評価 ★★★★☆(75点) 全106分
あらすじ 太平洋戦争末期の昭和19年、21歳の日本兵・田丸均は、南国の美しい島・ペリリュー島にいた。漫画家志望の田丸はその才を買われ、亡くなった仲間の最期の雄姿を遺族に向けて書き記す「功績係」という任務に就いていた 引用- Wikipedia
生還率0.34% 美化しない戦争映画
原作はヤングアニマルで連載していた漫画作品。
監督は久慈悟郎、制作はシンエイ動画、冨嶽。
戦争
この作品は、太平洋戦争中の1944年9月15日から11月27日にかけて行われた、
ペリリュー島での日本軍守備隊とアメリカ軍による陸上戦闘が舞台になっている。
ファンタジーではない、「リアル」な戦争そのものが描かれる作品だ。
そんな舞台とはうって変わって、キャラクターデザインは可愛らしい。
三頭身でシンプルなキャラクターデザインであり、
そんなキャラデザで裸になるシーンもあり、可愛らしい陰部まで映し出される(笑)。
だが、そんな和やかな空気の直後に空襲警報が鳴り、一気に緊張感へと引き戻される。
この「ギャップ」こそ、本作品最大の魅力の一つだ。
さっきまで裸でふざけ合っていた兵士が、次の瞬間には命を落とす。
それが「戦場」という場所であり、日常と死は紙一重だ。
その落差を生み出しているのが、このキャラクターデザインである。
新聞の4コマ漫画のような親しみやすい絵柄なのに、
リアルな兵器の描写、重苦しい銃声、そして容赦なく奪われていく命。
可愛らしいキャラクターだからこそ、その悲惨さがより際立つ。
爆弾で黒焦げになり、砲撃で四肢が損壊する。
リアルな人物描写だったら目を背けたくなるようなシーンも、
このデザインだからこそ最後まで見届けることができる。
可愛らしい絵柄は悲惨さを和らげるためではない。
戦争の残酷さを、より強く突きつけるための表現になっている。
功績係
主人公は兵士として戦地に赴く前は漫画を描いており、
その経験を生かされ「功績係」に任命される。
戦場で死んだ者たちがどう死んだのかを遺族へ伝える。
その際に「功績」を創作する仕事だ。
国のために命を落とした者たち。
そんな最後が間抜けではいけない。
勇猛果敢に、英雄として、日本を思い命を燃やした。
そんな物語を主人公は作り続ける。
敵も味方も命を消費していく。
この作戦に勝利はない。
ただ時間を稼ぐだけの戦いだ。
国家や軍によって、あまりにも軽く扱われる命。
そこに英雄など存在しない。
「僕もこんな死に方をしたくない」
無数の命が失われる中で、主人公は自然とそう思うようになってしまう。
いつ自分が死ぬか分からない。
追い込まれる戦況、少ない物資。
米軍からは降伏勧告もばらまかれる。
だが、それに従うことは「日本」を裏切ることでもある。
国のために命を捧げることこそが名誉である。
そんな価値観の中で兵士たちは戦い続ける。
仲間たちが死にゆき、物資もない。
主人公である「田丸」と同期である「吉敷」は、
それでも必死に生き抜いていく。
命じられるまま戦い、命じられるまま敵を殺す。
二人が生き残っていたのは「たまたま」でしかない。
生き残る
特攻を命ずる隊長がいなくなったことで、状況は変わる。
生き残った兵士たちは新たな部隊を組み、
米兵の物資を盗み出すことに成功する。
だが、それでも状況を打開できるものではなく、ただの持久戦だ。
ペリリュー島という島だからこそ逃げ場はない。
いつか増援がやってきた時に米軍を倒す。
その「いつか」のために生き抜くしかない。
いつ来るか分からない「いつか」を、
生き残りである彼らは待ち続ける。
彼らにはそれぞれ夢があり、待っている人もいる。
そんな仲間と二年もの歳月を過ごしてしまう。
その間にも病気や怪我で命は失われていく。
彼らは待つことしかできない。
終戦
彼らは米軍の新聞を見つけ、「一年前」に終戦していた事実を知る。
その事実を受け入れることはできない。
国のために戦い、命を捧げ、待ち続けてきた。
それなのに、日本が敗北していた。
命を捧げた仲間たちのためにも、
先に逝った者たちのためにも、
その事実を認めることはできない。
そこには現代とはまったく異なる命の価値観がある。
教育や軍の規律によって形作られた価値観だからこそ、
彼らは命を捨てることすら名誉だと信じている。
だが、それを疑う者もいる。
本当に戦争が終わっていたのなら、
この持久戦に意味はない。
主人公である「田丸」と同期の「吉敷」は、
米軍へ投降する決断を下す。
だが、それを仲間が許すわけがない。
同じ日本軍でありながら、
価値観の違いだけで命を奪い合うことになる。
戦争は終わっている。
投降すれば助かる命だ。
それでも受け入れられない彼らの姿が、
戦争というものの恐ろしさを物語っている。
敗残兵
米軍へ投降し、主人公は戦争が終わっていることを知る。
だが、その真実を知るにはあまりにも遅かった。
終わっていたのに、
死ななくてもよかった命が失われてしまう。
それが「敗残兵」という存在だ。
投降すれば罪になる。
そんな日本軍だったはずなのに、
戦争が終わった日本は、むしろ投降を勧めている。
彼らに罪はない。
「Crazy」
米軍が放つこの一言は、
日本軍だけではなく、戦争というものそのものを表している。
敗残兵たちは真実を受け止められない。
彼らが最後まで守ろうとしたものは、
国と同じくらい大切だった家族だった。
ペリリュー島へ派遣された日本軍は約1万人。
そのうち生還したのはわずか34人。
その事実と、生き残っても帰ることができなかった者たちの思いを、
106分という尺の中で痛烈に描き切った作品だった。
総評:戦場に英雄はいない
全体的に見て、非常に重い作品であることは間違いない。
ペリリュー島の戦いという、「史上最も悲惨な戦場」の一つを、
真正面から描いている。
あっさりと散っていく命。
国のために命を捧げる若者たち。
そして「あまりにも軽く扱われる命」。
終盤、敗戦という現実を受け入れられない兵士たちの姿は、
「リアル」という言葉では足りない。
これは現実に起きた出来事なのだ。
我々現代人には理解し難い価値観も、
当時の教育や時代背景の中では「正義」だった。
だからこそ、この作品は単なる戦争映画ではなく、
戦争が人の価値観そのものを変えてしまう恐ろしさを描いている。
死んだ兵士を英雄として語ることはできる。
だが、どれだけ美しい英雄譚を作っても、
失われた命は戻らない。
だからこそ、戦場に本物の英雄はいない。
そんな重いテーマを、
あえて親しみやすいキャラクターデザインで描いたことにも意味がある。
もし写実的な絵柄だったなら、
悲惨さばかりが前面に出てしまっただろう。
可愛らしい絵柄だからこそ兵士一人ひとりを身近に感じ、
だからこそ、その命が失われるたびに胸が痛む。
このギャップこそ、本作品だからこそ生み出せた表現だった。
個人的な感想:見逃した…
去年の公開時はタイミングが合わず見に行けなかったが、
これは劇場で見るべき作品だった。
最近はこういう見逃しがないよう積極的にアニメ映画へ足を運んでいたが、
久しぶりにやらかしてしまった。
スクリーンで体験してこそ、より強く胸に刻まれた作品だったと思う。
現在はNetflixで配信が始まっているので、
まだ見ていないという方はぜひ見てほしい。


