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「アイの歌声を聴かせて」レビュー

4.0
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評価 ★★★★☆(66点) 全108分

映画『アイの歌声を聴かせて』特報① 吉浦康裕監督オリジナル長編アニメーション

あらすじ 最後にきっと、笑顔になれる。ちょっぴりポンコツなAIとクラスメイトが織りなす、ハートフルエンターテイメント!引用- Wikipedia

土屋太鳳オンステージの果てに

この作品はサカサマのパテマ、
イヴの時間でお馴染みの監督によるオリジナルアニメ映画作品。
制作は J.C.STAFF。

シオンプロジェクト

冒頭、謎の映像から始まる。
AIが搭載されたロボットからの視点、
そんな視点を見せつつ彼女がテストとして高校に転校生として訪れる。
AIだとバレなければそのテストは成功だ。

そんな冒頭のシーンは後の重大な伏線になっている。
この作品の序盤から中盤は
そんな伏線のばら撒きだらけと言ってもいい。

「君の名は」以降、アニメ映画の背景のクォリティはとんでもなく上がった。
繊細に書き込まれた背景を映画館の大きなスクリーンで
味わうことで没入感が生まれやすくなり、
背景をいかに描き込むかというのはアニメ映画の見せ所の一つになりつつある。

この作品も類に漏れず、背景の書き込みは素晴らしい。
主人公が母と住む木造建築の家、
そんな家の柱の「木目」まで目でしっかり確認できるような
描き込み具合は素晴らしいの一言だ。

そんな描きこまれた背景の中にこの世界の発展した技術をさりげなく描写している。
当たり前のように人間をサポートするAIがおり、
朝食作りの手伝いから鍵の開け閉めまでAIが管理している。

主人公が登校のために家を出れば、ソーラーパネルが敷き詰められてる所があったり、
電柱がわりに風力発電のための柱がバランス良く建てられている。
バスに乗れば運転手は当然のようにロボットだ、
人が運転すらしていない時代。

そんな時代であることを言葉で説明せず、見せて感じさせてくれる。
今から20年、いや30年後の日本はもしかしたら
こうなってるかもしれない。

わざわざ田植えをするためのロボットが人型だったのは
やや違和感があったものの、
イヴの時間を手がけた監督らしい
SFにおける世界観の作り込みを背景の描写で見せてくれる。

シオン

主人公は普通の女の子だ。父と母は離婚し、
子供の頃から母子家庭で育っている。
少し寂しさを感じてはいるものの、
高校生の彼女は母を支え母を思い母を尊敬している。

そんな主人公が偶然、母の仕事の内容を知ってしまう。
人間のような見た目で人間のような思考をするAIを搭載したロボットの開発だ。
そんな極秘プロジェクトを偶然知ってしまい、
更には自分の学校にテストでそのロボットが転入してくる。

ロボットであると周囲にバレてしまえば途端にテストは中止され、
母の仕事を失敗に終わる。
そんな緊張感を漂わせる中でロボットである「シオン」は
転入して早々、主人公にこう問いかける。

「さとみは今幸せ?幸せにしてあげる!」

自分の名前をなぜ知っているのか、なぜ幸せか尋ねたのか。
そういった疑問は見ている側にも主人公にもありつつも、
主人公としてはそれどころではない。
明らかに人間らしくない行動を取り続ける彼女に振り回される日々だ。

シオンは彼女の幸せを願っている。それが彼女にとっては1番重要なことだ。
何が幸せなのか、AIである彼女にはわからない。
どうすれば幸せになるのか、AIである彼女にはわからない。

本当の人間ですら定義づけることのできない
「幸せ」をAIが理解することはできるのか。
この作品の壮大なテーマの一つだ。

幸せという漠然とした人の思いをAIが主人公のために理解しようとし、
行動する。
その一つが歌だ。

シオンにとって歌は楽しいことの一つだ。
それは彼女が彼女から教わったからこそであり、
彼女が好きだからこそ、彼女は歌で幸せにしようとする。

本当に驚くほど唐突に歌い出す笑。
シオンを、演じているのは土屋太鳳さんであり、
彼女の歌声は素晴らしく、
AIだからこそとも言えるどこか拙さを感じる声の演技も違和感がない。

だが、あまりにも唐突に歌う。
「今歌うの?!」と思うよなところでいきなり歌い出す。
この手の要素だとディズニー映画を想像して貰えば分かりやすいが、
ディズニーの2倍くらい歌っている。

曲調もディズニーっぽいものが多く、序盤はそんないきなり歌い出すシオンの
唐突さや曲調のありきたりさに怪訝な顔をしてしまうのだが、
それはシオン以外の登場人物たちにとっても同じだ。
そしてディズニーっぽいのも伏線の一つだ。

明らかに普通の人間ではない。
緊急停止してお腹からパーツが飛び出す人間はいない笑。
母のためになんとか隠そうとはするものの、
幼馴染の男の子とクラスメイトの3人にシオンの正体がバレてしまう。

青春

どうすればさとみを幸せにできるのか。
シオンにとっては、それが全てだ。
幸せとは何か、彼女の正体を知った4人と主人公は
彼女の唐突すぎる行動に振り回されつつ、
自身が抱える悩みと向き合っていく。

あるものは彼氏との関係に悩み、あるものは自分自身に悩み、
あるものは本番の弱さに悩み、あるものは幼馴染との関係に悩んでいる。

幸せとは何かと模索するシオンの行動に振り回されつつ
5人のメインキャラたちはその行動に背中を押される。
歌いまくりながら笑。

歌はこの作品のテーマの一つであるため仕方ない部分はあるが、
流石に歌いすぎだろと思うほど歌いまくりであり、本当に唐突に歌いだす。
日常の中で唐突に歌い出すため、
必ずしも歌うシーンが印象的なシーンにはなっておらず、
ここぞというときのための歌ならば飲み込めるが、
ここぞというときでもないのに歌うのはかなり好みが分かれる要素だ。

彼女に影響されメインキャラが歌い出した時は
心の中で
「お前も歌うんかい!」と思わず突っ込んでしまった。

序盤から中盤までのこのストーリーは下手な部分もあり、
青春模様は悪くないものの「面白さ」にピンと来ない。
しかし、見終わったあとだから言える。
この序盤から中盤までは伏線をばら撒くためのものだ。

AIの可能性
主人公の母は人間のようなAIを作ろうとした。
人間のように思考し、人間のようにはなし、人間のように行動する。
その果てには何があるのだろうか?
進歩したAIと人間、その違いはどこにあるんだろうか。

同じ監督作の「イヴの時間」でも似たようなことが描かれていた。
高度に発展した技術によって作られた肉体とAIで構成された
アンドロイドと人との違いはなんなのか。

イヴの時間ほどまだ発展してないこの作品の世界で、
イヴの時間に繋がるストーリーを描いてるといってもいい。
この作品はAIの可能性を描いている。

幸せ

シオンは学んだ。メインキャラと話し、彼らと行動を共にし、
彼が泣き喜び幸せを噛み締める様子、
そして自分に投げ掛けてれる言葉や態度を見て彼女自身が学んだ。
幸せとはなんなのか。

それを言葉にはしない。学んだからこそ、
最大限、彼女のできることの全てを持って
主人公であるサトミを幸せにしようとする。

それが彼女にとっての生きがいだ、彼女に与えられた1番最初の命令。
それはあまりにも優しく、無垢で、淡い少年の命令だ。
美咲の幼馴染は天才的なプログラミング能力を持っている。
そんな彼が幼いころ、主人公を思い作り上げたAI,

それシオンの正体だ。
それを主人公はおろか幼馴染も彼女を作ったはずの
主人公の母も気づいていない。
消したはずのデータ、もうないはずのデータが
長い時間を得て主人公の前に帰ってきている。

だからこそ、彼女は知るはずのない主人公の名前を知っていた。
だからこそ、彼女は幼い頃に主人公が好きだったディズニー映画のような作品を真似して歌った。
だからこそ、彼女は主人公の幸せをずっとずっと願っていた。

AIは人の命令に従う存在だ。
最初は確かに幼地味の命令だったかもしれない。
だが、彼女はいつのころか「進化」した。

高度に発展した技術で作られ、
ありとあらゆるものがインターネットに繋がってる世界だからこそ、
「AI」は自身を進化させることができた。

8年越しの彼女の想いとAIの自己進化。
前半ではあまり感じなかった監督の世界観が
一気に後半で花開く。
AIの可能性、進化、そして自我の獲得。

そんなシオンだからこそ、5人のメインキャラと
人と同じように接し彼らの幸せの背中を押したからこそ、
彼らもシオンをロボットや実験道具には思わない。
人のように接し、人のように彼女に恋するものまで現れる

高度に発展したAIと人との違いはなんなのか。
吉浦康裕監督が手掛けたイブの時間で描かれていた問題に
繋がるかのようにこの作品はAIの自我の獲得を描いている

人の思いがAIを進化させ、AIの思いがAI自身を進化させる。
だからこそ主人公であるサトミは最後にシオンにこう問いかける

「シオンは幸せ?」

Aiが人の幸せを願い、人がAIの幸せを願う。
シオンの歌声はいつだって鳴り響く。
AI自身が幸せを噛みしめる瞬間に涙がこぼれ落ちてしまった

総評:これが吉浦康裕監督の世界観だ!

全体的に見て前半はある程度、予想しやすい物語であり
土屋太鳳オンステージといわんばかりのディズニー映画のように
歌いまくりな部分が人によってはかなり気になるところではある。

しかし後半から彼女がなぜディズニー映画のように歌うのか、
彼女がどうして主人公の幸せを願っているのか。
それが明らかになることで前半で感じていた違和感がきれいに消え去り、
吉浦康裕監督らしい「AIの可能性」を描いた作品として
綺麗にまとまっている作品だ。

前半で描かれているメインキャラたちの青春模様も
ベタな感じではあるもののそこにAIが絡むことによる
この作品らしいストーリーを生んでおり、
キャラクターの掘り下げもうまく、終盤のシオンの救出劇での
彼らの活躍は前半で彼らをきちんと描いたからこそだ。

序盤では面白さを感じにくいかもしれない。
だが見終わったあとには「いい作品を見終わった」という
満足感を感じられる作品だ

個人的な感想:サンダー

個人的にサンダーこと杉山が良いキャラクターだった。
コメディリリーフ的な立ち位置のキャラではあるものの、
彼の存在がいい具合にシリアスな空気の中でも明るい雰囲気を生んでおり、
彼が勝った瞬間、恋する瞬間、そしてある種失恋という
オチまで良いキャラクターだった。

見ている間、序盤から中盤はうーんと首を傾げていたが、
中盤から本当に吉浦康裕監督らしくなり、
シオンの過去のエピソードのあたりから涙腺が崩壊していた笑
まんまとストーリーの仕掛けにやられたような印象を受ける作品だった。

吉浦康裕監督の次回作にも期待したい。

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  1. 匿名 より:

    キャラクター原案の紀伊カンナ先生が好きなため観に行ったのですが、大変楽しめた作品でした。
    序盤はいきなり歌い出したりすることで、現代の高校生のリサーチ不足過ぎないか???とは思ったりしたけど、それが終盤でしっかりと回収されて意味のあるものになったのはとても良かった。
    また、AIが人の仕事(運転手や、田植えロボ)を担っているのに関しては、別に人型等にしなくてもいいのでは?とは思いましたね。特に田植えに関しては、あそこまで高度に発達したAI技術があるのなら、自動運転での農業用機械を使う方がいい気はしますし。
    個人的に終盤にビルが7色にライトアップするのがツボでした。脳裏にゲーミングビルという単語がポップアップして思わず笑ってしまいそうになりましたね。