ファンタジー

致命的な外連味不足と非原作改変「片田舎のおっさん、剣聖になる」レビュー

3.0
片田舎のおっさん、剣聖になる ファンタジー
画像引用元:©佐賀崎しげる・鍋島テツヒロ/SQUARE ENIX・「片田舎のおっさん、剣聖になる」製作委員会
スポンサーリンク

評価 ★★★☆☆(40点) 全12話

TVアニメ「片田舎のおっさん、剣聖になる」第1弾PV

あらすじ 片田舎の道場で剣術の師範を務めているベリル・ガーデナントのもとに、首都で王国騎士団の団長となったかつての教え子であるアリューシア・シトラスが来訪し、ベリルが騎士団の特別指南役に指名されたことを伝える。。 引用- Wikipedia

致命的な外連味不足と非原作改変

原作は小説家になろうで連載している作品。
監督は鹿住朗生 、制作はパッショーネ、ハヤブサフィルム

田舎の師範

1話冒頭から一人語りが多い。
主人公は片田舎の道場の子どもとして生まれ、
子供の頃から剣術を学び、そんな両親のあとをついで道場の師範になっている。
多くの弟子を育ててきた彼、そんな彼のもとにかつての弟子が現れる
というところから物語が始まる。

1話から気合が入っていることを感じられる作品だ。
主人公を演じているのは平田正明さんであり「おじさん」声で定評のある方だ。
メインヒロインには東山奈央さんや上田瞳さんが起用されている。
更にOPは西川貴教、EDはFLOWと
お金をかけていることを感じさせる部分だ。

主人公の弟子は王国の騎士団長になっており、
そんな騎士団長の推薦で騎士団の剣術指南役に唐突に任命される。
主人公は自分の実力を下に見ており、中年になっているせいも合って
若い実力のあるものには勝てないと思い込んでいる。

いわゆる「無自覚系」だ。
弟子である騎士団長は堂々と騎士団に「私より強い!」と宣言するものの、
騎士団員は信じることはできない。
次から次に「若くて可愛い」弟子がでてきて「先生先生!」と慕ってくる。

主人公が教えた期間はわずか数年ではあるものの、
弟子は尽く出世しており、しかも、恋愛感情まで抱いてるものもいる。
主人公は45歳、弟子たちは明らかに20代だ。
この年齢差は地味に見ていてきついものがある。

技術

1話の終盤でようやく戦闘シーンが描かれる。
主人公には向かう騎士団員と主人公が戦うのだが、地味だ。
丁寧に剣術というものを描いているのは分かるのだが、
地味であるがゆえに主人公の凄さがわかりにくい。

ところどころスロー演出を入れながら、
滑らかな動きを出すためにCGも多用している。
リアルで丁寧な剣術描写というのをやりたいのは分かるが、
それは同時にアニメらしさや外連味というものが薄まってしまう。

試しにコミカライズの1話を見てみるとアニメの1話では
端折られていることが分かる。
もっとコミカライズでは「主人公の凄さ」が視覚的に
視聴者にも伝わるようなシーンが多いのだが、
それをアニメではカットしてしまっているせいで伝わりづらい。

コミカライズの1話ではなまくらの剣で試し切りをし、
巻き藁を真っ二つにしたかとおもえば、真っ二つにした部分が乗っかっている。
シンプルではあるものの、主人公の強さがわかりやすい。

アニメで描かれた騎士団員との戦闘も、コミカライズでは
彼の「技」をあっさり避けて一本取る主人公の凄さを、
周囲の目線、周りのキャラのモノローグでもきちんと描いている。
そういった周囲の描写を尽く排除し、更に細かいシーンをカットしている。
話の展開自体は早くなるかもしれないが、肝心の主人公の強さがわかりにくい。

アニメの2話になるとヒロインの過去回想が入るのだが、
ダラダラとしており、面白みにかけてしまう。
話の展開を早くしたいのかしたくないのか、
いまいちわからないストーリー構成だ。

話が進むほどに美少女な弟子がポンポンでてくるものの、
掘り下げも甘く、でた意味はあったのか?みたいなキャラも多い。

魔法と魔物

ファンタジーの世界であるがゆえに魔法使いもいる。
主人公の弟子の一人が所属する魔法師団、
そんな魔法師団の団長が喧嘩をふっかけてくるものの、
相手が最後の魔法で手を止めてくれる。
どれくらい主人公が強いのかというのが本当にわかりにくい。

主人公が特に何もしないのに弟子が次々と現れ、
彼の評判が上がっていき、色々なイベントが起こる。
ときおり弟子たちの過去回想が描かれ、
主人公の強さを表すための戦闘シーンが描かれる。
基本的に序盤からこの繰り返しだ。やってることが変わらない。

3話では弟子の一人とも戦うのだが、
アップと止め絵とスローの多様ばかりで
まったくもって面白みにかける戦闘シーンだ。
特に酷いのは4話だ、ネームドモンスターという強いやつに
遭遇してしまい、戦う。

グリフォンは「炎」をはき、飛び回り、巨大な個体で尻尾を振り回してくる。
ここでも要所要所でスローとアップを多用したかとおもえば、
グリフォンの背中に掴まり、グリフォンが飛び回ったかと思えば元の場所に戻る。
一体何の意味があるのか意味不明な旋回シーンだ。

飛べるというアドバンテージがあるのに地上にわざわざ降り立ち、
地上を溶岩のようなものに変える魔法を使う。岩すら溶かすようなものだ。
そんな溶岩フィールドを平気で主人公は革靴用なもので走り回る(苦笑)
熱がる様子すらなく、グリフォンも驚愕だろう。

この4話の戦闘シーンに関しては何がしたいんだろうと
本気で感じてしまうほど意味不明な演出と戦闘の流れになっている。

版権

この作品はやや珍しく、原作はスクウェア・エニックス からでており、
そんな原作のコミカライズがどこでもヤングチャンピオン、秋田書店からでている。
これはやや異例なことだ。
ちなみにアニメの製作委員会にコミカライズの出版社である
「秋田書店」は絡んでいない。

これがこの作品の最大の問題点だろう。
シリーズ累計で700万部も売れている作品ではあるが、
そのうち600万部はコミカライズの売上だ。
そんなコミカライズではなく、この作品は原作小説に準拠している。

コミカライズは原作を膨らませ、オリジナルシーンも入れている。
そんなコミカライズをアニメは版権の関係上、参考にできない。
アニメの企画が上がった段階ではコミカライズも1巻程度しかでていない時期であり、
原作小説準拠にならざるえない部分もあったのだろう。

なろう系アニメの多くはコミカライズ準拠で話が作られていることも多く、
最近のアニメ、漫画原作のものは「原作の構図」まで
そのままアニメに持ってきてることも多い。

ラノベや小説原作の場合、文字という表現から絵という表現に変え、
更に絵を動かさないといけない。絵を考え、動きを考えという
作業が必要になるが、コミカライズを準拠にすれば
アニメ制作においての工程が円滑になる部分だ。

漫画で描かれた構図や姿を基本にアニメーションを作る、
その手段をこの作品では使いづらくなってしまっている。
しかも、コミカライズでは膨らまして描かれていた人物描写や
主人公以外の視点での部分、コミカライズオリジナルの部分は使いにくい。
だからこそ変なことになってしまっているのだろう。

コミカライズが膨らましすぎているとも言えるが、
アニメの6話くらいでコミカライズの6巻まで進んでおり、
コミカライズを追い越す勢いでアニメはやっている。

あっさり

6話になると主人公に傷をつけるほどの強敵が現れる。
そんな強敵との戦闘シーンも盛り上がらない。
要所要所のCGがかなり目立ち、素早いシーンの中でスローを入れて、
結局あっさりと戦闘が終わる。
本来なら盛り上がりそうなシーンなのに盛り上がりきらない。

版権問題で色々とコミカライズと違う部分があるのは仕方ないが、
戦闘シーンに関しては別だ。圧倒的に外連味が足りていない。
これは意図的なのかもしれないが、リアルにしようとしているのは分かるが、
リアルにしようとしてるのに溶岩のような地面を平気で歩いたりする
矛盾が生まれている。

プロデューサーによれば「キャラクターの個性やドラマの面白さを 掘り下げるために小説をベースにしたのも理由の一つです」
とあるが、キャラの個性やドラマの面白さは一切感じない。
サクサクとしたテンポなのは良いが、テンポが良すぎて深みがない。

中盤になると孤児の少女を引き取ったりもするのだが、
だらだと家にいるネズミを追いかけ回したりする。
剣聖と呼ばれるほど反射神経が良いはずなのに、
家にいるネズミすらろくに捕まえられない。

8話の模擬戦など一部、見ごたえのあるシーンもあるのだが、
どうにもあっさりサクサクしてしまっており、
時折変な展開もあるのが引っかかりを生んでいる。

弟子

終盤になるとまた弟子がでてくる。
主人公たちがいる王国騎士団ではなく、隣国の教会騎士団の騎士だ。
両国の王族が首都を回る、そのための護衛だ。
当然、襲撃者なども現れる。

この終盤の戦闘シーンはかなり激しく、外連味を感じる部分はあるものの、
最終話の弟子との戦闘シーンは「スロー」の多用が目立ちまくる。
最終話では主人公は王にも認められ「剣聖」となる。
この流れ、1クールの締りとしてのテンポ感なのはわかり、
話としての締りは悪くない。

2期も決まっており、来年放送ということを考えると
いわゆる分割2クールなのはわかるのだが、
2クール目から外連味不足がどうなるのか気になるところだ。

総評:コミカライズと同じにできなかった結果

全体的に見て、この作品の感想や評判を調べると
コミカライズとの違いを嘆いている方も多いのだが、
それを如実に感じてしまう出来栄えになっている。
おそらくコミカライズ版がなければそこまで気にならない部分もあるが、
少し作画のクォリティが高いなろう作品になってしまっている。

自分の力に無自覚な主人公が弟子に祭り上げられ、
どんどん出世していき、最後には剣聖になる。
その中で孤児の少女との日常や騎士団長との恋愛要素を描きたいのはわかるが、
肝心の戦闘シーンの盛り上がりが薄い。

CGを多用し、スローを多用しながら「剣術」というものを描きたいのは分かる。
14〜15世紀の西洋剣術について専門家が監修しているようで、
だからこそ剣術描写としては「リアル」なのだろう。
しかし、アニメはリアルだから面白くなるわけではない。

「外連味」こそアニメでは重要だ。
これが実写映画ならリアルさを求められるのだが、
アニメには多くの嘘という名のファンタジーが詰まっている。
本来ならできない動き、あり得ない動き、
はったりという名の嘘を織り交ぜた動きこそ「外連味」だ

その外連味を排除しているせいでどうにも戦闘シーンにハマれず、
人同士の戦いはともかく、リアルな演出のなかでファンタジーな魔物と
戦闘させてしまうと素っ頓狂なシーンに仕上がってしまっていたりもする。

やりたいことはわかるが、それが効果的に
アニメという媒体で作用しきれておらず、
ぱっとしない感じで終わってしまっていた。

コミカライズの評判も異様に高いのだが、
そこを版権問題と時期の問題で参考にしづらかったというのは
アニメ制作側としては頭を抱えたかもしれない。

2期では同じようにリアルに行くのか、
それとも方針転換するのか…色々と気になるところだ。

個人的な感想:コミカライズと原作

コミカライズと原作小説でここまで売上に差があるのは衝撃的だ。
だからこそ余計に多くの人にとってコミカライズこそ原作のような感覚で、
アニメは原作改変のように感じてしまう、不思議な作品だ。

これで出版社が同じなら問題ないが、
出版社が違うというのもなんともややこしいところだ。
原作の出版元であるスクエア・エニックス自体は
スピンオフ漫画をアニメに合わせるように連載開始している(苦笑)

逃した魚は大きいじゃないが、
スクエア・エニックスとしては相当悔しいところなのは分かるが、
なぜコミカライズが受けたのかというのを
理解しきれていないような気もする。

非常にややこしい状況で作品が作られた結果の方向性なのは分かるが、
マグマみたいな地面の上を普通の靴で動き回る
主人公だけは飲み込みきれなかった作品だった。

「片田舎のおっさん、剣聖になる」に似てるアニメレビュー

「片田舎のおっさん、剣聖になる」は面白い?つまらない?