評価 ★★★☆☆(55点) 全12話
あらすじ 社畜サラリーマンの村田コウタロウは、プロ野球チーム「千葉モーターサンズ」の本拠地球場、モーターサンズスタジアムで試合観戦を楽しむのを趣味としている。 引用- Wikipedia
1杯700円の人情物語
原作はモーニングで連載中の漫画作品。
監督は北村淳一、制作はEMTスクエアード
売り子
この作品の主人公は「ビールの売り子」だ。
野球を球場に見に行った方なら見かけたことがある人も多いだろう。
若いお姉さんが樽に入ったビールを背負いながら、
おじさんたちに高値で笑顔とともに売りまくる。
それがビールの売り子である(笑)
おそらく世界初のビール売り子が主人公のアニメだ。
アニメでもビールの売り子自体が出てくること自体が稀というか、
私の記憶でビールの売り子というものをアニメで見たことがない。
世界でも初の試みだろう。
主人公は「ギャル」な見た目全開でノリノリでビールをうっている。
そんな彼女にビールを売りつけられるのが「社畜サラリーマン」だ。
死んだ目をしながら野球を見つめる彼に、
主人公はビールを売りつけ、休憩がてらに会話をしている。
ビールの売り子というものを解説しつつ、
同時に試合は進行していく。
応援しているチームがヒットを生めば
社畜なサラリーマンの死んだ目にも輝きが生まれる。
どこか卑屈な彼に主人公は「応援」してくれる。
耳元での頑張れの一言、そんな応援をきちんとすることで選手にもきっと届く。
シンプルなストーリーラインではあるものの、きちんとした
キャラ立てとこの作品がどういう作品なのかを1話冒頭でしっかりと
感じさせてくれる。
主人公は見た目はギャルで積極的に社畜サラリーマンに迫るものの、
彼女自身は実はうぶだ、ビールを売るために、あくまで接客のためだ。
そんなウブさを隠しつつ、強気なギャルとして
常連な社畜サラリーマンと接する日々が続く。
グラウンド外
売り子にとっては常連が大事らしく、ある意味、キャバクラに近い。
指名料などはないものの、売り子は基本給プラス歩合な部分があるからこそ、
常連さんに自分から買ってもらうことが重要だ。
うぶなギャルな主人公は強気なギャルとして
社畜サラリーマンと接しながら、常連ができたことを喜ぶ。
いわゆるツンデレ的なかわいさが主人公にはきちんとある。
そんな売り子な主人公だけでなく、
この作品は「グラウンド」に立つ選手や監督ではない、
グラウンドの外にいるものに焦点を当てている。
ビールの売り子の主人公を中心に、観客たちや、
「警備員」や「弁当の販売店員」や「ウグイス嬢」など普段、
スポットが当たらない部分にスポットを当てている。
野球がテーマの作品ではある。
だが、そんなべたともいえるテーマを扱いつつ、
「試合の描写」はおまけ程度なのが本作品の魅力だ。
ハートフルなエピソードを積み重ねつつ、
野球球場という場所の「雰囲気」と「空気感」を感じさせてくれる作品だ。
お仕事
毎話、主人公を中心に様々な人物にスポットがあたる。
2話では元女子アナの女性にスポットがあたる、彼女は野球ファンが嫌いだ。
いやいやながら彼女は「旦那の応援」のために足を運んでいる。
選手としては年齢を積み重ねており、結婚のせいで、自分のせいで
成績が落ちたとは言われたくはない。
だが、彼女の旦那はファンからの評価が高くない。
若い女性のファンなんていない選手だ。
そんな選手を応援する人もいる。
野球選手自身ではなく、野球選手の妻にスポットが当たるアニメなど
この作品くらいだろう(笑)
独特の角度で野球、
そして球場という場所が切り取られており、非常に新鮮だ。
ビールの売り子というお仕事アニメとしての側面もあり、
ビールをいかに売るか、売り子同士の戦略もきちんと描かれている。
売り子にしつこくつきまとう男たち、
ファンと付き合う売り子、売るためにSNS戦略をする売り子、
売り子によってさまざまだ。
お仕事アニメとしてがっつりというわけではないものの、
ビールの売り子というものがどんなものかは知れるようんになっている
外国人選手
3話になると選手たちにもスポットがあたる。
外国からきた外国人選手、いつかメジャーリーグに復帰することを目指す彼は
チームとしての勝利より、個人成績のことばかり考えている。
そんな彼が「主人公」に一目ぼれしてしまう(笑)
グラウンドから見える観客席、
そんな観客席の女性に目を奪われ、ずっこけてしまう(笑)
グラウンドに立っている選手にスポットがあたっても、
グラウンド外とのかかわりのあるエピソードにしっかりとなっており、
この作品の選手にスポットがあたっても主軸がぶれない。
ビールの売り子の日常を描きつつ、観客の日常を描きつつ、
球場で働くものを描きつつ、野球関係者も描く。
短いエピソードが1話の中に詰め込まれており、
テンポよく描かれる日常は起承転結すっきりとしており、飽きさせない。
球場にはドラマがある、それは選手が生み出すものばかりでなく、
球場に訪れる全員が生み出すものだといわんばかりの
1話1話の物語が腰を据えた面白さを醸し出している。
後輩
この作品の話の軸はラブコメではない。
主人公と社畜なサラリーマン、そしてそんな社畜なサラリーマンを
王子様とみている弁当屋のバイトという三角関係はあるものの、
そこは主軸ではない。だが、いいスパイスにはなっている。
中盤になると社畜サラリーマンの後輩が出てくることで
ラブコメとしての面白さもほんのり出てくる。
既存のキャラを1回で使いすてにせず、
再登場させることでよりキャラクターに深みが生まれる。
野球選手の妻、警備員、球場に訪れる家族。
チームのホーム球場はファンたちが何度も訪れる場所だ。
だからこそ、1度きりの登場ではない。
話が進むとファン同士、関係者同士のつながりも
生まれ、話の幅も広がる。
短いエピソードを積み重ねてるがゆえに、
人によって当たりはずれのあるエピソードもあるかもしれないが、
1エピソードが短いからこそ、外れのエピソードでも気にならない。
作画
ただ、そんなエピソードに対して作画はあまりよくない。
作品的にハイクォリティな作画が求められるわけでもなく、
作画崩壊するわけでもないものの、たまにがくっと
クォリティが落ちるのは気になるところだ。
序盤から中盤は試合の内容はそこまで重要ではないのだが、
終盤は試合の内容が本編にもかかわってくる部分があり、
そんな中で試合の描写が止め絵の連続で
死んでいるのはもったいないところだ。
本編の作画よりもエンディングのダンスのほうが
気合が入っており、昨今のEDやOPでのダンス動画での
バズりを狙っていたのかもしれないが、
残念ながらバズることなく終わってしまっていた。
中身
基本的にはラウンド外の物語だ。
だが、この作品は野球アニメだ。野球選手の物語でもある。
そんな10話の物語は感動的だ。
かつてTTコンビと呼ばれていた二人、
一人は引退間近まで野球選手を続けており、子供も生まれる。
だが、そんな彼にはかつて「コンビ」と呼ばれる選手がいた。
そんなコンビと呼ばれる選手は鳴かず飛ばずで海外に行ったものの、
引退しており、元相棒にも何も告げていない。
ある日、子供が生まれることを告げるために電話をしたところ、真実がわかる。
元相棒はずっと彼のそばにいた。
もう選手ではない、だが、彼を支え、彼に時折アドバイスをし、
自らの素性を隠してまでチームの「マスコット」として支えてくれていた。
マスコットの「中身」にまで焦点をあてる
素晴らしい野球アニメだ。
CS
メインで描かれる「モーターサンズ 」は
今シーズンで初のCSへ進出がかかっている。
応援するもの、球場のスタッフ、選手、選手の家族や恋人、
多くの人たちがCS初進出にかけている。
選手たちも必死だ、ファンの応援も気合が入っている。
主人公も売り子という立場を忘れて応援する始末だ(笑)
だが、勝負の世界は甘くない。ご都合主義はない。
試合には負け、CSへの進出は逃してしまう。
来年こそはCSに。
選手と球場にいる人たちが一体になる瞬間を余すことなく描いている作品だ。
売り子たちの物語もラストまでしっかりと描いており
「就職」がきまって引退する子も出てくる。
売り子という仕事は長い間続けることはほとんどない。
しかも、シーズンオフの間はビールの売り子としての仕事もなく、
当然会うこともできない。まさに「水もの」だ。
最初から最後までそんな水ものなビールの売り子を中心に
グラウンド外物語と、グランド内の物語を
まっすぐに描いている作品だった。
総評:グラウンド外の物語
全体的に見て素晴らしい作品だ。
ビールの売り子を中心に描かれるグランド外で起きている人情物語、
序盤から中盤までファンやお弁当屋のバイト、うぐいす嬢、警備員や
選手の妻や恋人に焦点があたり、1エピソード1エピソードしっかりとした
面白さを感じられる作品だ。
終盤になると選手にもスポットがあたり、
特に「マスコットの中」の人物にまで焦点が当たるのは
本作品らしい視点だった。
作画のクォリティこそあまり高くないものの、
それが気にならないほどの独自性のある面白さがある作品だ。
どちらかといえばアニメよりも実写でやったほうが受けた作品かもしれない。
もしかしたらテレ東あたりで深夜ドラマとして放送されれば、
アニメ以上に人気になる作品かもしれない。
それもあって作品としてやや地味な部分はあるものの、
話が進めば進むほどいぶし銀の面白さがある作品だった。
個人的な感想:いぶし銀
1話の時点で独特な観点の作品だなーと思っていたが、
話が進めば進むほど面白さに厚みが生まれ、
終盤は思わず感動してしまうような感覚になる。
私は野球ファンではないものの、最後まで見ると
思わず「モーターサンズ 」 というチームの
ファンになってしまうような感覚になる作品だ。
スポーツアニメがあまり得意ではないという方は多いと思うが、
普通のスポーツアニメとは違う観点で作られてる作品なだけに、
ぜひ1度お試しいただきたい