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失われた本質「クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン 〜失われたひろし〜」レビュー

2.0
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評価 ★★☆☆☆(28点) 全100分

『映画クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン ~失われたひろし~』予告

あらすじ新婚旅行に行ってない事に今更気づいたみさえとひろしは、みさえが見つけてきたオーストラリアにあるグレートババァブリーフ島の家族同伴の激安新婚旅行ツアーにしんのすけ達と一緒に旅行に参加する。 引用- Wikipedia

失われた本質

本作品はクレヨンしんちゃんの劇場映画作品。
クレヨンしんちゃんとしては27作品目の作品となる。
監督は橋本昌和、制作はシンエイ動画。

変更

今作から主人公である野原しんのすけの声が
矢島晶子さんから小林由美子さんに変更されており、
野原ひろしの声もここ数年で変更されており、
「クレヨンしんちゃん」にも声優変更の波が来ている事を感じさせる。

冒頭はそんなしんのすけが父であるヒロシを迎えに来るシーンから始まる。
子供の頃から「クレヨンしんちゃん」という作品を
見てきたからこそ、主役の声優の変更というのは受け入れるまで
やや時間がかかってしまい、
私もしばらくクレヨンしんちゃん映画から離れていた時期がある。

しかし、すでに7年の月日がたっており、
今の子供たちにとっては今のしんちゃんの声が当たり前になっている。
そんな時代の変化の始まりをも感じさせてくれる。

新婚旅行

今作はタイトル通り、野原一家が新婚旅行に行く話だ。
結婚した頃はお金がなく、新婚旅行に行けなかった二人、
そんな二人が格安の新婚旅行に家族で郁子tになる。
話の展開としてはかなり自然な導入である一方で、
今回の舞台は「オーストラリア」だ。

始まってすぐにオーストラリアに舞台が移るため、
いつもの「春日部市」に済むキャラクターが殆ど出ない。
ほとんど野原一家とゲストキャラで完結させている映画だ。

序盤は新婚旅行を楽しむさまが描かれる。
だが、幼い「子供二人」を抱えてるからこそ、
ストレートに楽しみ切ることは出来ない。
子供のトイレだったり、赤ん坊の世話だったり。
「新婚旅行」ではあるものの二人きりではないうえに新婚でもない。

長年連れ添っている夫婦だからこそ「いまさら」と思う部分もあり、
素直に相手に愛を伝えることも出来ない。
楽しいはずの新婚旅行なのに二人はどんどんと険悪になっていく。
夫婦である前に、二人はもう父であり母だ。
それゆえに夫婦喧嘩にまで発展してしまう。

このあたりの妙な生々しさを感じさせる部分は
見ている子供たちよりも一緒に見ている両親を
共感させようとしている部分なのはわかるものの、
細かいギャグなどはあるものの、この辺りの展開はやや淡々としており、
話が動き出しそうで動かないもどかしさを感じる序盤だ。

これでTVSPか何かで新婚旅行に行って喧嘩したけど仲直りして
帰ってきましたくらいの話ならば納得できるものの、
映画としての序盤30分の退屈さは厳しいものがあり、
特に笑いどころもなく、物語が進むわけでもない
新婚旅行の模様がだらーっと描かれてしまう。

特にひろしがみさえのためにダンスをするシーンがあるのだが、
本当に長いうえにくどい。
30分たってようやく映画としてのストーリーが動き出し、
謎の部族に「ひろし」が誘拐される。

映画の3分の1がすぎて話が動き出すのはあまりにも遅い。

原住民

「野原ひろし」は原住民に「花婿」として誘拐されてしまう。
トレジャーハンターたちも何故か花婿である「ひろし」を狙っており、
なぜ野原ひろしなのか?原住民の目的は?トレジャーハンターの目的は?
と、ストーリーが動き出したことでようやく話の面白さも垣間見えてくる。

トレジャーハンター、原住民、そしてみさえたちと
「野原ひろし」を巡る三つ巴の争いが起こり、
クレヨンしんちゃんらしいアクションシーンも描かれるものの、
いまひとつパンチがない。

おそらく意図的ではあるが過去作品のオマージュのようなアクションシーンが多い。
「ブリブリ王国の秘宝」「嵐を呼ぶジャングル」などで
見たことがあるようなアクションシーンばかりで、
既視感が強く面白みにかけてしまい、インディージョーンズや
マッドマックスなどの映画のパロディをしているのはわかるが、
それが面白みになるわけでもない。

お宝をめぐる物語だからこそインディージョーンズのパロディをしているのは理解できるが、
マッドマックスのパロディに関してはなぞでしかない。
チェイスシーンがあるからこそ取り入れたのかもしれないが、
そのあたりのぱろでえぃやセルフオマージュが効果的に作用していない。

みさえ

今回の主役はみさえだ、しんのすけではない。
彼女が妻として、母として、この作品の中心に居る。
それを強調するかのように仲間のトレジャーハンターがみさえに問いかける

「子連れの貴方には絶対ムリ」

ことあるごとに、こういった子供が居るということや
母の大変さを強調させるようなシーンが非常に多く、
映画に来ているお母さんに向けたメッセージであるのは分かるものの、
それがかなり露骨だ。

この作品は「みさえ」を中心に置きすぎだ。
みさえの「本音の吐露」のシーンも、母には伝わるかもしれないが
子供にはまるで伝わらないだろう。
「クレヨンしんちゃん」という作品の主人公はしんのすけだ。
それを忘れてはいけない。

この作品はそこを完全に忘れ、本来は主人公であるしんのすけを
道化にすることでギャグシーンやトラブルを起こしアクションシーンの
きっかけにしていることも多く、やや鼻についてしまうキャラになっており、
ゲストヒロインに関しても性格が悪く、余り魅力的とは言えない。

誘拐された「ひろし」を追いかけるというシーンも長く、
その道中に色々と敵が襲ってきたり、アクションシーンはあるものの、
そもそもの「敵」に魅力がなく、色々なトレジャーハンターも出落ちで終わる。
美しい姫と結婚させられる、働かなくてもいい。
そんな誘惑を「ひろし」は受ける。

だが、みてる側としては「ひろし」が「しんのすけ達」を
守るために嘘をついていることが大人ならわかってしまう。
妙にBGMがないセリフだけのシーンも多く、
それが作品全体の盛り上がりの無さにもつながっている。

終盤で野原ひろしが「花婿」にされた理由とお宝の正体が明らかになる。
この要素に関してはクレヨンしんちゃんらしいバカバカしい要素であるものの
それと同時に描かれる家族愛の強調がやはり鼻につく。

家族愛

野原ひろしにとってのお宝、それはみさえであり、
しんのすけなど放って置いて「みさえ」とラブラブなシーンを繰り広げる。
見ているこっちが恥ずかしくなるほどのラブラブっぷりは、
本来のクレヨンしんちゃんならギャグになるはずが、
今回に限ってはギャグにはならず、ガチでラブラブシーンを繰り広げる。

姫との問題もなんやかんやであっさりと解決してしまうのは
脚本の甘さを最も感じる部分だ。

60分くらいの尺に収めてTVSPなら悪くないと思えるかもしれないが、
90分の映画としてはテンポの悪さやギャグの微妙さが気になり、
なにより「しんのすけ」の影の薄さが気になる作品だった

総評:みさえが主人公は….

全体的に見て悪い意味でクレヨンしんちゃんらしくない作品だ。
この作品は明らかに「子供向け」ではなく「大人向け」に作られている。
それも「夫婦」であり「親」に向けた作品だ。
親であることの大変さ、母であることの大変さ、
その中でひろしとみさえの夫婦愛を再認識させるような物語が描かれている

それが「クレヨンしんちゃん」としての面白さにはなっていない。
たしかに過去作でも家族愛や父親や母親を強調して描かれた作品はあったが、
常に中心には「野原しんのすけ」という主人公が居た。
しかし、今作の中心は完全に「みさえ」だ。

そのせいでギャグがかなり薄く、アクションシーンも
過去作品で見たことのあるようなオマージュや
インディージョーンズのパロディなどに頼り、パッとしない。
クレヨンしんちゃんという作品でおなじみのキャラも殆ど出ず、
かといってオリジナルのキャラが際立っているとも言えない。

クレヨンしんちゃん映画は「敵」の存在が魅力的なことも多いが、
今作の敵はまるで魅力がない。ただお宝を求めてただけだ。
トレジャーハンターも出オチで終わっており、
ゲストヒロインでさえ魅力が薄い。
キャラ描写が徹底的に浅い作品だ。

本来の主人公を脇役にしてしまったことで
「クレヨンしんちゃん」という作品の中で
このストーリーを描く必要があったのだろうか?と思うほど
普遍的かつ平凡なストーリーでしか無い。

ところどころ笑える部分があるのがせめてもの救いだが、
映画としての面白さも、クレヨンしんちゃんとしての
面白さにも欠けてしまう作品だった。

個人的な感想:うぅーん

あくまでクレヨンしんちゃんは子供向けであり、
ギャグアニメだ。私のわがままかもしれないが、
大人向けで感動路線なクレヨンしんちゃんは求めていない。

かつて暗黒期と呼ばれた時代にも「みさえ」をメインに据えて
物語を展開していたが滑っていた作品があったが、
「みさえ」はメインにそえるのには非常に難しいキャラなのかもしれない。