下積みを見たい人には、やや駆け足に感じる部分もあるかもしれない。
また、全体的にかなり真面目な作りだ。
題材が落語であり、復讐劇であり、芸の世界の話でもあるため、
軽いノリで見られる作品というよりは、
キャラクターの成長や芸の違いをじっくり味わう作品になっている。
とはいえ、その真面目さこそが本作品の魅力でもある。
落語という題材を茶化さず、かといって難しくしすぎず、
ジャンプらしい王道の熱さに変換している。
そのバランス感覚は見事だ。
総評:新世代のジャンプアニメ
全体的に見て「新しい時代」を感じる作品だった。
昨今のジャンプアニメの流行りとは違うジャンルでありながらも、
ジャンプらしい努力、友情、勝利がきちんとあり、
それを「落語」という会話劇で見せてくれており、
新しい要素は感じつつも、王道の面白さがしっかりとある。
やや展開が真面目すぎる部分や、トントン拍子に行く部分はあるものの、
アニメーションとして「落語」というものを盛り上げる演出がきちんとあり、
アニメ化が難しい題材でありながら、きちんとアニメとして面白い。
声優さんの演技もこの作品では重要であり、
落語という特殊な話芸をきちんと演じ上げている。
1クールではあくまで序章ではあるものの、
主人公の「復讐劇」という芯がブレないうえに、
シリアスはそこまで重く感じさせず、
展開の速さも感じさせる構成は現代的でもある。
なにより、落語を知らない視聴者にも、
落語のルールや演目を細かく説明しすぎるのではなく、
「すごさ」が伝わるように見せているのが大きい。
これはアニメ化としてかなり成功している部分だ。
これぞ新しい時代、
新しいジャンプアニメの幕開けを感じさせてくれる作品だった。
個人的な感想:2期
シンプルに2期が楽しみな作品だ。
原作はまだ続いており、
2期で完結することはないだろうが、
この1期の面白さが2期も持続することは間違いないだろう。
同時に気になるのはOPだ。
1期では「桑田佳祐」さんが主題歌を担当しており、
最初は合うのか?と思っていたが、見事にマッチしていた。
作品の持つ古典芸能の雰囲気と、
ジャンプらしい若さや勢い。
その両方をうまくつないでいるOPだった。
残念ながら話題性という意味ではそこまでではあったものの、
2期、3期、4期と積み重なるほど、より面白さも
増していきそうな作品なだけに続きが楽しみな作品だ。



