ラブコメ

恋人未満、ヤニ友以上。「スーパーの裏でヤニ吸うふたり」レビュー

4.0
スーパーの裏でヤニ吸うふたり ラブコメ
画像引用元:©地主/SQUARE ENIX・「ヤニすう」製作委員会
スポンサーリンク
笠希々のプロフィール画像
この記事を書いた人

オタク歴25年、アニメレビュー歴13年、YouTube登録者11万人。 個人的な視点で語るアニメ批評です。

評価 ★★★★☆(65点) 全12話

TVアニメ「スーパーの裏でヤニ吸うふたり」メインPV第1弾

あらすじ 社畜街道をひた走る、くたびれ中年男性の佐々木。彼のひそやかな癒しといえば、日ごろから愛煙する煙草と、行きつけのスーパーで働く女性店員 山田さんのにこやかな接客くらい。 引用- Wikipedia

恋人未満、ヤニ友以上。

原作は月刊ビッグガンガンで連載中の漫画作品。 監督は鈴木理人、森あおい、制作は旭プロダクション。

ヤニ

2026年夏アニメは、なぜか「タバコ」というものに着目した アニメ作品が2作品もある。 コンプライアンスが厳しい現状で、タバコもまたアニメに限らず、 日本では合法なのに指摘されやすい部分でもある。 そんな令和8年に、なぜか2本もタバコというものを バカスカ吸うアニメがあるのは奇跡的とも言える。 しかも、電子タバコユーザーが増えている現状で、 2作品とも紙巻きタバコがメインだ(笑) この作品の主人公は社会人であり、日々過酷な労働をし、 上司には怒られまくりの冴えないサラリーマンだ。 ストレスを紛らわすために彼はタバコを吸い、 毎日帰り際に寄るスーパーの可愛い店員に癒される日々だ。 そんな中で喫煙所を探し、彼はスーパーの裏で ヤニを吸うパンクな女性と出会うというところから物語が始まる。

同一

このパンクな女性と、可愛い店員さんは山田という同一人物だ。 働いている時とオフの時、あまりにも見た目も声も態度も違うため、 主人公が気づくことはできない。 山田さんはそんな二面性を演じつつ、主人公との会話を楽しんでいる。 どこか気づいてほしいような、気づいてほしくないような、 そんな山田さんの「匂わせ」が可愛らしく、 鈍感な主人公との対比がうまくできている。 どこかいじらしい会話劇はほどよい空気感で描かれ、 過度にセクシーな表現やギャグもなく、 喫煙所で交わされる何気ない会話のような感覚で描かれている作品だ。 くっつくわけでもなく、くっつかないわけでもない。 肉体的にも、心の距離的にも絶妙だ。 少なくとも序盤では、主人公にも山田さんにも 明確な恋愛感情があるわけではない。 「下心」のようなものもなく、主人公の山田さんに対する思いも 可愛いなーくらいのものだ。 互いに深い間柄なわけではない。 深い間柄になろうとすらしていない。 その「距離感」だからこそ話せるものもある。 恋人なわけでも友達なわけでもない、 他人だからこその会話劇が心地よい。 そもそも、喫煙所という場所が絶妙だ。 喫煙所はタバコを吸うための場所であり、 本来ならばそこで長々と会話をする必要などない。 タバコを吸い終われば、その場を離れればいい。 しかし、二人はタバコを吸いながら会話をする。 スーパーの店員と客という立場では話せないことも、 喫煙所という場所だからこそ話せる。 お互いの社会的な立場から少しだけ離れられる場所だ。 そして、その何気ない会話が積み重なっていくことで、 タバコを吸うという目的が、 いつしか会話をするための口実へと変わっていく。 この構造が非常にうまい。

あらたなる喫煙者

そんな二人の間に入るのが「店長」だ。 山田さんが演じる田山と主人公の関係性を知り、 見守るようになっていく(笑) 他者が介入することで二人の関係性も少しずつ変化していく。 何気ない会話の積み重ねによって、 他人同士だった二人が、知り合いになる。 山田さんのちょっかいも、より「密」なものになっていく。 徐々に関係性が深まり、互いが気になりだす。 主人公は山田さんの思いには気づかない。 気づいてしまえば、この心地の良いタールまみれな日常は 終わってしまうかもしれない。 一度この心地よい関係性に、 この何気ない会話に浸ってしまったからこそ、 ニコチンのようになかなか抜け出せない。 タバコを吸いに行く。 そんな言い訳をもとに二人の関係性が構築されている。 なぜ山田さんが主人公との関わりを作ったのか、 そんなエピソードも中盤にはきちんと描かれる。 それは恋心ではなく、恩のようなものだった。 しかも、山田さん自身はその恩を受けた相手が 主人公であることに気づいていない。 かつての恩人が目の前にいることに気づかない山田さん、 田山さんが山田さんであることに気づかない主人公。 互いが互いの正体に気づかないまま、 それでも惹かれ合っていく。 そんなすれ違いが明らかになる中盤で、 この作品はより深みを増していく。 普通のラブコメであれば、二人の関係性を進展させるために イベントを起こしたり、ライバルを登場させたりする。 しかし、本作品はそうではない。 何気ない日常の積み重ねだけで、 二人の関係性を少しずつ変化させていく。 その緩やかさこそ、この作品の魅力なのだろう。

距離感

少しずつ距離感が近づいていく。 山田さんは自覚こそしていないが、恋愛感情が芽吹き、 嫉妬や心配など複雑な恋心を咲かせている。 その一方で主人公は変わらない。 この居心地の良い距離感に甘えているといってもいい。 恋愛一歩手前のあの空気感、 その空気感に二人は酔いしれている。 お客と店員という距離感から一歩進んだ関係性。 だが、その関係性がいつまでも維持されるわけでもない。 一歩ずつ、日々を重ねながら、数カ月の月日が流れていく。 決して他人ではない。 しかし、恋人や家族というわけでもない。 だが、唯一無二の特別な人になる。 面白いのは、二人が恋人になることだけを 目的として描いているわけではないところだ。 普通のラブコメならば、告白するのか、付き合うのか、 そういった関係性の進展が物語の大きな目的になる。 しかし、本作品の場合は違う。 二人が喫煙所で会話をしている、 その時間そのものがすでに一つの完成形になっている。 今の関係性が心地よいからこそ、 そこから一歩踏み出すことにためらいが生まれる。 近づきたいけれど、近づきすぎたくない。 今の関係性を変えたいけれど、壊したくはない。 この矛盾した感情こそ、 恋愛になる直前の関係性の面白さなのだろう。 さらに、本作品はアニメとしても そんな空気感を大切にしている。 会話を中心とした作品というのは、 一歩間違えれば非常に退屈なものになってしまう。 しかし、本作品では何気ないやり取りの中に、 キャラクターの表情や仕草、会話の間などを盛り込み、 二人の関係性を丁寧に見せている。 派手なアクションがあるわけでも、 劇的な事件が起こるわけでもない。 それでも二人の会話を見ていられる。 むしろ、何も起こらないことに安心感すら覚える。 この緩やかな関係性の変化、 距離感の変化がたまらない作品だった。

総評:ヤニ臭いのに甘酸っぱい

全体的に見て秀逸な作品だ。 スーパーの裏の喫煙所で男女が会話を交わす。 ただそれだけの作品とも言えるのだが、 そのシチュエーションをうまく活かしながら、 同時に主人公とヒロインが互いに気づいていないことがあるがゆえの すれ違いが物語に緊張感を生み、 徐々に距離が近づいていく感じを楽しめる。 時系列の変化は激しく、2週間くらいは会わないといったことも頻発する。 しかし、その希少性が、タバコよりも二人を、 この恋愛一歩手前の空気感により依存させている。 そもそも、タバコというものは習慣性の強いものだ。 毎日同じ時間に吸う人もいれば、 食後や仕事終わりに吸う人もいる。 本作品の二人にとって、喫煙所で会話をすることもまた、 一つの習慣になっている。 そして、その習慣がいつしか なくてはならないものへと変わっていく。 タバコを吸うために喫煙所へ行くのか、 あの人に会うために喫煙所へ行くのか。 本人たちですら、その境界線が曖昧になっている。 その曖昧さこそが、この作品の魅力だ。 くっつきそうでくっつかない。 二人はまだ恋愛感情すら十分に自覚していない。 この歯がゆい感じが見ていて非常にたまらない作品だ。 これから二人の関係がどうなるのか、 シンプルに続きが気になる作品であり、 派手な要素こそないものの、心に染み渡る作品だった。

個人的な感想:おじさん

たまたま、この作品がSNSで少し話題になっており、 男性にとって都合の良い女性ヒロインがいるような作品として、 某作品と合わせて賛否両論が巻き起こっていた。 その手の作品は、私はいわゆる「キャバクラ」的な作品だと思っている。 主人公を接待するヒロインという名のキャバ嬢だ。 だからこそ、その手の作品に忌避感を持つ人がいるのも理解はできる。 ただ、逆に女性向け作品でも、 いわゆるスパダリ作品などもそうで、 女性にとって都合の良い男性キャラが出てきて、 接待してくれるホスト的な作品もある。 漫画やアニメやゲームは空想の物語だ。 「現実ではありえない」からこそ面白い。 自分に合わないならばそれで終わりなのだが、 中には「危険性のある作品だ」と揶揄する人もいる。 そもそも、この作品は本当に男性にとって 都合の良い作品なのだろうか。 確かに、若い女性が冴えない中年男性に 積極的に話しかけてくれるという構図だけを見れば、 そう捉えることもできる。 しかし、本作品の主人公は、 山田さんに対して必要以上に踏み込まない。 彼女に対して性的な欲望を露骨に向けるわけでもなく、 立場や年齢差を利用して関係を深めようとすることもない。 むしろ、この「踏み込んでこないおじさん」という存在こそ、 山田さんにとって居心地の良い相手なのではないだろうか。 自分に性的な意欲を向けてこない。 相談に乗ってくれて、優しいアドバイスをくれる。 必要以上に干渉せず、適度な距離感を保ってくれる。 そう考えると、この作品は どちらかといえば女性向けの、 疲れたおじさんとの交流を描く作品としても成立している。 男性側から見れば、 若い女性に構ってもらえるという願望が満たされる。 一方で女性側から見れば、 下心を向けてこない、安心して接することのできる 年上の男性がいるという願望が満たされる。 つまり、男女双方の願望充足が 同時に成立している作品とも言えるのではないだろうか。 もちろん、山田さんをセクシーに見せる描写もある。 そういった男性向けのサービス精神がないわけではない。 しかし、それだけでこの作品を 単なる中年男性向けの願望充足作品として 片付けてしまうのは、少しもったいない気がする。 結局、この作品の魅力は、 男女のどちらか一方にとって都合が良いことではなく、 二人にとって居心地の良い関係性が描かれていることだ。 恋人でも友達でもない。 それでも、互いにとって特別な存在になっていく。 その微妙な距離感を楽しむ作品なのだと思う。

「スーパーの裏でヤニ吸うふたり」に似てるアニメレビュー