映画

「金の国 水の国」レビュー

映画
スポンサーリンク

評価 ★★★★☆(70点) 全117分

映画『金の国 水の国』本予告 2023年1月27日(金)公開

あらすじ 昔から仲が悪く、頻繁にいがみ合っていた、隣接する2つの国「A国」と「B国」の物語。引用- Wikipedia

最高の映画だけど最悪な宣伝

原作は漫画な本作品。
監督は渡邉こと乃、制作はマッドハウス。

おとぎ話

昔々あるところに。そんな冒頭から始まる作品を
私たちは子供の頃から何度も何度も読み聞かされている。
そんな子供の頃に読んだ絵本の1ページ目をめくるかのように
冒頭は丁寧な「世界観」の説明過去の作品は始まる。

昔々あるところに、100年も1000年も昔の国の成り立ち。
アルハミドという国は砂に囲まれており、
ヴァイカリは水資源に溢れた国であり、
本来ならば両国は戦争などする理由もなく、ただただ、
なんとなく仲が悪い隣国同士だ。

そういう本来ならば壮大な歴史ファンタジーが始まり、
子供ならば「難しそう」と感じるような話を、
この作品はどこか子供に語りかけるような語り口で、
優しく丁寧に説明してくれる。

戦争の理由、仲が悪い理由になにか明確なものがあるわけではない。
隣国というだけでなぜか仲が悪い状況で、
隣国の犬のうんちが落ちていたり、猫がおしっこしたせいで戦争が始まる。
大人ならば思わず「そんな理由で?」と突っ込みたくなるが、
戦争がそんな些細なことで起こることで子供にもわかりやすく、
大人はギャグとしてそれを受け止めることができる。

そんな世界観の説明をしたあとに
二人の主人公が描かれる。

サーラ

彼女はおっとりとしたお姫様だ。
ただ世間一般が想像するような「美少女」ではなく、
ややぽっちゃりとした見た目をしている。
お姫様としての地位も低く、国王の妾の娘である彼女は
「政略結婚」の道具くらいにしかならない。

彼女は彼女なりに生きている。
自分の見た目が姉たちとは違って美しくないこともわかっている、
自分の立場が姉たちよりも低いことはわかっている。
散々聴く陰口や姉との関係性の悪さはありつつも、
それを卑下せず、変わらぬ毎日を幸せに生きている。

だが、そんな彼女が隣国との政略結婚の道具にされてしまう。
長い戦争状態が続いていた隣国、そんな隣国とかわされた古い契約。
彼女の国は国一の美女を相手国に送り、
相手国は国一の頭脳の持ち主を彼女の国に送る。
そうすることで形だけの「和平」を太古の昔の王が保とうした。

そんな彼女に隣国の男がやってくる。しかし、蓋を開けてびっくり。
送られてきたのはただの「雄犬」だ(笑)

ナランバヤル

もう一人の主人公である彼は隣国の建築士だ。
決して美少年というわけでもなく、仕事もない。
そんな中で政略結婚の道具にされてしまう。

「サーラ」と同じような立場の彼のもとには
サーラの国から「雌猫」が送られてくる(笑)
隣国同士敵対しているはずなのに、その敵対心故か
同じようなことをしてしまっている。

一方は犬と、一方は猫と。
こんなギャグのような状況を序盤は明るく描いている。
だが、国同士の状況はかなりシリアスだ。

一歩間違えば戦争が起こる。一歩間違えば自国の民の命が犠牲になる。
それゆえに彼女たちは相手国から結婚相手として
「動物」が送られたことがバレてはいけない。
バレてしまえば即刻戦争になりかねない。

コメディタッチで描かれてはいるものの、
一歩間違えばシリアスな状況になってしまえかねない
綱渡りの状況が物語に緊張感を生んでいるものの、
登場人物たちのおっとりした感じや作品全体にあふれる
「優しい空気感」に癒やされる。

そんな二人は国境の壁を通り超えて偶然であってしまう。
姉たちに結婚相手が犬だとバレてはいけないサーラは
彼に「結婚相手」と嘘をついてもらおうとする。

「ナランバヤル」は頭のいい青年だ。
そんな彼女の事情を即座に理解し、飄々とした態度でありながらも、
この状況がバレてしまえば戦争になることは重々承知だ。

同時に彼は国を憂いている。
彼の国には水がある、だが、水以外のものがない。
水や自然にあふれてはいるものの、物資は隣国に道を塞がれ、仕事もろくにない。
限られた食料と限られた資源でなんとか暮らしているだけだ。
自国民の兵士は疲弊し、戦争になれば負けることは確実だ。

だからこそ、彼は頭を回転させる。
誰も犠牲にならず、この状況を平和に解決するにはどうすればいいのか。
決して彼はイケメンではない、だが、そんな見た目よりも
「中身」の魅力が彼の中にはある。

隣国同士の仲の悪さは市民たちの間にも根付いている。
隣国の民であるというだけで差別されるような根深い問題だ。
だが、彼はそんなことを一切気にしない。
自分への侮辱の言葉よりも、目の前の誰かを、自分の国の民を、
「未来の命」を守るために彼は行動している。

そんな彼に彼女は少しずつひかれていく。
嘘で塗り固められた関係性、一歩間違えば戦争になる。
そんな状況にもかかわらず二人の建築士とお姫様は自国のために行動しつつも、
互いに惹かれていく。
この恋愛描写の丁寧な積み重ねはどこか少女漫画っぽさすら感じるものがある。

ポリコレ

だが、決して美男美女でないのがこの作品の良いところだ。
昨今はディズニー作品を筆頭に「ポリコレ」を意識した作品も多い。
主人公が美男美女でない作品も当たり前のように増えてきている。

そういった意味ではこの作品も「ポリコレ」だ。しかし、嫌味さがない。
自分たちが美男美女でないことは彼らも自覚している。
特に「サーラ」に投げかけられる言葉は痛いほどだ。

中盤で「ナランバヤル」の国に赴いた彼女は
「ナランバヤル」の花嫁に成り変わる。
本来は「国一の美女」が彼の国には送られているはずだ。
だが、決して彼女はそうではない。

彼女が群衆の視線にさらされる姿は辛いものがある。
見た目に対する批判の小さな声は彼女の心に深く深く突き刺さる。
しかし、それでも彼女は折れない。
自分自身の見た目に対する批判を飲み込み、時に背中を押され、
「ナランバヤル」のために花嫁に成り変わる姿は胸を締め付けられるほどだ。

彼女は「ナランバヤル」のもとに「猫」が
送られていることも気づいていない。
気づいていないのに「ナランバヤル」のために、
美人な花嫁の代わりに美人の花嫁に成り代わっている。愛だ。
彼女の深い深い愛情、自分が傷ついても愛する人を守りたいという思いは
彼女の「人間」としての深い魅力を感じさせるものになっている。

「ナランバヤル」は「ナランバヤル」で互いの国のために
「水路」を作ろうとしている。50年もかかる壮大な計画だ。
たが、互いにとってそれが1番「血を流さない」解決法だ。
些細な理由で始まった戦争を続ける理由はもうない。
そんな壮大な仕事を彼はしている。

そんな彼のために「サーラ」という女性は自分が傷つくこともいとわない。
それを彼には決して吐露しない。
彼のために、国のために、そして自分のために。

彼女はいつだって「難しい方」を選んできた。
簡単な道に逃げることは簡単だ。だが、それが結果的に良い方向につながることは少ない。
困難な道を彼女は一人で生き抜いてきた。
そんな彼女の「自己犠牲」が彼女の魅力にもつながっている。

しかし、そんな二人を引き裂こうとするものもいる。
長年戦争をしていたという事実が政治的にもプライド的にも
互いに引くに引けない状況を生んでいる。

一方は水はあるが金はない、金がなければものが買えない。
一方は金はあるが水はない、水がなければ生きていけない。
手っ取り早く欲しい物を手に入れるためには「戦争」という手段は
効率的と言えるかもしれない。

だからこそ「国王」は自分自身の名を残すためにも戦争を仕掛けようとしている。
そんな状況だからこそ「暗殺」という手段もやりかねない状況だ。

序盤から中盤まで丁寧に世界観と情勢、二人の主人公を描写しつつ、
そんな二人の主人公の考えに賛同してくれるキャラクターを出しつつ、
敵となる「王」や「右大臣」を出しながら物語を丁寧に紡いでいる。

児童文学

どこか絵本を読んでいるような感覚だ。
はっきりといってしまえば、この作品は「流行りのアニメ映画」ではない。
おそらく興行収入もそこまでは伸びないだろう。
しかし、それがこの作品の魅力でもある。

昨今のアニメ映画はどれもこれも「君の名は」の影響で
美麗かつ繊細に描きこまれたリアルな背景を売りにしているが、
この作品はもちろん丁寧に描かれてはいるのだが、
繊細に描きこまれたリアルな背景ではない。

あくまでもファンタジー、空想の世界の街並みを幻想的に描いている。
アニメーション的な魅力はやや薄いものの、
最近のアニメ映画にはない、どこか懐かしい魅力がある。

「戦争」という重苦しい題材が描かれたはいるものの、
この作品で誰かが死ぬということはない。
終盤で二人は暗殺されかけるものの、二人は死なず、
他の誰かが死んで終わることもない。

誰かの死はまた別の誰かの死につながる。
誰かが死んでしまえば「憎しみの連鎖」は止まらない。
戦争が始まってしまえばそんな連鎖反応はいつまでも続いていく。
それを二人がよくわかっており、二人の理解者たちもよくわかっている。

だからこそ「守る」ために戦いはすれど殺しはしない。
守りながら、一歩間違えば命を落としかねない状況で
建築士とお姫様が難しい道を選び、掴み取るラストは
胸に染み渡るものがある。

本来は政治にかかわることもない立場にいる建築士とお姫様、
そんな二人がつかんだ「少し未来」の描写でラストが締めくくられ、
「いい映画をみたな」という余韻が強く残る作品だった。

総評:名作を台無しにする最悪の宣伝文句

全体的にみてすごくストレートな作品だ。
かつて戦争をしていた2国を舞台に、
二人の建築士とお姫様が恋に落ち幸せな未来をつかむ話。
シンプルに言ってしまえばそんなストーリーであり、
まるで絵本や童話のお話を見ているかのような気分になる。

そういってしまうと子供向けに聞こえてしまうかもしれないが、
この作品は大人も子供も安心してみることのできる映画だ。
「戦争」というテーマを扱いつつ、その主軸にいるのは
権力持たない建築士とお姫様、そんな二人だからこその手段で、
難しい未来を勝ち取る。

その過程が丁寧に描かれており、その中で二人の仲が徐々に近づいていき、
二人が「恋に落ちる」過程も思わずニヤニヤしてしまう。
どこか古典的ともいえる展開であり、少女漫画っぽさもあるものの、
この「ベタさ」がこの作品の魅力だ。

ご都合主義感がないといえば嘘になる。
特にラストはいろいろなことがうまく生きすぎている感はあるものの、
この作品にそれを言うのは「桃から人間が生まれるなんておかしい」と
言ってるようなものだ。

リアリティという意味では薄い部分があるものの、
この作品は創作物における「ご都合主義」をファンタジーに落とし込み、
二人の主人公の魅力を掘り下げつつ、
最後には思わず「めでたしめでたし」と心のなかで言ってしまえるような
平和な作品に仕上がっている。

二人の主人公が美男美女ではないのものこの作品の魅力だ。
外見的なかっこよさやかわいさはアニメという媒体では描きやすい。
だが、そこに頼らず「内面の魅力」を描くのは難しい。
この作品はそんな外見に頼らない内面の魅力を感じる二人の主人公に
みている側が愛着を持ち、二人の物語と結末を幸せな気分で味わえる作品だ。

決して流行りの感じの作品ではなく、尖った要素はない。
だが、それがこの作品の良さであり、
久しぶりにこういう作品を味わったなとひしひしと感じられる作品だった。

ただ、内容はいいのに宣伝が最悪だ。
この作品は別に号泣するような作品ではない、
じんわりと心が暖かくなり、涙腺を少し刺激されはするが
「泣く」ような作品ではない。

そんな映画のキャッチーコピーが
「この冬一番温かい<最高純度のやさしさ>に、
2023年、あなたはきっと初泣きする」だ(苦笑)
公式側も無駄に泣き要素を宣伝文句と使ってる部分があり、
内容はいいのにこの宣伝文句の気持ち悪さが最悪の作品だった。

個人的な感想:ライララ

サブキャラクターもいい味をしており、犬と猫のちょっとした行動や、
敵だった兵士、そして「ライララ」の存在感は凄まじい(笑)
彼女の素顔を見れなかったのは残念なところではあるものの、
素顔が見れないからこそ彼女の魅力があると言えるかもしれない。

大人も子供も、親子で、家族で、カップルで、一人で見ても楽しめる。
「いい映画を見た」という余韻を味わうための映画と
いえるかもしれない。

「金の国 水の国」は面白い?つまらない?

この作品をどう思いましたか?あなたのご感想をお聞かせください