これは感動ポルノではない、素晴らしい青春映画だ「聲の形」レビュー

評価★★★★★(99点)全129分

あらすじ 小学6年生の石田将也の通うクラスにある日、先天性の聴覚障害を持つ少女・西宮硝子が転校してくる。最初は好意的に接していたクラスメイト達だったが、次第にお互いの波長が合わなくなっていく。引用 – Wikipedia


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これは感動ポルノではない、素晴らしい青春映画だ

原作は別冊マガジンで掲載された漫画作品。
監督は山田尚子、制作は京都アニメーション。

見出して感じるのは京都アニメーションらしさを感じない部分だろう。
主人公のキャラクターデザインもしっかりとした頭身で、
背景の美しさに目が行くことの多い京都アニメーションにしては普通だ。
しかし、そんなあまり惹き込まれないなと思ったと同時にOPが流れる。

THE WHOだ。
アニメ映画といえば声優が歌ったり、タイアップでアイドルが歌ったりと、
「お金の匂い」がする歌手が歌うことが多いが、
この作品におけるOPはタイアップもくそもない洋楽で、しかもザ・フー。

ザ・フーを知らなくとも「MY GENERATION」というこの曲は
どこかで聞いたことの有る耳覚えの有る曲に違いなく、
一切聞いたことが無い人でもタイアップや声優が歌っているわけじゃないと分かる。
あえてOPにザ・フーが流れることで不思議な期待感を感じさせる。

そして本編。
この作品は「障害者」の女の子が主軸になっている。
彼女は先天性の聴覚障害を持っており、そんな彼女が主人公の学校に転校してくる。
彼女の最初の「挨拶」と「コミュニケーション」と「発声」の仕方は
聴覚障害だからこそのものだ。

漫画という媒体で表現される以上にアニメーションでは「声」での表現がある。
聴覚障害だからこその独特な「会話」や「声」は見ている側に深く、
聴覚障害というものの重みを感じさせ、
同時に本当に自然な流れで「いじめ」につながっていくストーリーの重さに、
自然すぎる流れだからこその残酷さを感じさせる。

彼女が女の子だからこその「女の子同士のグループ分け」や
女の子同士だからこその陰湿ないじめ、
男子の同年代の女子に対する態度、全てが生々しい。
生々しすぎると感じるほどだ。

この作品は創作物だ、実際にあったドキュメンタリーではない。
そこまで生々しく描かなくても良いんじゃないかと思わず感じてしまう、
それほどまでに障害者に対する差別意識といじめの描写が重く現実的だ。
いじめが行われる教室の「空気感」まで肌で感じるようなピリピリとした
緊張感が常に漂っている。

いじめに対する大人、教師の対応も最悪だ。
「校長」が出てきて初めて対応する担任、一人を吊るし上げるような行為と
悪い方向へ悪い方向と物語が進んでいく、だからこそ話に引き込まれる。
この物語はどうなるのだろうか、キャラクターたちはどうなっていくのだろうか。

キャラクターの表情が生々しいからこそ余計にいじめが、
キャラクターたちの「感情」がセリフがなくとも伝わってくる、
細かい感情の機微を細かい表情の変化で繊細に描いており、
「京都アニメーション」という製作会社だからこその表情の描写が生きている。

そんなリアルないじめのある小学生時代が描かれた後に、
一気に高校生まで物語の時間がすぎる。
もう彼らは子供ではない、大人になりかけるまで成長した彼らが
彼女にどう接するのかというストーリーに変わっていく。

ここまでのストーリーがたったの30分だ、アニメなら1話分くらいでしかない。
正直に私が思ったことを言おう、濃すぎる(笑)
生々しすぎるいじめの描写とキャラクターの関係性がしっかりと描かれた後に、
キャラクターが成長し再開する。

やってることは確かに少ないのだが描かれている内容の濃さに思わず、
一時停止し、ため息を付いてしまうほどだ。
たった30分でコレだ、あと2時間もあると私は思わず笑ってしまった。
だが、その直後に泣かされる。

これは男子だからこその感情だろう、母親に対する申し訳無さ、
子供の頃の自分の過ちを恥じ、母親が傷つくさまにより心をえぐられる。
子供の頃の自分のいじめを悔い、自分もいじめられたからこそ、
高校生になっている主人公は成長しているが、
それでも母親の変わらぬ愛が描かれることで涙腺をくすぐられる。

この作品はやり方によっては地味なストーリーになってしまいかねない。
変に重く、変に生々しく、シリアスな部分だけが伝わってしまうかもしれない。
しかし「山田尚子監督」の細かい演出が細部に光っており、
ストーリーを地味にせず、より生々しく明確にキャラの感情が伝わる。

あえて表情を描かず手の動きや主人公の「視線」を描くことで感情を描く事もある。
京都アニメーションの「作画」の制作能力に依存するだけではない、
演出でキャラクターの感情を描写するシーンは
「山田尚子監督」の凄さをひしひしと感じるポイントだ。

更に声優による演技。
悠木碧さんの男の娘演技は一瞬「悠木碧」と気づかないほど匠であり、
主人公演じる入野自由さんのどこか自信なさげな男子の演技は主人公に
より感情移入することができ、ヒロインを演ずる「早見沙織」さんの声の演技は
凄すぎて怖さすら感じるレベルだ。

だからこそ自然とストーリーに引き込まれる。
生々しいキャラクターの感情の機微がまっすぐに伝わり、
小学生時代の「負い目」のある彼らは、
成長したからこそその負い目にそれぞれ向き合う。

だが成長したからこその難しさもある、本当に現実的で本当に生々しい
登場人物のセリフがグサりと突き刺さる、
だが、そんな何気ないセリフも登場人物の感情が深く伝わるからこそ、
そういうセリフが出てしまうのも痛いほど分かってしまう。

腹黒いキャラクターの計算され尽くした行動やセリフすらも生々しい。
打算的な「女子」の計算さえもしっかりと見ている側に伝わるからこそ、
この作品は面白い。

終盤のキャラクターたちのセリフと行動は、
それまで重かったからこそシリアスだったからこそ、
その全てを取っ払うような感情のぶつけ方だ。
私はもう最後の30分間は涙腺が崩壊しっぱなしだった。

一人ひとりのキャラクターに感情移入してしまったからこそ、
抑圧しまくりな1時間40分だからこそ、
それが解放される最後の30分間の開放感が素晴らしく、
終わった後に素直に「見てよかった」と思える作品だ。

全体的見て驚くほど完成度の高い作品だ。
「障害者」に対する小学生同士の「いじめ」というものを真正面から、
変にごまかさずにストレートに描き、
そしてキャラクターを成長させることで過去の過ちに向き合わせる。

キャラクターの心理描写を表情と演出、
そして声優による演技で見ている側にストレートに伝え、
えぐるようなセリフをキャラクター同士でぶつけあわせる。
作品の世界観にぐっと惹き込まれ、
一人ひとりのキャラクターの行動やセリフの1つ1つが気になってしまう。

ストーリーも容赦がない。
小学生時代の大人の行動や言動、高校生になってからのキャラの関係性の変化、
明るいシーンは少なく、キャラクターに対し甘さがないストーリー展開は辛辣だ。
重くシリアスな内容であることは間違いない、
だが、その重さが不思議と苦ではない。

ただ人によってはシリアスな雰囲気が長く続く部分や、
あまりにも生々しいいじめの描写に耐えられない人もいるだろう。
その気持も痛いほどに分かってしまうのだ、あまりにも生々しい。
だが、その生々しさをごまかさずに描いたからこそ、
この作品はこの作品だからこその面白さを作り上げていた。

本来はメインではないサブキャラクターにすら涙腺をくすぐられる。
ヒロインの祖母や主人公の母親、ヒロインの母etc…
1つ1つがメインキャラに突き刺さるからこそ見ている側にも突き刺さる。

個人的にこの作品を映画館で見なくてよかったと思っている。
なにせ私、泣き過ぎである(苦笑)
一回涙が止まった後にまた涙が溢れるシーンが出てきてしまい、
もう終盤は人様にお見せできるような顔ではなくなってしまっていた(苦笑)
家でじっくりとBDで見て正解だった。

欠点らしい欠点はもう、これは人による好みくらいだろう。
びっくりするほど完成度が高く、何度も泣けてしまう。
ぜひ、色々な人に最後まで見てほしい。
素晴らしい作品でした。