評価 ★★★☆☆(58点) 全12話
あらすじ 秩父の大学の寮に入寮した、お酒初心者である上伊那ぼたんが焼酎やワインなどさまざまなお酒に挑戦しながら、寮の先輩女子たちに酔った勢いで絡み、交流を重ねていく。 引用- Wikipedia
酔いどれの反逆者
原作はチャンピオンクロスで連載中の漫画作品。
監督は佐久間貴史、制作はソワネ。
きらら
1話の印象は、まるで「きらら系」アニメを彷彿とさせる雰囲気だ。
明るくて元気な大学1年生の主人公。
1年の浪人を経て入学した彼女は、
先輩である寮長がお酒を飲む姿に、思わず「美味しそう」と言葉をこぼす。
メインキャラクターは女性ばかりで、男性キャラクターはほとんど登場しない。
女性同士の距離感と、穏やかな日常を描く雰囲気は、
いわゆる「きらら系」に近い。
だが、きらら系と大きく違うのは、この作品のテーマが「酒」であることだ。
知り合ったばかりの先輩が飲んでいる酒を一口もらい、
飲みかけの間接キスで「初めてのお酒」を味わう。
そこには可愛らしい日常系アニメの空気と同時に、
独特の「大人のムード」が漂っている。
そして、酒が入ることで「百合」の雰囲気も自然に濃くなっていく。
主人公は酒の勢いで、ガンガンと先輩を褒め立てる。
酒と日常と百合。どこか排他的な空気すら漂う関係性と、
文学的なニュアンスを感じさせるセリフのセンスが心地よい。
文学
「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」
そんな言葉をもじったタイトルから感じさせるセンスを、
作中でもしっかりと味わえる。
お酒初心者の主人公と、お酒が大好きだが、一人飲みが基本だった先輩。
そんな二人が酒を酌み交わしながら、少しずつ互いの距離を縮めていく。
味というのは、人によって感じ方が違う。
だからこそ主人公は、寮長と同じ味を感じたいという意味で「寮長の舌が欲しい」と、下心なく口にする。
だが、その言葉の絶妙なニュアンスには、どこか艶っぽさがある。
同じ寮に住む先輩たちをさりげなく褒め、いつの間にか懐へ入り込んでいく。
酒を酌み交わし、その中で関係性が深まる。
セリフのセンスを感じさせる一方で、あえて言葉で説明せず、
アニメーションによる仕草や視線で心理を描く場面も多い。
酒だけでなく「タバコ」の描写もしっかりとあり、
それがキャラクター性にもつながっている。
一人ひとりの人物を丁寧に魅せており、1話の印象は非常に良い。
作画監督
この作品の最大の特徴といえるのが、各話ごとの作画の違いだ。
通常、TVアニメには各話の作画監督とは
別に「総作画監督」がおり、キャラクターの顔立ちや
作品全体の絵柄に統一感を持たせている。
4クール以上の長期アニメであれば、
クールや話数によってキャラクターの雰囲気が大きく変化することもある。
しかし、1クールや2クールのアニメで、
各話の絵柄がここまで変わる作品は珍しい。
この作品は、総作画監督を置かず、
各話の作画監督がそれぞれの個性を前面に出している。
1話と2話だけでも雰囲気は違い、2話では線が少なくなり、
3話になるとまるで別のアニメだ。
急に別作品が始まったのかと錯覚するほど、各話の表情が変わる。
酒が、飲む人の舌によって味わいを変えるように、
アニメも作画監督によって味わいが変わる。
そんなことを言いたげな、非常に挑戦的な手法だ。
悪く言えば、統一感がない。
酒、百合、日常というベースは変わらないものの、
「上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花」という同じ食材を、
異なる料理人が、それぞれ好きなように料理しているような印象だ。
似たような試みをした作品がないわけではない。
「迷い猫オーバーラン!」では、毎話監督が異なり、
話数によって制作会社まで変わるという大胆な作り方をしていた。
この作品の場合、監督と制作会社は変わらない。
その代わりに、作画監督の個性をあえて統一せず、毎話その違いを見せている。
アニメの制作会社や監督は注目されやすい一方で、作画監督の名前が一般の視聴者から注目されることは少ない。
その意味で本作は、作画監督という存在そのものに
光を当てようとした作品なのかもしれない。
統一性
しかし、その実験が常に成功しているとは限らない。
特に3話は、かなり癖が強い。
あえて作画を溶かすようなシーンがあり、バストアップもやたらと多い。
線も荒く、シャフト的な文字演出まで入り、強烈な個性を放っている。
人によっては「作画崩壊」と感じたのも納得できるほどだ。
3話といえば、視聴者が作品を見続けるかどうかを判断する「3話切り」のラインでもある。
そこで、あえてここまで癖の強い作画をぶつけてくる姿勢は挑戦的だ。
ただし、1話と2話が比較的受け入れられやすいテイストだっただけに、
3話の変化はあまりにも大きい。
作品の意図を理解する前に、拒否感を覚えてしまう
視聴者がいても不思議ではない。
3話で登場する酒も、アルコール度数77%の酒や、
苦すぎるビールなど、かなり特殊なものだ。
特殊な酒を扱う回だからこそ、特殊な作画をぶつける。
その意図自体は理解できる。
だが、その試みが作品として面白さにつながっているかと問われると、
素直に飲み込みがたい部分もある。
最近の原作付きアニメでは、「原作の再現性」が強く求められることが多い。
本作は、そうした流れとは真逆を行っている。
背景一つを取っても、リアルな回もあれば、謎空間のような回もある。
各話ごとに違う酒を味わうように、異なる映像表現を味わう作品だ。
その実験性は面白い。
ただし、その実験性が視聴者にとって、
必ずしも見やすさや楽しさにつながるわけではない。
百合模様
中盤になると、百合模様はより深く、複雑になっていく。
主人公と同じ寮に住む女性同士の関係性もさりげなく描かれつつ、
主人公と寮長の距離もどんどん縮まっていく。
そこに、もう一人の女性も絡んでくる。
ややドロッとした湿っぽい百合模様は素晴らしく、
作画の癖はあれど、彼女たちの感情をシンプルに楽しめる。
その一方で、新しいキャラクターが説明も少ないまま、
さらっと登場することがある。
紹介や掘り下げが十分でないため、
脈絡なくその場にいるように感じる場面もあり、
物語への入りづらさにつながっている。
中盤では「留学生」がやってきて、主人公と寮長の間に入り込む。
第三者が加わることで、二人は自らの気持ちを少しずつ明確にしていく。
作画監督による雰囲気の違いと、
キャラクターの心理の変化がうまくリンクしており、
恋心を自覚し、憂いを秘める8話などは、個人的に非常に好みの作画だった。
満開
序盤は、どこかきらら系のようだった作品が、
徐々に湿度の高い百合アニメへと変化していく。
このグラデーションを、各話の作画の違いによって表現しているようにも感じられる。
何杯も酒を飲み交わし、積み重ねた先に訪れる「飲み友達」の終わり。
だが、それは新たな関係の始まりでもある。
1話では感じられなかった湿度の高い百合模様が、終盤で一気に花開く。
ただ、二人が付き合う展開自体は良いものの、
終盤の主人公は心理的にかなり面倒くさくなっていく。
1話で見せていた、たらしのような距離の詰め方や、
明るく元気な少女らしさは薄れ、完全に湿っぽい女性になっている。
関係性が深まった結果ともいえるが、序盤の主人公とのギャップは大きい。
この辺りは好みの問題もあるものの、
1クールで物語にはある程度の区切りがついており、
個人的には割と好きな作品だった。
総評:アニメ業界に風穴を開ける?
全体的に見て、非常に興味深い作品だった。
きらら系のような日常アニメとして始まり、
ャラクターたちが酒を酌み交わすたびに、徐々に百合模様が濃くなっていく。
その物語と感情のグラデーションを、毎話異なる作画監督の起用によって
表現しようとした作品なのかもしれない。
毎話、飲む酒が違えば、人間関係も少しずつ変わる。
その「変化」を作画の雰囲気によって表現している。
きらら系のような作画かと思えば、突然シャフト的な演出が始まり、
そうかと思えば濃厚で湿度の高い百合アニメになる。
その変化は、一人のアニメオタクとして非常に面白く味わえた。
一方で、通常のアニメのように総作画監督がいて、
絵柄に統一性があった場合、この作品はどのように見えたのだろうかとも思う。
本作の試みは実験として興味深い。
だが、その実験がすべて成功しているわけではない。
特に3話の癖の強さは、個性というより悪癖に近い部分もある。
統一性をあえて捨てた作風だからこそ、賛否両論が生まれるのは当然だ。
その変化を楽しめる人もいれば、単純に見づらい、
絵が安定していないと感じる人もいるだろう。
終盤になると、キャラクターの感情もかなり面倒くさくなり、
作品全体の湿度も上がっていく。
どこかポエミーで、あえて言葉にしない感情を、]
アニメーションの演技や作画の違いによって表現しようとする制作側の意図は感じる。
ただし、その表現を面白いと感じるか、
独りよがりだと感じるかで、評価は大きく分かれる。
原作再現が強く求められる今だからこその挑戦作ではある。
アニメ業界に風穴を開けるほどの影響を残したかといえば、
そこまでには至らなかったかもしれない。
それでも、作画監督という存在をここまで意識させるアニメは珍しい。
成功と失敗を含めて、その挑戦自体に価値を感じる作品だった。
個人的な感想:癖強
アニメ放送中に話題になっており、興味深く見ていた作品だったが、
予想以上に癖が強く、予想以上にドロッとした作品だった。
コメディ作品であれば、この手の大胆な作画の変化も受け入れられやすいかもしれない。
しかし、本作はキャラクターの恋愛感情を比較的真面目に描く作品だ。
そこで毎話大きく作画を変えたからこそ、賛否両論が生まれたのも納得できる。
奇しくも「女神『異世界転生何になりたいですか』俺『勇者の肋骨で』」という作品も、
若干似たような試みを行っていた。
同じ時期に、クリエイターごとの個性を強く押し出した
アニメが二つ重なったのは面白いところだ。
個人的に「勇者の肋骨で」のほうは、クリエイターの展覧会のように感じられ、
一本のアニメ作品としては入り込みづらかった。
一方で、本作は作画の違いがありながらも、
酒と百合と日常という軸が最後まで残っている。
そのため、しっかりと一つのアニメとしての面白さを感じられた。
好みは強烈に分かれる作品ではある。
だが、この作品がどのような試みをしているのかを判断するためにも、
ぜひ3話くらいまでは見ていただきたい作品だ。



